阿蘇山( あそさん                                                [九州]  1592m 

 

 今回の九州山行の第一の目的は百名山のうち九州で唯一登り残した祖母山に登ることだが、それだけでは飛行機代がもったいない。この季節に行くのならやはりミヤマキリシマの九重だろう。ということで九重連山の大船山を加えて2泊3日で出かけることにしたのだが、最近百名山を始めたNom君が同行することになり、天気が良ければ阿蘇山も登ることになった。

 阿蘇山は学生時代の1977年に登っている。大学3年の冬休みにユースホステルを泊まり歩きながら10日ほど南九州の観光旅行をし、その途中で久住山、阿蘇山、開聞岳、韓国岳に登った。
 当時の5万分の一1地形図に歩いたルートは赤線で記入されているのだが、どう歩いたのかさっぱり覚えていない。ワンゲルに一年間籍を置いていたので、その頃から山行記録はまじめにつけていたのだが阿蘇山の記録はない。どうも阿蘇程度では山行という意識がなかったようだ。
 何か残っていないかと探していたら、当時の国鉄のスタンプノートが出てきた。今でもあるか分からないが当時の国鉄の駅にはスタンプが置いてあって、それを押すための専用のスタンプ帳が駅の売店で売られていた。それに旅日記風の記録が残っていたのだった。
 それによると阿蘇のYHで同室だった人と二人でバスに乗って草千里で降り、歩いて中岳火口を観光し、その後今は通れない火口の北側を回って仙酔峡ロープウェイの山上東駅に至り、ここで女性の同行者が加わって3人で中岳、高岳に登り、南側の砂千里を経てロープウェイの西駅まで歩いていた。これは五万図の赤線と一致するので間違いないとは思うのだが、何でこんなルートになったのかは思い出せない。

 とにかく2度目なので、もし天気が悪ければ百名山をひとつ片付けたいNom君だけ登ってもらい、自分は火山博物館でも覗いて待っていようと思っていたのだが、予報に反して雲は多いものの降りそうにもない空模様のため一緒に登ることになった。

 阿蘇山は今年の4月下旬まで火口から1qの入山規制がされていて、高岳には仙酔峡側からでないと登れなかったのだが、火山活動が少し収まったようで、現在は中岳火口側から登れるようになっている。ただ、日によっては火山ガスや風向きの関係で火口観光が中止になることもあるようで、行ってみないと登れるかどうか分からない状況であった。
 幸いなことにこの日は登山OKで、今は運休中のロープウェイの阿蘇山西駅で昼食をした後、レンタカーで有料の公園道路を中岳火口まで上がった。

 

 小康状態とは言え、中岳からは二本の噴煙が上がり、空を覆っている。周りは韓国人の観光客ばかりという感じで、西洋系の観光客も少し混じっている。

 ロープウェイの山上駅は屋根に噴石によるものと思われる大きな穴がいくつも開いており、ケーブルも撤去されていて当分再開できるような感じではない。まあ、車で上がってこられるようになっているので、再投資するまでもないのかもしれない。

中岳火口展望台

 

 車道を少し戻ったところに駐車場があり、そこが登山口になっている。数台の車が止まっているだけで、あまり登山者らしい人はいない。
 まずは木道をたどって砂千里を横断する。そして砂千里の横の低い丘の上を旧火口壁に向かう。かつて歩いたルートではあるが、なにせ40年以上も前のことなので、何も記憶がない。きっと木道などは無かったと思う。
 

砂千里から中岳火口を振り返る

 

砂千里の横を旧火口壁に向かう

 丘を一旦下って、旧火口壁に取り付く。岩だらけの急斜面をペンキに導かれて登る。予想外に陽射しも出てきて蒸し暑い。登るにつれて背後に荒涼とした黒い砂千里ヶ浜が広がる。

 登り着いた壁の上からは、今まで見えなかった阿蘇の南麓の展望が一気に開ける。梅雨の湿気にもやっているが、とにかく広さを感じる。頭上には不安定な格好の南岳がのしかかる。
 先行の幾つかのグループに追いついてしまったようで、急に登山者が増えた感じだ。

旧火口壁の登り


 

旧火口壁の縞模様

 

南岳を見上げる

 南岳の肩まで登ると稜線の先にやっと中岳と高岳が見えた。南岳の山頂にも人影があるが、とにかく中岳を目指す。
 旧火口の縁を歩いていると、風に乗って中岳火口の方から「展望台にいる方は退避してください。」というような声が切れ切れに聞こえてくる。ガスの発生でも多くなったのだろうか。 高岳が見えているこんなところで「すぐ下山してください。」などと言われたらたまらないので、先を急ぐ。
 しばらくしてスピーカーの声も収まり、上空のヘリもいなくなったので、火山活動が活発になった訳ではないようだ。

 

南岳の肩から中岳(左)と高岳(右)

 

 風向きの具合でちょうど噴煙がこちらに流れてきて、時折硫黄のような匂いが鼻を突く。有毒ではないだろうが、むせそうになる。

 

中岳火口を見下ろす、左は旧火口、背後は烏帽子岳 中岳山頂

 

 中岳山頂からはもう少し火口の中が覗けるかと思っていたが、角度が悪いのか、ガスっているためかほとんど見えない。

 稜線は東に向きを変え高岳に続く。今度は阿蘇の北麓が見えるようになる。遠くの方は九重連山どころか外輪山も見えないが、足元に仙酔峡のロープウェイ駅や仏舎利塔が見える。緩やかな稜線から最後にひと登りして高岳山頂に到着。

高岳山頂

 

 高岳山頂の南側には40年前の記憶には全くない火口が広がっていて、その東の縁はピンク色に染められていた。ああ、ここにもミヤマキリシマがあるのだ。
 ここから引き返す予定だったが、ピンク色に引き寄せられるように、なおも稜線を東に進む。火口壁は所によってはかなり薄く、北側ははるか下までガレ落ちていて、のぞき込むと股間が縮み上がる。

高岳火口

 

ミヤマキリシマ

 

アメーバ模様

天狗の舞台附近から高岳を振り返る

 

ツツジのトンネル

 近付くにつれてかなり大きなミヤマキリシマの群落であることが分かる。天狗の舞台と呼ばれる台形の岩の下には火口壁を埋め尽くすようにピンク色が広がっている。 ツツジの中を歩くとピンクのトンネルのようだ。ああ、九重までいかなくても充分だなあと思ってしまう。

 道は高岳東峰から火口壁を下り、火口の底に下りる。踏み跡が錯綜しているところもあるが、どこをたどっても底まで下りられるようだ。
 火口の底には少し高みに小さな小屋が建っている。月見小屋という名前らしいが、ここで泊まって月見をしたら不思議な気分になることだろう。
 

高岳東峰から見下ろす根子岳

 

火口の底から見上げる天狗の舞台


 

月見小屋

 

 火口の底を西へ横断し、縁を越えて、高岳の最後の登りの下で元の道に合流する。ここからは同じ道を戻る。砂千里は踏み跡がたくさんあったので真ん中を通って、距離を短縮する。一面黒い火山性の細かい砂であるが、今朝の雨のためか、靴が埋もれることもなく、快適に横断できた。

 車まで戻り、ロープウェイ駅横の阿蘇神社奥宮の阿蘇山上神社にお参りする。この神社は火口の中の火口湖を御神体としている。社殿は鉄筋コンクリート造なので、隣の瓦屋根に穴が開いた西巌殿寺奥之院ほどではないが、噴石による傷みがみられる。
  予想外の好天に恵まれたことを感謝し、下山する。 

阿蘇山上神社

 

草千里の向うに烏帽子岳

 

倒壊した阿蘇神社拝殿の跡地と二の神殿

 

 下山後、阿蘇北麓の阿蘇神社に向かう。途中、今までの色彩のない火口周辺とは打って変わって緑が鮮やかな草千里に驚かされる。
 阿蘇神社は2年前の熊本地震で国宝の楼門と拝殿が倒壊し、現在も復旧工事の途上である。境内は参拝できる範囲が限られ、お参りも一の神殿前の仮参拝所で行う。床の高い立派な三棟の神殿には大きな被害はない様子であるが、三の社殿の周りで修復工事が行われていた。倒壊した楼門の跡には、部材が覆われていると思われる白いシートの塊がいくつも置いてあった。まだ周辺の国道にも通行止めの区間があり、一日も早い復興を願う。

 祖母山へ

阿蘇山ルートマップ


[山行日] 2018/5/30(水)
[天気] 曇り     2018年5月の天気図(気象庁)
[アプローチ]

自宅 5:25 →(R23、名高速)→ 6:50 県営名古屋空港 8:00 →(FDA)→ 9:20 熊本空港 9:50 →(レンタカー/県道206号、県道28号、県道39号、県道111号)→  10:50 阿蘇山ロープウェイ西駅

ロープウェイ西駅  →(公園道路:有料)→ 火口西駅
 

[コースタイム]
 
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:35 11:50 ロープウェイ山上    
13:05 中岳 (1506m)    
13:25 高岳山頂 (1592.3m) 0:10  
0:55 13:35  
14:00 高岳東峰    
14:30 中岳 0:05  
0:25 14:35  
15:00 火口縁下降点 0:05  
0:30 15:05  
15:35 ロープウェイ山上   全行動時間
3:25     0:20 3:45

     <コースタイム3:55> 熊本県阿蘇山登山情報より
 

[ガイドブック] 火山活動や熊本地震の影響により通行できない登山道があるため、熊本県 県北広域本部の「阿蘇山登山情報」に注意

 

[宿]

民宿「きん」
・阿蘇郡高森町色見1366−2
・一泊二食7,000円(税込)
・開拓地の中にある民宿で、窓から阿蘇の高岳、根子岳が望める。
・新しい建物で、食堂は木のテーブル、椅子で気持ちがいい。食事も美味しい。
・風呂もあるが、割引券をもらって車で5分程の日帰り温泉(下記)に出かける。
・山好きのご夫婦から、山情報が得られる。

[温泉]

月廻り温泉館
・阿蘇郡高森町の月廻り公園内にある、日帰り温泉施設。
・入浴料500円だが、宿の割引券で300円で入れる。
・ボディソープ、シャンプー、ドライヤー完備。コインロッカー100円。
・雄大な根子岳、高岳が望める露天風呂が気持ちいい。