野分(二)
丈高い草、いっせいに靡き伏し、石らことごとくそうけ、遠い山腹のあか土の崖は、昼の月をかざしてふしぎに傾いて見えた。ああ、いまもまた、私から遠く去り、いちじんの疾風とともに、みはるかす野面の涯に駈けぬけて行ったものよ。私はその面影と跫音を、むなしく、いつまでも追い求めていた。ついに、再び相会うなき悲しみと、別離の言葉さえ交さなかった悔恨に、冷たく、背を打たせ、おもてを打たせ。