ねこたび日記

2023年5月21日(日) 快晴 
いよいよ最終日です。羽田出発から数えると11日目。今回は長丁場な旅でした。
今日は高松発の最終便で帰る予定。最後の日の目的地は豊島(てしま)です。
豊島は、備讃瀬戸の東側。あの小豆島と隣接する周囲20km弱の島でオリーブや柑橘類栽培と漁業が中心の島ですが、瀬戸内国際芸術祭の会場となって以降、会場となった島々の中で直島についで多くの来場者があったことから「アートの島」として有名になり、近年では外国からの来島者もかなり増えています。
ここに行くのは当然船便ということになるのですが、高松から出ているのは一日4便のみ。
その代わり本州側の岡山県宇野からは小豆島行きの6往復の船便があって、その途中で豊島に寄港します。観光客は岡山側から入る人が多いようですね。
島には家浦、唐櫃(からと)、甲生(こう)という三つの集落がありますが、港があるのは家浦と唐櫃。
高松からの船は家浦に着き、宇野からの船は家浦・唐櫃の両方に寄港します。
私が今回この島に行くことを決めたのは、知人の猫写真家から「豊島の猫は懐っこい子が多い」と聞いたから。
猫の数自体は決して多くない島ではあるのですがフレンドリーな猫が多いという。それなら一度行ってみたいな、と。
高松港発の朝一便は7:41出航。
この後にも9:07発というのがあるのですが、それだと島での滞在時間が短くなるのと島に着くのが10:00近くなってしまう。というのも今日は晴れの予報でしかも気温がかなり上がるという。27~8℃になるかもしれないそうなので早く着きたい…

高松からの便はフェリーではありません。高速旅客船「まりんなつ」。朝7時過ぎというのに港は海霞み。これは今日は暑くなりそう…。

高速船、速い速い。(^^;
最後の日はフェリーでのんびり船旅を楽しみたいところだけど就航してないんじゃ仕方ない。35分で家浦港に到着。
乗客は30名ほどでしたが、ほとんどの人がアート目当て。
私のように猫目当てで来た人は皆無のようで。(^^;

まだ朝8時というのに刺すような陽射し。こりゃこの10日間で一番暑いんじゃないかい?(^^;

港の周辺には観光客が散ってしまうと人っ子一人、猫の子一匹見えなくなりました。そう港の近くに猫はいなかった。(^^;
船の上にアオサギはいたけど。

家浦集落を歩いてみます。

ここはアートの島であるので、現代アートの作品をひとつひとつ見たい気もするんですが、それをやっていると猫探しの時間がなくなるし風景写真も撮れなくなっちゃう。だから今回アートには目をつむって?まずは猫探しに専念。

猫がいそうな場所…というのは長年島めぐりをしているとなんとなくカンでわかるようになってきてます。見当をつけて歩きまわること20分ちょっと。
あは♪いました。

フライパンの前に佇んでいる猫。

どうやらこのフライパンは猫用に置いてあるみたいで。水が入っていたようです。「何か?」という顔で見られてしまいました。
ちょっと歩くとまた一匹。

このサビちゃんは飼い猫かな?私が近づいても全然逃げませんでした。ナデナデもOK。

ただ何分にも暑いんですよね。こんな感じだからこの辺は猫が多そうだけど、この暑さで日陰に入り込んでしまっている子が多そう。ちょっとこれは想定外。
それでも、海沿いに歩いていたら…茶白がいました。

この子もけっこう懐っこい。やっぱり飼い猫なのか、少なくとも世話をしている人がいそうですね。左耳カットされてます。女の子かな。
ジャラシ振ると遊んでくれました♪

ちょっとこの子と海を一緒に撮りたいな~、と思ってジャラシを引きずりながら先に立って歩いていくと…。

ついてきました。誘導成功。(^^;
突堤に繋がっている道を下ります。

暑いけど…海はきれいでした。しばらくモデルさんしてもらいます。

なかなかフォトジェニックでした。この子。目線のくれ方が本職のモデル並み♪

ありがとうね~。いろんなアングルで撮らせてくれました。
ちょっと多めにモデル料をお支払いして…。(^^;
この島の子は人懐こいと聞いていましたけど、ほんとですね。初対面で広角レンズを駆使して撮らせてくれる猫ってそう多くない。
茶白ちゃんにお礼を言って、またちょっと歩きます。
しばらく歩いた先に…民家の向かいにある木陰。そこに、

数匹の猫たちが休んでいました。

この子たちもどことなく人懐っこそう。私が近づいて行っても逃げません。
と、
「猫見に来たの?」
と初老のご婦人から声をかけられました。

「今これだけしかいないけどねぇ。お昼過ぎになるともっと集まって来るよ。ご飯あげるから」
この方がここで猫たちの面倒を見てあげているそうです。家の中に入って来る子も数匹いるそうな。
「昔はどこの家でも猫飼っていたんですけどね。人も減って漁に出る船も減って…」

近年アートの島として有名になった豊島ではありますが、過疎化と高齢化は他の島以上に深刻なのだそうで。島のアートを手がけているのは全て島外の、四国本土や本州の人ばかりなんですよね。「素」の姿の豊島はやはり他の島と同じように高齢化に悩む島なのです。
だからかな、耳カットされた子が目立つのは。

瀬戸内の島を毎年巡っていて思うことですけど、10年後にはこの美しい島々はどうなっているのだろうかと。佐柳島のように若い(と言っても40・50代だけど)世代がコミットしつつある島や大都市松山の近傍で常に人に行き来がある睦月島のような島を除くと、島全体が「限界集落」となっているところがほとんど。昨日訪れた塩飽本島もそうです。
今回は訪れませんでしたが、あの愛媛の青島も私が初訪問した8年前は16人いた島民が今は5人。これは極端な例であるにしても、どこの島も人は減ってしまっている。
「観光」が地域活性化の起爆剤になると言っている人が多いですけど、その観光にも限界があります。なぜなら瀬戸内国際芸術祭以降アートで有名になった瀬戸内ですけど、それが新たな人の島々への移住を促すことにはなっていない。しょせんアートを組むのは本土の人間であり、イベントが終われば四国本土なり本州なりに帰ってしまう。島に定着してくれる人はほとんどいない…。お金だけ落ちてもダメなんですよね。「人」が居ついてくれないと。経済効果と人の流れは別物です。
ただこれは、瀬戸内だけの問題ではなく日本全体の問題なのかもしれません。人口が減っている日本。その減っている人口が東京や大阪などの大都市だけに偏って集まっている。地方は荒れて行くばかり…。
今の瀬戸内の姿は日本の縮図のように思えてならないのです。
「地方創生」と口では言いながら、東京一極集中を改めようともしない政府。目先のことばかりでなく、もっと地に足をつけてことに当たる政治家は出ないのかなぁ…。
「ありがとうございました。昼過ぎにまた来ますね」
ご婦人にお礼を言って、また港に戻ります。
そう、せっかく来たのだから風景写真も撮りたい。
港でレンタサイクルを借りて、島を一周してみましょう。
豊島は一周20km弱の島。自転車を使えば休み休みでも2時間ほどで回れます。道はアップダウンがありますが、幸いここの自転車は電動アシスト付き。
電動アシスト付きの自転車って4時間までというところが多いですね。なんでもバッテリー容量の関係でそれ以上だとバッテリ―切れになる恐れがあるからだとか。
右回りで行きましょうか。家浦を出るといきなり上り坂。(^^;
電動アシスト付きじゃなかったら音を上げそうな坂でした。やがて着くのが硯(すずり)地区。道から坂を下ったところに集落があります。
石垣で組まれた壁が趣あります。

暑いせいもあるんでしょうが、外に出ている人をあまり見ませんでした。犬だけがやたらわんわん吠えていたなぁ。(^^;
浜に出てみました。

対岸は本州。あの山の向こうは岡山市です。ここはむしろ四国よりも本州に近い。行政区分は香川県小豆郡土庄町。そう小豆島と同じ。
あれは小豆島の土庄から来た船かな…。
それにしても暑いですね。(^^;
30℃近いんじゃないだろうか??

いくつかのアップダウンを超えて唐櫃地区の入口へ。
その手前の豊島美術館の横、まるで海に飛び込むように続いている道。その名の通り「海に飛び出す道」と呼ばれているそうな。

そのすぐそばにある棚田。これはもともとは荒廃していた休耕田をボランティアの手によって蘇らせたものです。

私はアートよりも…こういう風景が好きです。

唐櫃の港。宇野や小豆島からのフェリーもここに着きます。

折から到着した船からはたくさんの外国人観光客が降りてきました。家浦では外人さんなんかほとんど見なかったんですけどね。(^^;
皆さん小豆島に泊ってここに来たのかな?
唐櫃は集落としては家浦よりも大きい。でも静かでしたね…外人さん一行が通り過ぎた後は静けさが。

ここも猫がいるとは聞いていたんですが、この暑さのせいかなかなか見つからない。一匹だけ軒間に入っていくのを見たんですけど写真は撮れませんでした。(^^;

港の日陰で休みながらおにぎりを食べていたら、さっきのフェリーで来た人が(日本人です)、私にこう訊いてきました。
「あの~、『心臓音のアーカイブ』ってどこですか?」
私はアート目的で来たわけじゃないんで残念ながら知りません。でも自転車を借りる時にもらった島のガイドマップを見ると、どうもそういうアートがこの近くにあるらしい。マップ見てみたら…あった!
「あ、ここですね」
「ありがとうございました~」
私も行ってみようかと思ったけど、たぶんさっきの外人さんの団体でごった返してそうだからパスすることに。ちなみに入場料は520円だそうです。
ちなみに唐櫃地区というのはアートの数が多くて、それを目的に来た人には時間がいくらあっても足りないようなところ。せめてもう一日日程が取れれば私も見に行ったかもしれない。
ちょっと一休みしてから唐櫃の集落を後に、再び山道へ。
30分ほど走ると大きく道は弧を描いて南へ。時折見える海も徐々に本州側から四国側に変わってきます。

しかし昨日今日と自転車で走り回ってるわけですが…二日続けてサイクリングというのも久しぶりだな~。たぶん明日か明後日、家に帰った後に筋肉痛に悩まされることになるでしょう。(^^;

瀬戸内は年間通じて晴れが多い。小学校の社会科の時間に習いましたよね?「瀬戸内式気候」って。
同じ四国でも高知などの太平洋側に比べると驚くほど雨が少ない。加えてカラリとしていて湿気がない。だから香川あたりは「ため池」が多いなんてことも授業で習ったな~。
だから太陽光発電には最適な場所なんですよね。あちこちで巨大な太陽光パネルを見ます。

でもここの太陽光パネルは不思議に景観にマッチしていて不自然さを感じさせません。北海道あたりだと太陽光パネルって不似合いに見えちゃうんですけどね。不思議。
島の南側まで来ると、見える風景が変わってきます。海の向こうに見えるのは四国高松方面。

中央やや右手に見えるのは五剣山、そこから右手には屋島。画面外の右手が高松市街になります。右端にちょっと見える島は男木島ですね。
このあたりは甲生(こう:塩飽本島にも同じ名の集落があります)と呼ばれる地区ですが、オリーブ畑が目立ちます。

甲生の集落で一休みして、家浦に戻ります。
いいサイクリングでした。疲れたけど。(^^;
時間は13:30過ぎ。
自転車を返すリミットタイムまではまだ間があるので、さきほどの猫だまりに行ってみました。
もうお昼ご飯は終わっちゃったかな?

確かに午前中に教えてもらったとおり、猫の数は増えていました。ざっと倍。(^^;

さきほどのご婦人がお宅の玄関から顔を出していたので、ご挨拶をしてまた猫たちの写真を撮らせてもらうことにしました。
ちょっと暑いんだけど…モデルさんしてくれる子も♪

この子はすごくきれいな白猫で…しかも優しそうな顔。女の子だそうです。避妊はしてないみたいですね。
下の子は同じ白猫ですけど、上の子の姉妹かな?
白い子が多いですね、ここは。

毛色が白い方が暑さには強い?
ンなことないか。(^^;

キジトラが数匹。こっちはもっぱら日陰で。
毛並みはきれいですね。

茶トラさんはひょうきん者♪

ここはもともと作業をするための場所なんだそうですが、普段はあまり使わないのでもっぱら猫たちの遊び場所になっているそうです。
猫が好きそうなスロープというかすべり台というか。
遊び場兼爪とぎ場所なんだそうで。(^^;

後は港から続く入り江になっていて何艘か船がもやってありますね。やっぱりこんな風景と猫って似合います。

十数匹の猫のグループ。これを束ねているボスはというと…四匹いる白猫の中で一番体の大きなこの子。

女の子なんですがカンロクがあります。女親分というか姐御というか。

他の子にお説教垂れてたりして。(^^;

こうやって猫たちを撮っていたら、先ほどの家の方が、
「3時の船で帰るのよね。ならこれ、よかったら船の中で食べて行って。今作ったばかりなんだけど」
とビニールにくるんで渡してくれたのは、

ほかほかの柏餅でした。
ありがとうございます!
気が付けばもう14:30。帰りの船の時間まであと30分ちょっと。猫たちと戯れていたらあっという間に時間が経ってしまった…。

この春の瀬戸内猫旅もいよいよフィナーレ。
11日間、いや初日は移動日だったから正味10日間でしたが今回は長い旅でした。でも充実してましたね。いったい何枚の写真を撮ったのだろう?たぶん1,000枚は下らないでしょう。でもどれ一枚として惰性で撮った写真はないはずです。同時に目を▼にしてファインダーにかじりついて撮った写真もないはず。
つねに猫たちと一緒の柔らかな空気の中で微笑みながら撮った写真です。笑って猫たちと相対して撮った写真ばかり。

「なんでわざわざ遠くまで猫なんか撮りに行くの?」
いろんな人に言われますね。いや自分の母親にまで。(^^;
「猫なんかその辺にいるじゃない」と。
そう、自分の家の近くにも猫はいる…だけじゃなく、私が自分の心の友としているような猫たちが。
だから、ただ猫を撮るというだけであれば遠出する必要はないのです。咲やミーちゃんたちがいるんだから。いや正直、これだけ長い日程になると彼女らと離れているのはちょっと寂しい思いがする瞬間もないではありません。

確かに一写真家としては、町中にいる猫たちと違い瀬戸内の島に暮らす猫たちの姿はやはり別物として引かれるものがあるんですよね。
でもただそれだけのことだったら、おそらくこんなに頻繁に通うことはなかったかもしれない。瀬戸内の島に通うようになって感じたのは、そこで暮らす猫たちのおおらかさとともに、その島に暮らす人の優しさ。この柏餅に象徴されるような…。

9年前の最初の猫旅で異郷から猫の写真を撮るために来ただけの私を暖かく迎えてくれた島の人の優しさが忘れられなくて、島通いがやめられなくなったんでしょうね。そして島猫たちのおおらかさはその島の人たちの優しさを映したものなのだということを知るにつけ、なおさらその思いに輪をかけることになって。
つまり、私は「猫の写真を撮る」ためにここに来るのではなくて、猫たちと、その猫と一緒に暮らす島の人たちと会いたくて瀬戸内通いがやめられなくなっている…のでしょう。
そして旅から帰るといつも思うのは…
「やっぱり一番かわいいのは咲だ、ミーちゃんだ」
ということ。
猫を飼っている人が「やっぱりウチの子が一番!」と口をそろえて言うように。
旅に出るたび、それを再認識して帰ってるような。(^^;
港で自転車を返して、Sさんに電話をしたら
「咲ちゃんもミーちゃんも元気にしてるよ。早く帰ってきてあげて」
と。
そうだ、咲たちが待ってるんですよね。帰らなきゃね。(^^;

10日間、楽しい旅でした。今回もたくさんの方々にお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。
次は10月末か11月半ばか…台風の季節が終わって秋が深まる頃にまた来たいと思います。
島の小道に降り注ぐ陽に温もりを感じるような季節に。
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