マルチヌー: オペラ『ミランドリーナ』H.346



解説:関根日出男

Martinu's opera MirandolinaComic Opera in 3 Acts to a libretto by the composer after Carlo Goldoni's play La locandiera (1753)
Daniela Bruera - soprano (Mirandolina, locandiera), Tereza Matlova - soprano (Ortensia, commediante), Elena Traversi - mezzosoprano (Deianira, commediante), Massimiliano Tonsiri - tenor (Fabrizio, cameriere di locanda, Simon Edwards - tenor (Il Conte d'Albafiorita), Enrico Marabelli - bass-baritone (Il Cavaliere di Rippafratta), Simone Alberghini . bass (Il Marchese di Forlimpopoli), Simeon Esper - tenor (Servitore del Cavaliere) ; National Philharmonic Orchestra of Belarus, Riccardo Frizza



<成り立ち>


 1953年4月半ばに「第6交響曲」を仕上げ、5月半ば13年ぶりにアメリカからヨーロッパに戻ったマルチヌーは、アメリカのヴィザを持っていたため故国へは帰れず、まずはパリに旅装を解いた。

その後、約2年間ニースのブランコラル通りにある、戦前からの親友、画家シーマ(1891~1971)の閑静な別荘に滞在した(近くのホテル・レジナで1955年に画家マチスが亡くなっている)。

グッゲンハイム財団委嘱(3千ドル)作品のための題材を、市立図書館で探していた彼は、ゴルドーニ(1707~93)の「旅籠の女主人 La locavdiera」(1753年作)のイタリア=フランス語対訳本をみつけ、パリ時代からの知己である詩人アントーニオ・アニアンタ(1900-83)に、とくに発音や韻律の上での助言を求め、自分でイタリア語の台本を書いた。

 オペラ『ミランドリーナ』は1953年12月15日から翌54年7月1日にかけ作曲された。これは1936年に書いたオペラ・ブッファ『門外劇場 Divadlo za branou』H.251や、ゴーゴリ原作によりオペラ『結婚 ?enitba』H.341(1952年作)をさらに発展させたものである。

  この間、彼は54年4月にはイタリア、アレッツォのサン・フランチェスコ聖堂にピエロ・デルラ・フランチェスカ(1415頃~92)描く「聖十字架伝説」の壁画を見にでかけており、このオペラにはイタリアの明るい太陽が反映している。彼がはじめてイタリアを訪れたのは1919年、チェコ・フィルの一員としてジェノヴァで公演した折だった。

 初演は1959年5月17日スメタナ(現プラハ・オペラ)劇場で、カシュリーク指揮、マンダウス演出で行われ、主役をマリア・タウベロヴァー(1911-2003)が歌った。題名はチェコでこの劇が上演されてきた慣習にならい、女主人公の名前『ミランドリーナ』をとった。

 作品は室内オペラの形式をとり、アリア、二重唱、アンサンブル、レシタティヴォなどの間に、魅力あふれるワルツや軽快な間奏曲を入れ、3幕冒頭には8分の6拍子のイタリアのサルタレッロ舞曲が置かれている。

配役: ミランドリーナ(コロラトゥラ・ソプラノ): 父親の死後半年の旅籠を経営している女主人。
騎士リッパフラッタ(バス・バリトン):自称女嫌いの騎士。 フォルリンポポリ侯爵(バス):たかり屋の落ちぶれ貴族。
アルバフィオリタ伯爵(テノール):金に物言わす貴族。 ファブリツィオ(テノール):女主人の召使。
オルテンシア、偽称パレルモの男爵夫人(ソプラノ)と デイアニーラ、偽称ローマの伯爵夫人(アルト):ともに旅回り一座の女芸人。
騎士の従者(テノール)。





あらすじ

 美人で頭のいい旅籠の女主人ミランドリーナの常連客には、彼女にぞっこんの貴族2人と女嫌いの騎士がいる。騎士が自分に関心を示さないのでミランドリーナは、手練手管を用いて彼をなびかせる。その罠は、彼の腕の中でわざと気を失うことでクライマックスに達する。最後にミランドリーナは、密かに彼女を愛していた召使と結ばれる

第1幕

 第1場:公爵、伯爵「違い、大違い」。 ハ長調、アレグロ、12/8 拍子の軽快な前奏(譜例1)にはじまる。
舞台はフィレンツェの旅籠のテラス。魅力的な女主人ミランドリーナにぞっこんなのが、フォルリンポポリ侯爵とアルバリオリタ伯爵。身分だけが自慢の侯爵が彼女のパトロンだと自慢すると、金持の伯爵は彼女は欲しいのは金で、さらに彼女の心は召使のファブリツィオに傾いていると言う。

 第2場:公爵、伯爵、召使ファブリツィオ「ご用の向きは?」。 召使が侯爵には単に"シニョーレ"と言うのに対し、伯爵には"illustrissimo高名なお方"と呼ぶのは、前者がチップをはずまないからだ。二人の貴族は、ミランドリーナが求めてるのが、金か庇護かを巡って口論をはじめる。

 第3場:公爵、伯爵、騎士「この騒ぎは?」。 この騒ぎに騎士リッパフラッタが姿を現す。伯爵は侯爵よりミランドリーナを愛しており、その証拠にここで大金をはたいてると言う。彼女の魅力を激賞する二人の言葉に、女嫌いの騎士はうんざりする。(この時、親戚の伯爵が15万スクゥデイという莫大な遺産と、うら若い娘御を騎士に残し急逝された、という知らせがシエナの親友から届いたが、騎士は自由な独り身にはそんなものは要らないとうそぶく)。

 第4場:公爵、伯爵、騎士、ミランドリーナ「皆様、ご機嫌よろしゅう」。
ミランドリーナが登場。伯爵は彼女にダイアのイアリングを贈るが、騎士と公爵はあざ笑う。遠慮がちな女主人の断りも長続きせず、騎士は女性の邪な心を確信する。この点を確かめようと、彼は自分の部屋の寝具が汚いと文句を言う。ミランドリーナは彼が少しは礼儀をわきまえるのを期待して、彼の願いを聞き入れる。騎士は疑心暗鬼のうちに出てゆく。だがこの無作法な敵をやっつけてやろうと、もうミランドリーナは心に決めていた。

 第5場:公爵、伯爵、召使、ミランドリーナ「旦那さま、お客様で」。 召使の案内で入ってきた宝石商が、伯爵にプレゼント用の宝石を薦める。こんな高価な物は買えない侯爵は、こうした贈物は女性を傷つけるだけだと文句を言うが、ミランドリーナは皮肉たっぷりにそれを否定する。侯爵は、自分が伯爵だったら金なんかでなく、君に愛の告白をすると言って出てゆく。

 第6場:ミランドリーナのアリア「よくもおっしゃったわね!」。 ミランドリーナは女性を蔑む騎士を誘惑し、復讐してやろうと決心する。
前奏の音型による伴奏にはじまるり、後半(譜例2)はアジタートし速度を次第に速めてゆく、ロッシーニを思わすコロラトゥラのアリア。

 第7場:ミランドリーナ、召使「ご主人さま!」 ミランドリーナの計画を知らず、彼女を密かに愛している召使ファブリツィオは嫉妬する。(この場はカット)
 
 間奏曲:目まぐるしいヴィーヴォに、静かなモデラート部分が続く。

 第8場:ミランドリーナ、騎士「入ってもよろしい?」。
舞台は騎士の部屋に移り、何でも言うことを聞くミランドリーナに、騎士の頑な心もうち解け、ともにワイングラスを傾ける始末。
モデラート、変ホ長調、3/4 拍子。クラリネット・ソロを伴うミランドリーナの優美な歌(譜例3)にはじまり、次第に情熱を帯びてくる。

 第9場:騎士のアリア: 「あの女が気に入った! だが女に惚れるなんて馬鹿げてる!」(譜例4)


第2幕

 第1場:オルテンシア、デイアニーラ、ミランドリーナ、召使、公爵、伯爵
「ボーイ!」。 ポーコ・アレグロ、変ホ長調、4/4 拍子の優雅な短い前奏についで、貴婦人になりすました女芸人のデイアニーラとオルテンシアが旅籠へ入ってくる。宿帳に名前を書きつけながら、召使フェブリツィオはチップをあてにしているが、ミランドリーナは素性の卑しい彼女らの正体をすぐに見抜く。しかし公爵には彼女らの言う通り、貴婦人の名前で紹介し、お礼に絹のスカーフをもらう。そこへ伯爵がダイアの宝石をプレゼントしに入ってくる。これには女芸人たちは驚き、ここでも金が勝利する。

 間奏曲:弦のピチカートとピッコロを伴奏にフルートが曖昧模湖とした旋律(譜例5)を奏で、幕が開くとこれが上下動する弦に受けつがれる。

 第2場:騎士、従者、召使「旦那に言ってくれ」。召使が昼飯を持っくる。

 第3場:騎士、従者、ミランドリーナ「よろしいですか?」。
騎士にミランドリーナがじきじきに給仕する。彼女自身が料理したローッストビーフはすばらしい。従者は彼女にイスをすすめ、卵をとりにキッチンに姿を消す。罠にかかった騎士を見てミランドリーナはほくそ笑み、騎士と盃を交わす。ミランドリーナがブルゴーニュ・ワインのお代わりを所望する場面から、アレグロ・モルト、ニ長調、3/4
拍子の軽快なワルツ(譜例6)となる。

 第4場:騎士、ミランドリーナ、公爵「乾杯!」。
そこへ侯爵が入ってきて驚くが、食事に加わる。騎士はこうしてミランドリーナが、男をたぶらかすのではないかと疑念を抱くが、彼女とブルゴ-ニュ・ワインで乾杯し、彼女が祖母に教えてもらった「バッカスに乾杯」=アレグレット、ヘ長調、2/4
拍子(譜例7)を歌う:

  バッカス〔酒〕とアモール〔愛〕に栄えあれ / この神々はわれらの慰み
片や喉より腹にくだり / 片や目より心にいたる 美酒うまざけ飲めば恋に捕われ / 互いに交わす愛の眼差し。

 第5場:騎士、従者「あの女はすばらしい!」。
従者と二人きりになった騎士は、支払いをすませ明日リヴォルノへ戻るべきか、ここに留まるべきかと、旅支度しながら思案している。ここでは前半に前場の乾杯の歌、後半には序曲と同じ音楽が使われている。

 第6場:騎士、従者、公爵、伯爵、ミランドリーナ、オルテンシア、 デイアニーラ「ねね、あなた様!」。
勘定書を持ってきたミランドリーナは、エプロンで涙を拭い、イスに倒れこんで気を失う。驚いた騎士は助けを求めに走り、水甕を手に戻ってきて、どこへも行かないと言って彼女を落ち着かせ、出立の用意に剣と帽子と旅行鞄を持ってきた従者を追い返す。だがドアが開いて入ってきた皆は、優しいトリックが無骨さに勝利したと讃える。謀られたと覚った騎士は水甕を床に投げつけ、憤然と立ち去る。最後にみなは騎士をあざ笑いながら乾杯の歌を歌う。


第3幕

サルタレルロ舞曲:ヴィヴァーチェ、3/8 拍子、途中から明瞭な変ホ長調主題(譜例8)が出てくる。(この映画ではフィナーレの後に移されている)

 第1場:ミランドリーナ、召使、従者「お楽しみは終り」。 短い前奏はポーコ・アンダンテ、変ロ長調、6/8拍子の牧歌的なもの。
ミランドリーナは自分の部屋で洗濯物にアイロンをかけ、召使のファブリツィオと話を交わしている。遊びは終りさあ仕事。熱いアイロンを持ってくるよう言われた召使は、金や贈物で貴族たちになびく女主人にやきもきしている。この思いは従者が持ってきた騎士からのご機嫌うかがいのメッセージと、ハッカ水(気つけ薬)を入れた黄金の小瓶で倍加するが、彼女はそれを拒む。12ゼッキーノもする高価な贈物を断るとは、と従者はいぶかるが、召使は貧乏人にもチャンスはあるんだと大喜び。

 第2場:ミランドリーナ、騎士、召使「ここへは来たくなかったが」。 贈物を断られた騎士はじかに文句を言いにやってくる。ミランドリーナはこれを無視し、召使に新たな熱いアイロンを持ってくるよう命ずる。伯爵からは贈物を受けとったのにと騎士は文句を言う。さらに彼女は贈物の小瓶を洗濯籠に放り込み、もっぱら召使と親密な会話を交わし、騎士の嫉妬心をあおる。ミランドリーナに言い寄りアイロンで火傷させられた騎士は立ち去り、舞台にはアイロンを持った召使だけが残る。(この場後半から次の第3場はカット)

 第3場:公爵、伯爵、オルテンシア、デイアニーラ「ちくしょうめ!」。 皆は騎士がミランドリーナの虜になったことを噂してるが、彼女が彼を特別扱いしていたと気分を害し、こんな旅籠から出て行こうと言う。 間奏曲:アンダンテ・モデラート、ニ短調~ヘ長調(譜例9)~ト長調(トランペット)~変ホ長調、3/4拍子。主に16分音符のスタッカート弦を伴奏とするやや悲しげな旋律による。

 第4場:ミランドリーナ、召使、騎士。ポーコ・モデラート、変ホ長調、3/4 拍子のミランドリーナの「あたしは哀れな女!」(譜例10)にはじまる。 ドアを開けろと怒り狂う騎士を、部屋で待ってるよう追い返したミランドリーナは、召使を呼んで状況を説明する。ようやく彼は、親なしに成長した若くて経験不足な娘が、まともな結婚を願ってるのに気づく。

 第5場:ミランドリーナ、召使、騎士、公爵、伯爵「だれだノックするのは?」。3つのドアのある部屋。ドアのノックを聞いてミランドリーナは別室に逃がれる。怒った騎士が部屋に入り、公爵の剣をとりやっとの思いで鞘を払って伯爵に立ち向かうが、その剣はまん中で折れて半分しかない。

 第6場:騎士、ミランドリーナ、召使、公爵、伯爵、オルテンシア、 デイアニラ「さて皆様」。 騎士、ミランドリーナ、二人の女芸人、ファブリツィオによる下降音型カノンではじまる。決闘の最中にミランドリーナが入ってきて「騎士様は女になんか全然興味はないはず」と言い、騎士も皆の手前これを否定できず、騒ぎは収まる。「あいつもついに女の惚れた」という嘲笑を背に騎士は退散し、ミランドリーナが召使への愛を告白し(譜例11)、父親の遺志をついでファブリツイォと結ばれ、ハッピーエンドの合唱となる。



                第1幕(場)      第2幕(場)    第3幕(場)
     ミランドリーナ      4, 5, 6, 7, 8,   1, 3, 4, 6,     1, 2, 4, 5, 6
     フェブリツィオ   2, 5, 7,         1, 2,        1, 2, 4, 5, 6,
     公爵        1, 2, 3, 4, 5,       1, 4, 6,         3, 5, 6,
     伯爵        1, 2, 3, 4, 5,       1, 6, 3, 5, 6,
     騎士           3, 4, 8, 9,      2, 3, 4, 5, 6,    2, 4, 5, 6,
     従者                      2, 4, 5, 6,    1,
     オルテンジア               1,       6,     3,   6,
     デイアニラ                 1,       6,     3,   6,




<気のきいた台詞>

侯爵「伯爵は贈物で君を物にしようとしてる」――ミラ「贈物はお腹に悪くありませんわ」

騎士「あんたは料理上手だそうだが、私は侯爵や伯爵みたいに易々とは料理されんぞ!」

ミラ「あの人の胸に火がついた。今に炎を上げて燃えさかり、燃え切って灰になる!」

騎士「君にふさわしい相手は王様だ」――ミラ「スペードの王様、それともハートの?」

ミラ「男にうち勝つ武器はあまたあるけど、とっておきの手だては気絶よ!」

騎士「俺は来たくなかったが、悪魔に連れてこられちまった!」

ミラ「騎士さま、新月はいつ出ましたの?」 ――騎士「俺の気が変ったのは月の光のせいじゃない、君の美しさ、優しさのせいだ!」
ミラ「あら、御免あそばせ、わざとしたんじゃありません」 ――アイロンで火傷した騎士「これしき、胸の痛みに比べれば何でもない!」


<この映画の出場者 >

ヴァイナル指揮チェコ放送交響楽団、
    チェコ語への翻訳:ルドルフ・ヴァニャーセク

歌手:
ミランドリーナ:ボハーチョヴァー(1936)
ファブリツィオ:パヴリーチェク(1931)チャープ(演技)
公爵     :イェドリチカ(1929)
伯爵     :V・コチー(1920)
騎士     :インドラーク(1939~93)
従者     :カルピーシェク(1928)
オルテンジア :ショルモヴァー(1938)
デイアニラ  :フロビツォヴァー(1924)
                    (1974年制作、チェコ放送SO)



ゴルドーニ Carlo Goldoni(1707~93)

  医師の子としてヴェネツィアに生まれ、幼い頃は家にある人形芝居の道具で遊んでいたという。9歳のとき父に従ってペルージャへ赴き、3年間イエズス会の学校に通った。その後リミニの知り合いの家にあずけられ、ドミニコ会士のもとで学んでいたが、フロリンドなる人物の率いる演劇グループと親しくなり、14歳のとき彼らとともに、両親の住まうヴェネツィア郊外のキオッジャへ逃げ帰る。そこで2年間、父親の往診の助手をつとめるかたわら、ヴェネツィアで法律を学んだ。

  1723年(16歳)にはパヴィアのギズリエーリ学校に通い、2年後に卒業予定だったが、町の女を揶揄した風刺劇「巨人」を書いたため、卒業寸前に放校となる。その後も各地を転々とし1727年(20歳)にはモデナでも学んだが満足できず、一時は僧職に入ろうともした。そこで父親はキオッジャに呼び戻し、ヴェネツィアの芝居小屋に通うのを許してくれた。

  1728年から30年にかけ裁判所の書記を勤めたが、30年に父親が急死し、31年にようやくパドヴァ大学を卒業、法学士となってヴェネツィアで弁護士を開業したが、顧客は少なく、演劇関係の仕事に熱中し、1732年にはミラノで知り合った喜劇一座のためにインテルメッゾ(幕間狂言)「恋ゆえの怒り別名ヴェネツォアのゴンドラ漕ぎ」を書いた。

  1736年(29歳)でジェノヴァ出身のニコレッタと結婚。38年インメール座つき作家として喜劇「社交界の男」を発表した。39年にジェノヴァ駐在ヴェネツィア領事となった。43年「上品な夫人」を書き上げると領事職をなげうち、これを上演しようとヴェネツィアに帰ったが成功しなかった。その後も各地を転々とし、1745年から48年までピザで弁護士をしていた。

  1748年(41歳)、リヴォルノでアゴスティーノ・メデバックという喜劇役者と出会い、ともにヴェネツィナに戻り、以後、演劇に身を捧げる決心をした。

  1752年まで、はじめはジャコモ・メデバク座つき作家としてサンタンジェロ劇場で、ついでフランチェスコ・ヴェンドラミン座つき作家としてサンルカ劇場で活躍、その大部分の戯曲が上演され好評を博した。

   彼の劇作家としての最大の功績は、16世紀以降イタリア各地で流行していた,道化役者の即興に多くの台詞がまかされていた仮面即興劇(コメディア・デルアルテ)を排し、あらかじめ書かれていた台詞通りにきちんと劇を行う、近代的性格劇を確立した点である。このためピエトロ・キアーリ(1712~85)や「3つのオレンジの恋」「トゥーランドット」を書いたカルロ・ゴッツィ(1720~1806)と論争を展開して、演劇界に多くの敵を作り、1762年にはパリに逃避する羽目になった。

  この年パリの「イタリア劇団」主催者としてパリに招聘され、フランス、イタリア両語で24の喜劇を書き、中でも「親切な気むずかし屋」(1770年)が好評だった。また65年から69年と、75年から80年にかけヴェルサイユで、ルイ15世、ルイ16世の姫君たちのイタリア語教師をつとめ、ヴォルテール、ディドロらと知り合ったが、フランス革命のため年金が差し止めになり、アンドレ・シェニエらの尽力でそれが復活した頃には、すでに窮乏のうちに他界していた。

  彼は1884年から87年にかけ「回想録」をフランス語で著している。1875年にはヴェネツィア市は由緒あるサン・サルヴァトーレ劇場を、ゴルドーニ劇場と改名した。

  平明なイタリア語のみならず、ヴェネツィア方言やフランス語で書かれた、彼の200近い戯曲のうち代表的なのを以下に列挙する:

「二人の主人を一度に持つと」(1745)
「ヴェネツィアのふたご」(1747)
「身持ちのよい娘」「抜け目ない未亡人」(1748)
「良妻」「騎士と貴婦人」(1749)
「コーヒー店」「骨董屋の家族」「嘘つき男」(1750)
「恋する小間使」(1752)
「旅籠の女主人」(ヴェネツィアの謝肉祭で初演)「物見高い女たち」(1753)
「広場の住人たち」(1756) 「恋人たち」「スミルネの興行師」(1759)
「奇妙な事件」「田舎者」(1760)
「避暑地三部作」(1761)
「キオッジャの大騒ぎ」「トダロ・プロントロン氏」(1762)
    1786年にゲーテはヴェネツィア方言で書かれたこの劇を観ているが、方言の細部までは理解できなかったという。
「扇子」(1764)
「親切な気むずかし屋」(1771)