少しでも興味を持っていただくために、身近な船と船員の話しでもしますので、ぜひ読んでみて下さい。
(1.船の大きさ)
大型船では長さ300m、幅60mにもなります。そのため、縦方向、横方向の移動が結構大変です。
自転車等を使えばと思われるでしょうが、船の表面は意外と突起物があって平らではありません。
そこで移動はもっぱら徒歩に頼る事になります。これが以外とキツぃのです.
大型船の横幅は60m位ありますが、仕事のためには行ったり来たりです。しかし船上は色々な装置で一杯です。だから移動は正にジャングルジムを通り抜けるようなもの。一日に何往復もすると、本当にキツいのです。
(2.船で使う清水について)
船で使う「清水」には2種類あります。船員はそれを「飲料水」と「雑用水」と区別しています。
ですから飲料水の様に陸上から補給して、タンクに貯めて置くだけでは、とても足りません。
100℃まで加熱しなければなりません。そうすると鍋に塩が析出して、焦げ付いて鍋の底にこびり付いてしまいます.
これは落とすのが大変です。
富士山の頂上くらい気圧の低い所では、水は82℃くらいで蒸発します。
これを利用して、器械の中に真空を作り出すと海水40℃程度で蒸発します。この温度では塩分も析出せす、器械の中を塩で詰まらせる事もありません
(3.船の燃料について)
船のエンジンは自動車にも使われるディーゼルエンジンです。
燃料タンクで42℃位に加熱した重油をポンプで機関室のタンクに送ります。ここで、更に60〜80℃に加熱します。重油の中には水分やスラッジと呼ばれる固形分が混ざっています。これらはエンジンに有害です。加熱する事により、本来の重油と水分とスラッジ分を分離するのです。
機関室のタンクで加熱して、重油、水分、スラッジを自然分離しますが、これだけでは完全に水分とスラッジを取除けません。そこで、更に遠心分離機、5ミクロンのスラッジまで取除けられる超微細フィルターを使って分離していきます。
船で使う重油は、何重もの前処理を行った後、更に120℃〜130℃の高温に加熱してようやくエンジンで使えるようになります。
船の燃料であるC重油は、原油からガソリン、航空機燃料、軽油、灯油を取り出した後に残った残渣油と呼ばれるものです。文字通り「搾りかす」です。ガソリンや灯油のように無色透明に近いものでは無く、真っ黒な油です。手についたら、特殊な洗浄剤を使わないと落ちません。厄介なものです。
電気自動車の時代が間近と言われますが、まだまだガソリン車、ディーゼル車が無くては世の中動きません。原油からガソリンの様な上質油を精製すればするほど、C重油の様な残渣油が残ります。他に使い道の無い残渣油を消化出来るのは、船のエンジンしか無く、この点でも船は役に立っているのです。
最近は地球温暖化の防止のために、化石燃料からグリーン燃料への転換が進められています。しかしながら、
今は未だ完全に化石燃料と決別するわけには行きません。そこで過渡期の燃料としてLNGを燃料とする船舶の導入
が進められています。LNGも化石燃料の一種ですが、重油に比べてCO₂が40%削減できると言われています。
因みにLNGとは液化天然ガスのことで、皆さんの家庭用ガスコンロにも使用されています。
(4.環境問題ー大気汚染の防止)
環境問題が重要な課題になっており、自動車の排ガス規制は年々厳しくなっています。当然船舶でも同様の規制が定められています。
環境問題、特に大気汚染に関しては、上質油を使用する自動車に比べて、低質油を使用する船舶は大変です。
特効薬はなく、自動車と同じく排気管へフィルターを取付けて除去する方法が考えられています。しかし、このフィルターの大きさは半端でなく、3~4階建ての小さなビルくらいになりそうです。
2020年1月から地球温暖化防止のためCO₂より温暖化係数が高いSOx規制が強化されました。
全海域で船舶の使用燃料油の硫黄分含有量は0.5%以下となりました。これにより従来のA重油及びC重油は使用
できなくなり、それぞれ低硫黄油への切替を行いました。
(5.環境問題ー生態系の維持)
船が走るためには、人と同じくその姿勢が重要です。左右は傾きなしで、船尾は船首よりやや水中に沈んでと云うのが最適の姿勢です。船はその都度積載する貨物量が違いますので、自動的に最適の姿勢にはなりません。左右のどちらかに傾いたり、船首の方が沈んだりします。そこで、補正が必要となります。
この海水の事を「バラスト水」と呼んで、このための専用のタンクをいくつも持っています。
船が左右どちらにも傾いていない状態を「Up Rightに」といいます。
船首の事を舟+首と書いて、「おもて」と読みます。造字です。
船の「おもて」を上げて、「とも」を沈める理由は単純です。それは「とも」が沈まないとプロペラが水面より上に出てしまうからです。船のプロペラは水中で回さないと推力を出せません。それともう一つの理由は、「おもて」を上げた方が船が前に進む時に、水の抵抗が少ないからです。
船の姿勢を書いて来ましたが、問題となるのは、その姿勢を制御する「バラスト水」です。大型船は姿勢制御のため、大量の海水を「バラスト水」として船内のタンクに取り込ます。日本を出港する時は、当然日本の海水を取り入れます。
日本で取り込んだバラスト水(海水)を外国で排出する事が、問題があると十数年前に指摘されました。海は世界中で繋がっており、海流に乗って、世界を回流しているので、何処の海水も同じだと思いますが、実は違うのです。
大型船のバラスト用ポンプは、1時間当り300〜500トンの海水を吸入排出する能力があります。そのパイプは径が60〜100cm程もあって、大人がひと抱えする位太いパイプです。吸引力も凄く、吸入口付近に居れば、人間の大人でも簡単に吸い込んでしまいます。
海水の中には微生物や海洋生物が生息しています。船が船内にバラスト水を取り込む時に、これらの微生物や微小生物が一緒に吸い込まれます。余りに小さいので、ポンプのフィルターをすり抜けてしまいます。そして外国の港に着いた時に放出されます。勿論微生物等も一緒です。これが問題なのです。
海水の中にいる微生物や海洋微小生物は実はその国の近辺海域の特有種である場合が多いのです。
ですから、それらは外国の海から見れば、立派な「外来種」と云う事になります。つまり在来環境に有害である可能性があるのです。
外来種を他国に持ち込む訳には行きません。そこで、水深200m以上の海域でバラスト水の入換えを行います。何千トンものバラスト水を入れ換えるのは大変です。
日本から太平洋を渡ってアメリカへ航海するような場合は、水深200m以上の海域に不自由はしません。しかし、日本から東南アジアへ航行する場合には、通常の航路には水深200m以上の海域は殆ど有りません。船は最短距離を走りますから、水深200m以上の海域を求めて、寄り道しながら走る訳には行きません。
清浄な海水への入替は航路によっては上手く行きません。そこで船内で海水を浄化しなければなりません。そのために必要とされる装置を大急ぎで各船に設置してきました。通常この様な規制措置は20XX年以降新造される船舶から適用と云うのが通例ですが、バラスト水に関しては全ての船が対象となりました。
バラスト水(海水)を浄化して海洋微生物を取り除くには、いろな方法が有ります。機械的処理、物理的処理、化学的処理に大別されます。簡単に紹介すれば、フィルターの様なもので海水を濾して取り除く方法と海水中に殺菌剤を投入する方法、それから紫外線の様な殺菌作用のあるものを照射する方法です。
兵庫県神戸市
代表幹事
島村 康雄(海事補佐人)
海難審判所(登)第2423号