愛鷹連峰 越前岳(えちぜんだけ)                        [富士山周辺] 1504m 

  

 車中泊の十里木高原駐車場で目が覚めたのは午前4時少し過ぎ。辺りは明るくなり始めている。日の出は4時40分頃のはずだ。
 前日は曇っていたので、どちらに富士が見えるのか、と体を起こしたら、後方の窓から針葉樹の上に顔を出している富士が見えた。灰色の空に白い富士が意外にはっきりと、しかし無彩色の絵のように浮かんでいる。
 「せっかくここで車中泊をしたのだから。」とゴソゴソと起き出し、フリースを着込んで外に出る。気温は9℃。さほど冷え込んではいない。
 登山道の丸太階段を5分程登ってから右手のカヤトの斜面の踏み跡を少し進むと、視界が開けたのでここで朝の富士と向き合った。鳥の声が賑やかだが、ウグイスくらいしか聞き取れない。

 

山頂と宝永火口に赤みが差す

 

山腹が少し赤くなってきた

 

雲も色づき始める

 

山裾も赤くなる

 

高原にも陽が射してきた

 

駐車場を見下ろす

 

 少しずつ赤みが差してくる富士を1時間ほど立ちつくして見ていた。雲が多くて赤富士にはならなかかったけれど、残雪の白、山腹の赤、高原の緑と、何とも言えない富士の姿を見せてもらった。

 

 鍋焼きうどんの朝食を食べ、身支度を整えて出発。すでにすっかり日が上り、雲も取れて青空が広がっている。昨日の曇り空が嘘のようにいい天気だ。
 歩きにくい丸太階段を再び登る。

 10分程で展望台に到着。眼下に十里木高原が広がる。宝永火口がとても良く見える場所で、その大きさがよく分かる。
 昨日立ち寄った裾野市立富士山資料館で宝永火口の噴火は半月ほどだったと知ったが、半月であんなに大きく山腹が抉られたとは驚きだ。

雲が取れた

 

十里木高原展望台

 

展望台から

 

 大きなアンテナの横を抜け樹林の中の道を進むと、アシタカツツジが咲いていた。今回の目的はこれを見ること。
 小ぶりの花だが色が濃い。赤紫の花色はムラサキヤシオを思わせる。富士山周辺の愛鷹山、天子山塊でしか見られないツツジで、アシタカツツジの名前は牧野富太郎博士が付けたとのこと。愛鷹山にはトウゴクミツバツツジも自生しているが、こちらは三つ葉なので区別ができる。

中継アンテナと越前岳

 

登山道

 

アシタカツツジ

 

 ベンチがある馬の背に着いたら、背後の富士には雲がかかってしまっていた。ありゃ、もう展望はおしまいかぁ。朝方、充分見てはいるけれど、山頂から見られないのはやはり悔しい。
 樹林の中を歩きながら時々振り返ると、雲の切れ間から覗くこともあるが枝が邪魔で写真は撮れない。悶々としていたら、尾根の上で開けたところがあり、そこから雲の上に顔を出した富士を撮ることができた。傍らの標識に「平坦地」とある。

雲の上に顔を出す富士

 

 道は山腹を折り返しながら登っていくが、広い斜面に踏み跡がたくさんある。あまり山腹を荒らさないようにロープが張ってあるところもあるが、ロープの外にも踏み跡があって、どちらが正しい道なのか分からないところもある。
 小さなスミレくらいで林床の花は少ないなあ、と思っていたら、思いがけずサクラソウに出会った。たった一株だけだが、鮮やかな花色で、ツツジの花が落ちているのかと見間違えた。帰ってから調べたらコイワザクラらしい。切れ込みのある丸い小さな葉 も印象的。
 

 

ブナの大木

 

コイワザクラ

 

 傾斜が緩んでくると山頂は近い。舟伏山の山頂付近のように林床にヤブレガサが目立つ。倒木には苔が厚く覆っている。
 周りの灌木はツツジ類のようだが、花はほとんどついていない。つぼみもないので時期が早いということではないと思うのだが、今年は外れの年なのだろうか。もっと花に覆われた山道をイメージしていたのだが、残念。

山頂近し

 

 樹林が切れると越前岳の山頂。山頂は南側に傾斜していて、駿河湾の展望が開ける。背後の富士は樹林に隠されて山頂付近しか覗いていないけれど、これまで見えなかった 南側に連なる愛鷹連峰の山々が見えるようになる。

 愛鷹連峰は学生時代のまだワンゲルに所属していた頃に 縦走したことがある。黒岳方面の山神社から稜線を辿ってこの越前岳を通過し、呼子岳、鋸岳、位牌岳、愛鷹山と北から南に縦走したのだが、この山頂の記憶は全くない。呼子岳と鋸岳の狭い鞍部にテントを張ったことと、愛鷹山の山頂から、白波の立つ駿河湾を眺めたことしか覚えていない。11月だったが、天気が悪く、富士が見えなかったような気がする。

 

越前岳山頂

 

鋸岳(中央手前)、呼子岳(右)
左手後方は袴腰岳方面

 

富士の市街地と駿河湾

 

 「岡崎の方ですか?」と後から登って来た夫婦連れから声を掛けられた。車のナンバーを見たらしい。豊橋から来られたそうで、夜中の12時頃駐車場について仮眠していたとのこと。これから山神社の方に下り、バスに乗って駐車場に戻るという予定と聞き、よく考えられた計画だと感心する。自分が昨日登る予定で天候が悪く断念した二ツ塚に昨年登られたとのことで、いろいろ情報を聞き、やはりもう一度登りに来たいと思った。

 コーヒーを湧かし、軽くおやつを食べてのんびりした後、夫婦連れと分れて同じ道を十里木高原に下った。

 山道にあまりツツジが咲いていなかったので、下山後、裾野市の天然記念物に指定されているアシタカツツジの原生群落を見に行く。群落は十里木高原の別荘地の奥にあり、詳しい場所が分からないので別荘地の案内所に立ち寄る。案内所の女性に親切に対応していただき、裾野市が作成した地図ももらう。
 別荘地の一番奥に駐車場があり、そこから10分ほど歩くと群生地。新緑にツツジのピンクが映えて美しい。つぼみも混じっているがほぼ満開。地元の人から以前よりも周りの木が大きくなってツツジが目立たなくなったと聞いたが、自分としては十分満足。来た甲斐があった。

 

原生群落の駐車場への道

 

原生群落のアシタカツツジ

 

アシタカツツジ

ツツジのトンネル

 

 

越前岳ルートマップ


[山行日] 2019/5/17( 金)
[天気] 晴れ        2019年5月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 新東名・新富士IC (県道24号、R469号)→  十里木高原駐車場     [約15km]
      
・30台ほど駐車可能、トイレと泥落とし用の洗い場がある。
[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:15 6:30 十里木高原駐車場 発   9℃
6:45 十里木高原展望台    
7:10 馬の背 (1098.9m)    
7:45 1300m平坦地 0:05  
0:30 7:50  
8:20 越前岳山頂 (1504.2m) 0:30  
0:45 8:50  
8:10 1300m平坦地    
9:35 馬の背 0:20  
0:30 9:55  
10:25 十里木高原駐車場 着   全行動時間
3:00     0:55 3:55
登り 1:45        
下り 1:15        
 
[地図] 印野、愛鷹山(1/25000)

 

[温 泉]

御胎内温泉  <御殿場市印野1380-25>
・富士山「樹空の森」に隣接する日帰り温泉施設。3時間500円。
・広い浴槽。露天風呂広い。
・天気が良ければ露天風呂から富士が見えるらしい。