姉からの贈り物

あれは…いつだったんだろう…
たしか…5歳のころだったんだと思う

あらためて、いま、姉に心からありがとうを送りたいことがある
今でも心に残る、一冊の童話
何度も読み返した、一冊の童話
ずっと…大切にとっておきたかった、一冊の童話

それは5編の単編を集めた童話だった。
幼い頃から住んだ家を、追われて行く時に…
一箱のダンボール箱に大切な物を詰め込んだ。
その中に、いつまでも持っておきたいその童話も忘れずに詰め込んだ。
父が遺した自作の歌集といっしょに…
大切に仕舞い込んだけれど…、
いつの間にか片付けられ、捨てられてしまった。

何度か引越しをして
いつの間にか、どこかに消えてしまった…

だけど…幼い私の心に…
しっかりと刻み込まれた
その内容は、今の私を造る大事な源になっている。

私には、姉達に返せないままの恩がある。
私達の両親がこの世を去ったのは…
小学一年生の夏だった。
父が胃癌で亡くなった二週間後(?)に
母も肺結核でこの世を去った。
「お父さんが待ってるから…」の言葉を残して…

まだ、若い姉達が私達を育てることは、並大抵ではなかったに違いない
いまだからこそ、それがわかる。

それでも…姉は沢山の心の贈り物をしてくれた。
なのに…いまだ、なにもかえせていない

経済的には、とても苦しかったはず
なのに、幼い日にオーケストラのコンサートも何度か行った
バレーの舞台も見せてもらった
チャイコフスキー「くるみ割り人形」「白鳥の湖」
「セビリアの理髪師」なんてのも見たなぁ

貧しい暮らしの中でも…心が豊かになる贈り物の数々
辛かったり、哀しかったりする日々の中でも…
残してもらった物がたくさんある。

まだ20代の姉にとって、両親が残した幼い二人の兄弟は、
大変な重荷だったに違いない。
忘れもしない…教室の黒板の左上に残った自分の名前
給食費未納の人……○○さん
数名の名前が一人消え、二人消え…一人だけ残った時のせつなさ…
先生は、その子の切なさを気付かなかったんだろうか?
毎日、みんなが見る黒板、なかなか消えない名前
「わたし…忘れてるんじゃな〜い、わかってるから、お願い消して…」
後に、姉に話した時に「言ってくれればよかったのに…」
心の中で返した言葉は…
「言えなかったのよ、お姉ちゃんが辛いと思って…」

私の記憶の中の姉はたしかに、優しい人だった
幼い私は、姉と一つの布団で寝ていた。
はっきりと記憶している、寒い冬の日には…
冷え性で冷たく凍るような私の足を…
自分の太ももの間に…挟んで暖めて眠らせてくれた。
そこはとても温かくて、冷たい足はすぐに温かくなった。
幼い私には…、
その時、姉が感じた私の足の冷たさなど判るはずも無かった。
ごめんね、気付かなくて…
姉は冷えて眠れなくなったのかもしれない
だけど…まるで気付かなかった。

私には、出来そうもない
こんな私なんかよりも、ずっと姉さんは優しい人だ。

その優しい姉に、もらったものの中で…
その中でも、忘れる事の出来ない一冊の童話
その内容は…

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