「みかん・絵日記」考

〜我が家の動物誌〜

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私が使用しているハンドルネーム、「草凪みかん」。
これが何を意味しているでしょう?と質問したら、おそらく男性の鉄道写真家の方々だと正答率は5%以下だと思います。(^^;
ネイチャーフォト、特に動物写真をやっている人のほうがいくらか率は高いかな?
中には、静岡県の大井川鐵道によく出かけるから地名の「草薙」の一字を変えて静岡名産の「みかん」を組み合わせたものだと思っている人がけっこうおられるようで。でもソレは全くの見当違いで。
どちらかというと、男性よりも女性のほうがピンとくるでしょうね。それも、現在(2014年)30代から40代前半の女性なら正答率は80%を超えるでしょう。
なぜならば、もともと「草凪みかん」というのは少女漫画の主人公キャラクターだからです。
1988年から1995年まで少女向け雑誌「LaLa」に連載された(途中休載期間あり)、安孫子三和さんの描かれた「みかん・絵日記」という漫画。(偶然にもなぜか掲載期間が「C62ニセコ」の運行期間とダブっている)
主人公が猫。といってもタダの猫ではありません。二本足で立って歩き、人間語を話し、しかも大の酒好き!(ここがポイント)というトンデモナイ猫で…。ひらがなと数字が書けて(ただし足し算引き算はできるけど九九はできない)、クレヨンとペンで絵日記をつけているというこの猫が、一家揃っておっとりした性格の草凪家の飼い猫となってご近所の人々や猫仲間とのちょっと奇妙な日常生活が描かれていく作品です。
安孫子三和さんの漫画というのは(実はこの作品をきっかけに全部読むようになったのですが)ファンタジー系の作品が多いです。ただ、ファンタジーといっても最近流行りのやたら戦闘シーンばかりの血の気の多いモノではなく、ほのぼのとした夢のある優しい世界を描いています。
この「みかん・絵日記」は、猫がしゃべるという設定だけがファンタジーで、描かれているのは本当に日常的な世界。ある意味「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」と一種共通した世界観があるような気がします。バーチャルやSFではなく、あるいは大恋愛でもなく、「本当の幸福は日常の中にあるんだよ」ということを猫の目を通してほのぼのとした雰囲気の中で気付かせてくれる、そして時には涙を流させてくれる、あるいはさまざまなことを考えさせてくれる作品でした。昨今では子供向けの漫画の中にもどことなく殺伐とした醒めた感じのある作品が増えましたが、それとは対照的に全編に「やさしさ」の漂っている作品ですね。

「みかん・絵日記」 9巻

「日常の中の小さな幸せ」。普段忙しく生活しているとついつい忘れ去ってしまうものですが、私はこの言葉が好きです。
遠大な夢としての、あるいは目標としての「大きな幸せ」も大切ですが、普段身近に何気なく転がっている「幸せ」も大事なんじゃないかな、と。忙しさの合間にふとそれに気付いた時、人は束の間でも大きな安らぎを得るのではないでしょうか。それに気付いているかいないかが、その人の「多幸感」の差になって現れる、そんな気がするのです。
話は逸れますが、私がさまざまな歌手の中でイルカが最も好きなのも似たような理由です。イルカの、特に初期の作品というのはむしろラブソングなどよりも日常や自然を唄い、それに夢を持たせた曲が多い。時には明るく、時には沈思して。
少なくとも、普段「当たり前」と感じていることに改めて視点を向けてみる…そうすることによっていろいろなものが見えてくるというのは確かですね。
さて、この「みかん・絵日記」という作品、私は当初から知ってたわけではありません。
それを知ったのは連載が開始されて第一期(単行本でいうと9巻まで)がそろそろ終わるという1991年の春先だったと思います。
まだちょっと肌寒い日。久しぶりに荒川で小学校のクラス会があって、オレンジ色のセーターを着て、これまたオレンジ色のディバッグを背負って出かけていったんですが、来ていた女の子(と言っても私と同級生だから「それなりの」年齢ですが)に「あ、みかんちゃんだ〜!」と言われて、私は目がテン。
「なにソレ?」
「え?知らないの〜?猫好きだったでしょ?」
訊いてみると、オレンジ色の猫が主人公の漫画があるんだという。そう言われても、私はそれまで少女漫画にはほとんど興味なかったし読んだこともないから知るワケがありません。
「読んでみなよ〜、面白いし、かわいいから!」
小学校時代、私の猫好きは有名でついには「ネコ」というあだ名を頂戴したほどでした。同級生の間ではず〜っとそのイメージが頭にこびりついているようですね。(^^;
この時はさほど気にもとめなかったのですが…。
それから何ヶ月か経って、奥歯の痛みに耐えかねて歯医者に行った日のこと。
これから受けるゴーモンの恐怖を紛らわせるために?待合室の書棚に並んでいる漫画本に目をやりました。と、そこにあったのは「みかん・絵日記」の2巻でした。
「へ〜、これがあの子が言ってた漫画…」
ちょっと興味半分で目を通してみたんですが、これが面白い。ついつい読みふけってしまい、自分の名前を呼ばれたのにも気づかなかったほど。治療に三回を要する、と言われた歯医者通いがちょっと楽しみになってきたんですね。(^^;
この2巻では、なんと商店街の福引で三陸旅行を当てたみかん(なんと猫が福引きのガラガラ回すんですね)が草凪一家と旅行に出るんだけど、そこでまたさまざまな騒動が。
たかだか三回くらいの歯医者通いの待ち時間では当然全部読み切るわけはなく…治療が終わったその日、私は本屋に行って「みかん・絵日記」の2巻を買ってきてしまいました。
30男が臆面もなく少女漫画のコミックスをカウンターに出して「これ下さい!」と。(^^;
もうその時はこの作品に流れる「やさしさ」の虜になっていたのでしょうね。そして、それが自分が失いかけていたものだったと心のどこかで気付いたのかもしれません。もちろん元来の猫好きがそれに輪をかけたのでしょうが。
福引で旅行を当てたはいいものの(ちなみに本当はみかんが欲しかったのは特賞の「三陸旅行」ではなくて三等賞の「おつまみセット」だったんですが)、「ご家族四名様」とは言っても猫同伴で行けるワケがない。さまざまに思い悩む草凪一家。
でも、とうとうみかんは諦めて…。
「いいや、オレ、この家で留守番してる。皆で行ってきなよ」
「三日分のオレのご飯、忘れないでね。一日目はマグロのアラの水煮がいいな。…うん、おやつもあると…うれしい…な…」
みかんの目からポロポロとこぼれる大粒の涙。
「帰ってきてね…絶対…おじィさんみたいに…またオレを一人ぼっちにしないで…ね…」
…ここ、泣けるんですよ。

「みかん・絵日記」 2巻

(白泉社「みかん・絵日記」 第2巻 より)

結局、お父さん(草凪藤治郎)が「こうなりゃ意地でもみかんを旅行に連れていくぞ!」と決心。
みかんは吐夢(草凪家の長男で小学5年生)が昔来ていたベビー服を着せられ赤ちゃんに化けて?ホテルのフロントを誤魔化そうと…。(^^;
読み終わって、すごく透き通った「やさしさ」を感じた話でした。
それから…。
三ヶ月後、なんと私は「みかん・絵日記」の1巻から8巻までをすべて買ってしまっていました。(^^;
秋に入って出た9巻も発売と同時に買って。
その翌年、この作品がアニメ化されることになり、当然それも見て。ただ、あの頃金曜の夜7時というのはなかなか家にいられる時間ではなく、ビデオ録画を忘れて何話か見逃した話が。つい先日、改めてDVDBOXを買って今また全話通しで見ています。原作の持つ温かさを損なわずに良心的な作品に仕上がってますね。
ちなみにアニメの題名は真中の「・」がなくなって「みかん絵日記」になっています。

「みかん絵日記」・DVDBOX

ところで、このハンドルネーム、使い始めてからもう15年近くになります。
ちなみにネット界では、私の他に「草凪みかん」のハンドルネームを使っている人は私の知る限り6名おられます。そのうちの4名が女性ですね。でも、あの作品では「みかん」はオス猫です。ニパ!(^O^)/
まあ、少なくともこのサイトのタイトルに何故「絵日記」とついているかはこれでおわかりになったのではないかと。(^^;
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