第5交響曲
H.310 (1946/2-5)

 これは1946年2月から5月半ばにかけニューヨークで作曲され、翌1947年の「第2回プラハの春音楽祭」期間中の5月28日、クベリーク指揮チェコ・フィルにより初演された。これには作曲者の代理として夫人が出席した。彼女はエスプラナーデ・ホテルに滞在してミュンシュ、バーンスタイン、ズルザヴィーらと会い、ムハの息子イジーの住まう西ボヘミアの芸術家村ズビロフに、帰国後の住まいを下検分し、東北ボヘミアのサナトリウムに入所中の義姉マリエを見舞った。この作品は最初は国際赤十字に捧げるつもりだったが、のちに献呈先はチェコ・フィルに変更された。



第1楽章:アダージオとアレグロの緩急テンポが交代する複合2部形式。

 導入部アダージオ、4/4拍子では、ホ/ヘ音と変ロ/ロ音の短2度を重ねた不安な和音から、短3度3音による木管とピアノのきらびやかな高音と、トレモロの波が次々と押し寄せる。このパターンはアレグロに入り主題(譜例1)がオーボエで提示されても続く。トランペットが長短3度を4回吹き、ピアノの和音下降進行を経て、ピッコロとヴァイオリンが高音ユニゾンで副主題(譜例2)を奏でる。アダージオで冒頭部分が再現するが、新たに音価を長くした3音型をファゴットが吹く。アレグロに入り主題は5度上で示され、管と弦ががかけ合ううちにフルートに息の長い優美な旋律(譜例3)が出る。ヴァイオリンに主題が現われ、打楽器が鳴ってコーダ(アダージオ)となり、ホルンと金管が高らかにコラールを奏し、変ロ長調主和音に終止する。







第2楽章:自由なロンド形式、ラルゲット。

 ヘ長調3/4拍子の軽快なリズムにはじまり、シンバルとピアノ打音を合図に、低音から高音へと波状的にヘモトリックなオスティナート音型をくり返してゆくと、プロコフィエフを思わす主題(譜例4)がフルート・ソロに現われる。

その後テインパニの刻む音の上に、フルートとヴァイオリンに優美な下降旋律が出て一段落すると、トランペットが鳴り弦が対旋律で応える。打楽器がリズムを刻む後半に入ると、主題がヴァイオリン・ソロで再現され、トランペットについでチェロが叙情的な旋律を奏で、ヘ長調主和音に終わる。



第3楽章

レント、3/4拍子の導入部は、弦5部がヘ・変ト・変ホ音をもとにカノンで、チャイコフスキーの「悲愴交響曲」終楽章、5小節目からと同じ音型を延々と重ねてゆく。ホルンなど他楽器も加わりアレグロに入ると、主題断片の予告についで、喜ばしげな下降主題(譜例5)がヴァイオリンで提示され展開される。メーノ・モッソ(ポーコ・アンダンテ)では導入動機が変形して再現するが、やがてピアノの32分音符オスティナートや、弦と木管のトレモロの中に埋没してゆく。アレグロではオーボエにシンコペーションをきかせた副主題(譜例6)が、ピアノやトライアングルのトレモロを伴って現われ、奔馬調のリズムに乗って展開される。やがて主題が再現して高揚し、低音弦に音価をのばした導入部3音型が現われ、ポーコ・ヴィーヴォのコーダとなる。