早池峰山(はやちねさん)                             [東北] 1917m 

                     栗駒山から

 「今年の夏は朝日連峰だ〜!」と正月から言い続けてきた。しかし、結局、早池峰に登ることになった。
 理由はいくつかある。いや、理由は一つしかない。準備が間に合わなかっただけだ。避難小屋泊まりに対応できるザックが傷んでいたが、買いに行っている時間がなかった。食料の買い出しも間に合わなかった。その他の装備もチェックできていなかった。 しかし、正月から決めていて対応が遅れたのはなぜか。その原因は天気予報だった。
 今年は春から、エルニーニョの予報が出ていて冷夏ということだった。冷夏になると夏山の天気は安定しない。特に北日本は梅雨明けが遅れる。東北の山とは相性が悪く、飯豊連峰も鳥海山もガスだった。だから朝日連峰だけはいい天気に縦走したいという気持ちが強く、冷夏予想で何となく気分が乗らなくなってしまった。
 ところが、いつの間にかエルニーニョ予想は撤回され、山行予定の前日に東北地方も梅雨が明けてしまった。おいおい、天気良さそうじゃないか。 いったい、どうしてくれるんだ!

 という訳で、朝日連峰から宗旨替えをして、日帰り登山ができる早池峰に転戦することになった。しかし、早池峰は早池峰である。花の名山である。それはそれで、十分楽しみたい。

 栗駒山から移動し、河原の坊の駐車場で車中泊。4時起床。5時前に出発。既に日は昇っているはずだが、谷底のためか雲のせいか、あまり明るくはない。今日はいい天気のはずだが・・・。

 登山道に入りすぐに飛び石で沢を渡る。そして支流のコメガモリ沢に沿って登っていく。薄暗い中にオニシモツケやセンジュガンピの白い花が浮かび上がる。

 登山道は樹林の中を行くところもあるが、森の内外を問わず、道は岩だらけ。いきなり高山に来てしまったような感じだ。岩が多くて木が生えていないところもある。
 岩の道は結局、下りに降りた小田越の近くまで続いていて、こんなに岩の道が多いところは珍しい。下山後、登山靴の裏がほとんど汚れていなかった。

岩だらけの登山道

 
オニシモツケ センジュガンピ

 道は次第にコメガモリ沢の沢筋を登るようになり、何度も流れを渡りながら高度を上げていく。沢が直線的に伸びているので、先行者が2組見える。正面には岩壁のように早池峰の山体が迫ってくる。

 周りの樹林が低くなったあたりで、道は右手の尾根に取り付く。このあたりが頭垢離(こうべごうり)だったらしいが、気付かずに通り過ぎてしまった。

コメガモリ沢

クガイソウ

 

クルマユリ

 

  この尾根も岩だらけで、岩の間を折り返しながら登っていく。やっと、陽が射してきて、明るくなってきた。向かいの薬師岳が競り上がってきたが、あちらは全山樹林に覆われていて 岩だらけの早池峰とは対照的だ。
 このあたりから、だんだん高山植物が目に付くようになってきた。ブラシのような花のナンブトウウチソウは早池峰の特産種。おっ、ハヤチネウスユキソウかと思ったら、ちょっと違う。ミネウスユキソウか?

 

薬師岳

 

ナンブトウウチソウ

 

ハクサンシャジン

 

ヒメシャジン

 

 一枚岩の御座走りをロープで登り、見上げると巨石が頭上から倒れ掛かるように迫っている。打石(ぶついし)だ。天狗が霧の中を飛び回っていて、頭をぶつけたという謂れがある。

打石(ぶついし)
 

タカネサギソウ

 

イブキジャコウソウ

 

 鎖のかかった大岩を登ると、もう山頂は近い。岩の間にハヤチネウスユキソウも現れ始めた。
 早池峰は蛇紋岩質の山で、尾瀬の至仏と同様、珍しい花が多い。ハヤチネウスユキソウも早池峰の特産種ではあるが、特産種は先ほどのナンブトウウチソウなど他にも多い。 日本のウスユキソウの仲間ではヨーロッパアルプスのエーデルワイスに最も似ている、ということで、早池峰の代表のように扱われて、ちやほやされているが、それほど見栄えがする花ではない。 中央アルプスのコマウスユキソウの方が似ている、という人もいる。

鎖場 ハヤチネウスユキソウ


 ひょいと岩を越えたら、そこが山頂だった。山頂は意外に広い。北側に早池峰神社の奥宮や、良く分からない祠や観音像などが立ち並び、信仰の山の雰囲気を出してはいるが、全体にあっけらかんと開けている。岩手山が見えるかと岩に登り西側を眺めてみたが、もやっていてシルエットすらわからない。

 国土地理院の地形図では早池峰の三角点の高さは1913.4m。しかし最近、国土地理院は日本の1003の山の標高を発表し、そこでは1917mということになっている。確かに、三角点よりも奥宮のあたりの方が高いので、そのくらいはありそうだ。

奥宮の覆いは鉄製 山頂の東へ木道が伸びる

 

 岩棚の上から下山路の状況や河原の坊の駐車場などを眺めていたが、意外に風が強く、下山にかかるとする。下りは小田越 (おだごえ)コースをとる。
 山頂避難小屋の前を通り、東に伸びる広い稜線を歩く。すぐにお花畑が広がり、足が進まなくなる。ハクサンチドリ、ヨツバシオガマなど見慣れた花も多いが、見たこともないものもある。名前は帰ってから調べることにして、取りあえず写真だけは撮っておく。
 すぐ近くのハイマツの枯れ枝にカヤクグリが止まり、飛び去ろうとしない。おかしいな、と思って様子を見ていたら、お花畑の中を雛と思しき毛羽立った小鳥が一生懸命草をかき分け歩いている。親鳥が心配で見守っていたのだった。

 

ハクサンチドリ ネバリノギラン ミヤマオダマキ タカネアオヤギソウ
ミヤマアズマギク マルバシモツケ
ヨツバシオガマの群落


  稜線から外れ、小田越への下りにかかるとハヤチネウスユキソウがあちこちに咲いている。ハヤチネウスユキソウの最盛期は6月中旬から7月中旬頃までだそうだ。土日祝日だけ行われているマイカー規制も今週末までで、お盆の時期にはフリーになってしまうのだから、もう高山植物 狙いの登山のピークは過ぎているのだろう。でも、まだ十分花はある。
 登ってきたコメガモリ沢のコースよりも、こちらの小田越のコースの方が花が多い。いろいろな種類の花が咲いているので、なかなか下っていけない。

 

鉄梯子を下る 御金蔵を見下ろす


 ダブルで掛けられた鉄梯子を下ったあたりから、御金蔵(おかねぐら)までの斜面が一番花が多いような気がする。小田越から登ってくる人も多く、たくさんの人とすれ違う。 花の写真を撮っている人も多い。「まだまだこの上にいっぱい咲いているから、のんびりしていると上までいけませんよ。」と思わずよけいなおせっかいを焼いてしまう。

ホソバツメクサ

タカネナデシコ ミヤマアケボノソウ

 

 御金蔵まで下ってきて山頂を振り返ると、すっかり良い天気になってしまっている。青空にまだらに浮かんだ雲がきれいで、思わずぼんやり見とれてしまう。
 花の写真を撮っている女性がいたので、そばにある見慣れない花の名前を聞くと「サマニヨモギ」との答え。北海道と早池峰に見られる珍しい花とのこと。腕に緑の腕章を巻いているので、高山植物のパトロールをしている方かもしれない。
 そばに咲いているフウロソウもチシマフウロで早池峰が南限であると言われる。ハクサンフウロだと思っていたので、急に有難味が増す。やはり知識があるなしで、物の見方は変わる。
 早池峰は単一の花の大きな群落はないが、花の種類は多いそうだ。 いろいろ教えていただき、高山植物のカードまでいただいてしまった。

 

 

御金蔵の奇石
 
すっかり天気が良くなってしまった
 

チシマフウロ サマニヨモギ
 

 

ナンブトラノオ キンロバイ

 御金蔵からは薬師岳を正面に見ながら、同じような広い斜面を下る。小田越に近くまで岩場の道が続き、最後は針葉樹の樹林帯に入り、日陰にホッとする。
 熊よけのためか、道沿いの木に一斗缶がぶら下げてあり、叩くための棒も添えてある。

小田越に下る

 

 小田越まで下ると車道に出る。マイカー規制の日はここまでバスが来るが、今日は規制日ではないので、河原の坊まで車道を歩くことになる。

 下山口の近くに小屋があったので寄ってみると、男性がひとり、早池峰に向かってフィールドスコープを覗いている。
 何をしているのかと聞くと、高山植物の盗掘やロープから踏み出して写真を撮る登山者を見張っていると言う。

小田越からの早池峰(左端が山頂)

 

 こんなところで監視していても、手の下しようがないではないかと思ったのだが、登山道を何人もパトロール員が歩いていて、ここで怪しげな動きをする人を見つけると、トランシーバーで連絡し、パトロール員が注意するようになっているとのこと。シーズン中はいつも誰かがこうして監視しているのだそうだ。
 監視をしているのだから高山植物に詳しいのだろうと、花の時期や途中で見た植物のことを聞くと、最初は僕も盗掘者と見られているのか警戒感がにじんでいたが、そのうち無害だと思われたらしく、図鑑を出してきてミヤマアケボノソウや白花のハクサンチドリなどの話をしてくれる。
 現実問題として、盗掘者はパトロール員が帰った後を狙ってやってくるので、なかなか対策は難しいそうだ。花の名山 としての名声が高いため、オーバーユースの問題もあり、自然環境を維持していくのには多大な努力がされているようで、ボランティアの方々の苦労を少し知ることができた。

 

 さて、ここからはおまけの話。
 下山後、この日は盛岡まで移動し、ビジネスホテルで1泊。夜、岩手県庁に出向している元同僚に付き合ってもらって一杯飲む。彼、I 君は東日本大震災の復興応援で愛知県から岩手県庁に出向し、陸前高田の復興祈念公園の計画づくりのお手伝いをしている。あの有名な奇跡の一本松があるところで、高田松原があった場所を公園として残すことになる。
 いろいろ、現地の話を聞いていたら、被災地の様子や奇跡の一本松を実際にこの目で見たくなってしまった。I 君が盛岡から2時間半あれば行けると言うので、翌日、5時半に起きて陸前高田に寄って から愛知に帰ることにした。
 陸前高田に土地勘はないので、取りあえず高田松原に近い中心街の交差点にナビをセットして行ったのだが、たどりついた交差点は造成地の真ん中だった。
 I 君に聞いていたのである程度は想像していたが、想像以上の状況だった。途中までは震災後できたような新しいスーパーや事務所のような建物もあったのだが、海岸沿いの平地に出たとたん 、目の前には何もなくなった。車を止めて周りを見渡しても市街地らしきものはなく、かろうじてかつて道の駅であった建物が壊れたまま残っていた。
 眼に入るのは頭上を縦横に走る巨大なベルトコンベアーで、川向うの丘陵地で削り取った土をこちらの造成地に運んでいる。運ばれた土は土地の嵩上げに使われ、その上に街ができ、削られた丘陵地の方には復興住宅地ができるらしい。道路には土を運ぶためと思われるダンプトラックが列をなして走っている。ダンプのナンバーは地元岩手の他宮城、新潟、茨城など広範囲にわたる。荒涼たる光景に声もない。

 

川向うの丘陵地から延びるベルトコンベアー トラックとベルトコンベアー


 たどりついた交差点のそばに、偶然、奇跡の一本松を見学するのための駐車場があったので、そこに車を置いて歩いて松まで行く。途中、土を台形に積み上げた展望台があり、区画整理事業の解説板などがあって事業の内容が分かる。
 奇跡の一本松はその先の橋を渡ったところにある。かつてはこの橋の先が高田松原で、7万本と言われる松林が広がっていたのだが、津波で残ったのはこの一本だけであった。そばに野外教育センター?の建物があり、それが波の力を弱めて奇跡を演出したらしい。
 その松も結局枯れてしまい、今はモニュメントとして作られたものが立っている。枯れた松の代わりに複製を作るとニュースで聞いたときには、正直なところ「そこまでしなくても。」と感じたのだが、ここに立ってみるとやはり記憶をつなぐための縁(よすが)としてこれは必要なのだと思う。複製になってしまったものの、松は生き物であるために生命力の象徴であり、再生のシンボルなのだ。

 朝早く来てしまったので、I 君に教えてもらった復興商店街は訪れることができなかったけれど、一昨日の岩手・宮城内陸地震の被災地と同様、百聞は一見に如かず。 いろいろ考えることができ、来てよかったと思う。

 

高田松原の根株と壊れた道の駅の建物 奇跡の一本松

 

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[山行日] 2014/7/30(水)
[天気] 曇りのち晴れ    2014年7月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 9日 釜石自動車道・ 東和IC (県道43号、25号)→ 河原の坊駐車場     [約43km]
      
・駐車スペース70台程。トイレ有り。
・早池峰の山中にはトイレがないため、無人販売で携帯トイレが入手できる。
[コースタイム]
        4:00起床
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
2:00 4:55 河原の坊P出発 (1050m)   13℃
6:40 御座走り    
6:55 打石(1600m) 0:05  
0:40 7:00  
7:40 早池峰山山頂(1917m) 0:40  
1:15 8:20  
8:45 剣ヶ峰分岐    
9:00 賽の河原分岐    
9:35 5合目、御金蔵(1700m) 0:15  
1:05 9:50  
10:55 小田越(1250m) 0:35  
0:30 11:30  
12:00 河原の坊P着 (1050m)   全行動時間
5:30     1:35 7:05
登り 2:40        
下り 2:50        
 

 

[風景印] 大迫(おおはさま)
  (岩手県花巻市大迫町大迫3-137-1)
 

・図案
  早池峰山、ハヤチネウスユキソウ、早池峰神楽