SDRの勉強をしてみました |
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1.はじめに 私はコリンズの真空管無線機を弄るのが大好きで、未だアナログ世代の王道を行っている人間です。しかし、日々変化する技術には少なからず興味をもっており、その中でSDRはディスクリート回路(注1)を、自由度が高いソフトウェアで代替できる究極の無線機として注目をしていました。この中で、先日3.5MHzでお馴染み局と交信をした折にSDRが話題となり、次のような疑問が出てきました。
そこで、SDRの勉強をしてみました。 WEBで参考資料を探しましたが、意外と日本語の資料が少ない事に気がつきました。 なお、内容を簡単にする為に主に受信系を中心に解説していますので、この点をご留意ください。 注1:半導体・抵抗・コンデンサ等の部品を使った回路 |
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2.歴史 まずは、軽くSDRの歴史に触れてみたいと思います。 Software Radioという言葉は、E-System Inc.のGarland Texas Division (現在はRaytheon)で1984年より使われ始め、当初はブロードバンド通信の信号を多重処理する為に、分離するフィルタをソフトウェアで実現する技術を指していました。 1992年にJoseph MitolaがIEEE(注2)で現在のSDR(Software Defined Radio) の概念を発表しました。最初のSDR実現への取り組みは1992年から始まった米軍のSpeakEeasyプロジェクトでPHASET、PHASEUがありました。PHASETでは、2〜2,000MHzの軍用通信機のSDR化が目標となり、そこではVHF AM、VHF FM、HF SSB等、我々アマチュアになじみが深い技術のベースが構築されました。PHASEUではSDRに使用するソフトウェアのオープン化(注3)が図られました。 注2:米国電気電子学会 |
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3.DSP無線機とSDR 双方とも一部のディスクリート回路をソフトウェアで実現する点では同じです(図1)。 当初のSDR(SDR-1000)はパソコンのサウンドカードをインターフェースとして、パソコンでAF信号処理を行っていました。この為、Mixer回路でダイレクトコンバージョンを行い、RF信号をパソコンで扱えるAF信号に変換しています。最新のSDR(FLEX-1500)は、A/D変換をSDR本体内で行い、デジタル変換された信号(データ)をUSB2.0インターフェースでパソコンと接続します。 DSP無線機はこの全ての処理を無線機内のDSPチップとファームウェアで行っています。ファームウェアはメーカー独自に開発され、機能向上はメーカーの開発力如何にかかっています。一方、SDRはオープン化されたソフトウェアを使用している為、利用者のニーズに従い機能向上が簡単にできるのが大きな利点といえます。 図1 |
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4.SDRの構成 ◆BP Filter 受信性能を左右するMixer回路の性能を補完する為にBP Filter を前段に配置しています。 ◆Mixer回路 Mixer回路は受信信号をSDRに内蔵されているA/D変換チップが扱える信号周波数に変換する役割をします。また、受信性能を決める最も重要な部品で、ダイナミックレンジが受信性能を左右します。FLEX-1500では Quadrature Sampling Detector を採用し、3rd IP は +20dB を得ています。近接妨害に強く2KHzセパレーションの近接妨害排除能力は最近のトップレベルの受信機に迫ります。この比較は、 Sherwood Engineering Inc. のサイトで参照できます。この外の重要な性能要素として、ローノイズ、高い選択性があげられます。 ◆A/D変換 Mixer回路で変換された信号はサンプリングレート48KHzのA/D変換チップでパソコンが扱えるデジタル信号(データ)に変換されます。変換後のデータはUSB2.0インターフェースでパソコンに転送されます。 ◆PowerSDR SDR本体から転送されたデータは、パソコンに導入されたPowerSDRで処理されます。その主な機能として、変調、復調、フィルタリング、音声処理(グライコ、エキスパンダー、等)、モニタースコープ等のアクセサリーで、必要に応じてソフトウェアのアップグレードがなされます。PowerSDRは FlexRadio Systems のダウンロードサイトからフリーソフトとして入手できます。 ◆D/A変換 PowerSDRで処理されたデータは再びUSB2.0インターフェースでSDRのD/A変換チップに転送されAF信号に変換されます。その後、AFアンプで増幅されヘッドフォンやスピーカーを鳴らします。 ◆送信系 以上、受信系を中心に解説して来ましたが、送信系は概ねこの逆とお考え下さい。FLEX-1500本体のマイク端子に入力された音声信号は本体でA/D変換され、USB2.0インターフェースでパソコンに転送され、PowerSDRで処理されます。その後、再びUSB2.0インターフェースで本体に戻り、D/A変換が行われた後にQuadrature Sampling Exciter でRF信号に変換され、RFアンプ、BP Filterを経て送信されます。 |
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5.現在のSDRの課題 SDRの信号処理は音声通信の性格上、高速リアルタイム処理が要求されます。最近のパソコンは処理速度が速くなったとはいえ、汎用に作られているため、リアルタイム処理専用に作られているDSP無線機に搭載されている専用チップとファームフェアの様なわけには行きません。この為、処理遅延が発生します。また、USBもパソコンメーカーのドライバーにより速度に差があり、遅延を助長する場合があります。これらを克服し、性能を十分に引き出すためにはOS(Windows等)の設定変更をする必要があり、時によってはこの作業が煩雑を極めます。これを解決する為に、FlexRadio Systems 社ではFlexReadyというカスタムメイドのパソコンを準備している様です。また、eHam.net の Product Review ではWindows7で問題が多いとの書き込みがありました。SDRを使っている方より、「PowerSDRは完全に安定しているとはいえず、パソコンがフリーズして送受信が出来なくなる事があるので、常に予備の無線機をスタンバイしています」との実態をお聞きしました。未だ黎明期の技術なので、当分は従来の無線機は手放せない様です。 |
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6.SDRの今後 2005年に米国でHPSDR(High Performance Software Defined Radio)プロジェクトが複数の有志により立ち上がりました。ここでは高速A/D変換チップを採用して、DC〜50MHzのRF信号を直接デジタル信号に変換する機能を有するSDRシステム開発を目指していました。既にMercury社から16bit 132MIPS(注4)の高速チップを使用したHPSDRボードが発売されています。これにより、Ozyインターフェースボードを使いUSB2.0でパソコンと接続し、信号処理ソフトウェアはPowerSDRを使用するシステムが構築できます。 図2 注4:MIPS(Mega Instructions Per Seconds)はコンピュータが決められた命令を単位時間に処理できる回数を表し、処理速度の速さの目安となる数字。132MIPSという数字は一昔前のオフィースコンピューターの計算能力と同じ! |
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7.FLEX-1500を使ったシステムの一例 最後に、FLEX-1500を使い100Wで運用出来るシステムの一例を紹介します。
図3 |
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参考資料 |