栗駒山( くりこまやま)                             [東北] 1627m 

 

 栗駒山の山頂で会った地元の一関市の男性は言った。
 「栗駒は秋が最高です。」

 それは分かっている。よ〜く、分かってはいるのだけれど、今回は急遽、早池峰山に登ることになり、せっかく遠くまで行くのだから以前から登りたかった栗駒山にも・・・、という感じで来てしまったのだ。まあ、早池峰の足慣らしにもちょうどいいし、と言い訳をしつつ。

 東北道の長者原SAで仮眠。4時半に起きて築館ICで高速を降り、登山口のいわかがみ平へ。ウィークデイの早朝ということで、広い駐車場はガランとしているが、既に2台車が止まっていた。

 パンで朝食を済ませてすぐ出発。まずは登りやすい中央コースを行く。山頂までの標高差500m強、約1時間半のコースタイム。

いわかがみ平駐車場
 


  駐車場の上にレストハウスがあり、その前が登山口。登山道は岩だらけで歩きにくく、両側からカエデやダケカンバの背の低い木が迫っており見通しは利かない。栗駒山の山頂も見えない。しかしこれらの灌木が秋には「錦繍織りなす」ということになるのだろう。

 しばらく進むと登山道の岩の間にコンクリートが詰められていて、多少歩きやすくなったが、少々整備し過ぎの感がある。北の山ではお馴染のノリウツギが目につく。

 登山道からパッと小鳥が2羽飛び立って、少し先に降りた。飛んでいる後ろ羽に白い線が見えたので、一瞬カケスかと思ったがずっと小さい。よく見ると頬の赤いウソだった。一方のウソは頬が茶色なのでカップルであろう。道に生えている草の周りで何かついばんでいる。歩くたびに少しずつ先に飛んでいき、しばらく観察することができた。久しぶりにウソをじっくり見られた。
 

 

ノリウツギ ウソ (雄)

 

 灌木の背が低くなり、笹が多くなり、そしてハイマツ帯になって展望が開けた。雲一つない青空が広がるが、もやっていて遠くは見えない。最近の山登りはこんな天気ばかりだ。笹薮の日陰から出て、夏の朝日を横から浴びるようになり、暑い。

やっと栗駒山頂が見えてきた

 

ハイマツ帯に出た

 

 右手は逆光に光る草原の広い谷を隔てて東栗駒山。左手は栗駒山に突き上げる広い谷。なだらかな、広々とした山容はいかにも東北の山らしい。
 まだまだ山頂まで遠いなあ、と思いながら歩いていたが、広い風景に距離感覚が狂っているのか、意外に早く山頂に着いてしまった。

 

ハクサンシャジン 草原の向うに東栗駒山

 

 山頂は広く、取り止めがない。期待した鳥海山はもやってしまって見えないが、上空だけは青く高い。花巻空港に降りるのか、意外な近さで飛行機が頭上を通り過ぎていく。山頂の端に行き北側も覗いてみたが、ぼんやりと山麓の須川温泉が見えるだけ。冒頭の地元の男性がわずかにシルエットが見える焼石岳を教えてくれる。

 山頂の一角に祠があり、わずかな日陰になっているのでそこで休む。祠の横の壁に由緒書が貼ってあり、読んでみると、麓にある勅宣日宮駒形根神社という神社の奥宮 とのこと。この神社はヤマトタケルノミコトの東征の際に創建されたという由緒のある神社のようで、坂上田村麿からも崇敬されたらしい。もっとも奥宮が建立されたのは昭和初期のようではあるが。

 

勅宣日宮駒形根神社奥宮 山頂にて


 下山は東栗駒コースをとる。山頂から少し下ったところの分岐を左折。丸太と蛇かごで妙に立派に整備された階段を下る。
 栗駒山は紅葉だけでなく花も多いと聞いていたのだが、ここまではあまり見かけていない。新湯沢の源頭を横断するこのあたりの草原に花が多いとのことだが、目につくのはセリ科の花やウメバチソウ、シロバナニガナくらいだ。だが、よく見ると草の間に小さな白い花が咲いている。おっ、トキソウだ。しかもあちこち咲いている。こんなに沢山のトキソウは見たことがない。家に帰って調べたら、色が白っぽいのでヤマトキソウの可能性もあるが、ヤマトキソウはしっかり花が開かないということなので、やはりトキソウ だと思われる。
 トキソウに混じって見たことのない白いランも咲いていて、これも帰ってから調べたらオノエランとのことだった。東北の山の特産というわけではないが、初めて見る花だ。

 

トキソウ(朱鷺草) オノエラン(尾上蘭)


 東栗駒山から改めて栗駒山を眺める。こちらからは手前にハイマツの山腹が広がり、一層伸びやかだ。山の形も三角形に近くなり、格好がいい。東栗駒山山頂あたりは巨岩が多く、岩の上でのんびりできて気分が良い。
 だが、いつの間にか雲が広がり始め、少々天気が怪しくなってきた。予報では雨の心配はないはずだが、明日もあるので早めに下ることにする。

東栗駒山からの栗駒山 東栗駒山山頂のケルン

 

 さてここで、 出発時からの心配事に向き合わざるを得なくなった。駐車場横の案内板には「東栗駒コースは大量の雪解け水が流れており、長靴かゲイターが必要」とあったのだ。ここまでそんな箇所はなかったので、この先にある新湯沢の渡渉が大変ということになる。
 不安な気持ちで沢まで降りてみると、やはり水量は多い。ガイドブックによれば100mほど沢を下って反対側の登山道に入ることになっているので、どこかで渡渉することになる。
 降りついたところでは渡れそうもないので、少しこちら側の岸沿いに下る。岩が滑るので草を掴みながらそろそろと進む。50mほど下ったところで大岩で流れが狭くなっている所があったので、そこで流れを渡る。しかし、渡った先で岸沿いに下れず、結局、流れに沿って大岩をあちこち伝いながら反対側の登山道にたどり着いた。
 もう少し水量が少なければ何という事もない渡渉なのだが、わずかな増水で少々怖い思いをすることになってしまった。ただ、沢歩きの最下流と最上流の地点には頭上にロープが渡してあり、登山道に気づかずに下りすぎたり、登りすぎたりすることはなさそうだ。

新湯沢、ここから100m程沢を下る。 泥だらけの道


 さて、後は山道を駐車場まで戻るだけ。と思ったら、ここからが一番大変だった。笹藪の中に道は雨水で掘れていて溝状になっており、歩きにくい上に赤土の泥だらけ。溝で左右とも逃げられず、泥の中の岩をたどりながら行くしかない。明日もこのズボンで早池峰に登るので汚したくはない。気を抜かず慎重に下る。
 結局、登りよりも下山の方が30分近く余計にかかってしまった。

 下山後は車道を少し下った耕英地区にある「くりこま荘」で温泉に入り、名物のいわな丼を食べてリラックス。

 そしてすぐ近くにある岩手・宮城内陸地震の慰霊碑に立ち寄る。平成20年6月に起きたこの地震では大規模な土石流が発生し、沢沿いにあった駒の湯温泉が飲み込まれ、温泉客ら7名が亡くなった。
 駒の湯のあった沢は地震から既に6年がたったが、まだ砂防工事が続けられていて、沢は赤土で埋まり、沢山の砂防ダムができていた。
 僕の車の岡崎ナンバーが珍しいと言って近づいてきた地元の工事関係者の人が、駒の湯の建物のあった場所や、当時の状況をいろいろ教えてくれた。駒の湯の対岸の地すべりは高さ60mほどあり、今 、沢沿いに生えている木は山の上から滑ってきたものとか、土石流で20mほど沢が埋まって高くなったとか、もともと栗駒山の火山灰が積もった土地なので地すべりしやすいことなどを説明してくれた。

 

慰霊碑

 

枯れ木のところに駒の湯の建物があった

 


 
その人に、近くの荒砥沢ダムの地すべりも見てほしいと言われたので、少々遠回りになるが、そちらにも寄ってみることにした。途中、新しい道のそばののり面の上にガードレールの残った道の跡があったりして、大きく地形が変わってしまったのがわかる。
 ダムのそばの解説板を見て、当時のことをありありと思い出した。地震直後のこの付近の地すべりの状況は凄まじいもので、取材ヘリからの映像で一番印象に残ったのは、この荒砥沢ダムのものだった。最大の地すべりは高さ100mもあり、その地すべり面の地層は学術的に貴重なものということで、一帯はジオパークになっているそうだ。

 

荒砥沢ダムの地すべり
 

荒砥沢ダムの地すべりの解説板


 3年後の平成23年に東日本大震災が起き、岩手・宮城内陸地震の記憶は薄れてしまったように思われるが、この地震も大きな地震であり、被害にあった方もあることを忘れないようにしたいものだ。

 さて、次は早池峰だ。

 早池峰山へ
 

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[山行日] 2014/7/29(火)
[天気] 晴れのち曇り    2014年7月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 28日 岡崎IC 11:30 (東名、新東名、首都高、東北道)22:20 長者原SA   [約726km]

29日 長者原SA 4:45 → 築館IC → (国道4号、県道42号他)5:45 いわかがみ平駐車場   [約55km]
    
・広い駐車場、100台くらい止められそう。トイレ有り。
 

[コースタイム]
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:30 6:30 いわかがみ平出発 (1114m)    
8:00 栗駒山山頂(1627m) 0:35  
0:50 8:35  
9:25 東栗駒山(1434m) 0:10  
1:05 9:35  
10:40 いわかがみ平着 (1114m)   全行動時間
3:25     0:45 4:10
登り 1:30        
下り 1:55        
 
[ガイドブック] 「日本二百名山登山ガイド(上)」 山と渓谷社

 

[温泉] 新湯温泉「くりこま荘」

・宮城県栗原市栗駒沼倉耕英東95-2
・入浴料500円。
・石鹸、シャンプー、ドライヤーあり。

・浴室の外のデッキに露天風呂があり、目の前がミズナラ林でとても気持ちが良い。ミズナラの湯と名付けたい。

・名物のいわな丼1,080円。耕英地区はいわな養殖発祥の地。震災復興丼として、周辺の宿、店でも食べられる。
 くりこま荘
 いわな丼

 

[風景印] 栗駒局
 (宮城県栗原市栗駒岩ケ崎茂庭町40)

・図案
  栗駒山、ニッコウキスゲ、ミズバショウ