第3交響曲
H.299 (1944/5-6)

1943年から44年にかけ、マルチヌーの気分は勝れなかった。戦争の見通しは立たず故国からの音信は不通だったから。44年5月1日、夫妻はコネチカット州リッジフィールドのチェリストL・ラポルトの別荘に移り住み、マルチヌーは翌日から、クーセヴィツキーのボストン交響楽団指揮活動20周年を記念する、この作品にとりかかった。26日までに完成した2楽章には、悲痛な気持ちがこめられている。ここは閑静な所で広い庭には、大きな蛇やネズミがいっぱいいたが、日本人コックがおいしいスッポン料理を作ってくれた。

6月6日カナダ放送は、連合軍のノルマンディー上陸を告げた。夫妻はラジオにかじりつきシャンパンを開けた。マルチヌーの憂鬱は霧散したが、嬉しくてしばらく仕事が手につかなかった。しかし6月14日には全曲を書き上げた。

初演は被献呈指揮者と楽団により19451012日に行われた。プラハではカレル・シェイナ指揮チェコ・フィルにより、19491013日に初演されている。

ここには故国チェコスロヴァキアの悲劇と郷愁が投影されており、「2群の弦、ピアノ、ティンパニのための二重協奏曲」H.271(38年作)、「戦場のミサ」H.279(39年作)、「リジツェ追悼曲」H.296(43年作)とともに、戦争チクルスの一作品である。



第1楽章:ソナタ形式。アレグロ・ポーコ・モデラート、3/4拍子。

全曲の核となる冒頭の運命的な、変ホ・変ト・ヘ3音による動機(譜例1)が、ヴァイオリンで奏でられ、これにすぐ木管の動機(譜例2)が続く。ハープとピアノの和音進行が音階的に下降する音型を交え、曲は展開してゆく。中間部にはファゴット・ソロの旋律(譜例3)が顔をのぞかせる。






第2楽章:ラールゴ、3/4拍子、ハ短調~ハ長調。

 複合二部形式のバロック風幻想曲。弦楽器にみによる下降音型の導入についで、ヴァイオリンにチャイコフスキーの第5交響曲の主題(譜例4)が引用され、フルート・ソロが高音でホ短調の優美な旋律(譜例5)を奏でる。ついで、ほとんど全楽器の32分音符を主体とした、細かいトレモロ、アルペッジオの部分が続き、ヴァイオリンが最初の主題を2オクターヴ上で奏で、第2部がくり返され、ハ長調主和音に終止する。





第3楽章:形式に捕らわれない自由なソナタ形式で。

「二重協奏曲」H.271、髣髴とさせる劇的な自由賛歌。トランペットとトロンボーンのユニゾンによる、荒々しい2度の上向4音前奏はじまり、高音ヴァイオリンに変ロ短調の主題(譜例6)が出る。ハープのアルペッジオ和音進行、弦と管のトリル、トレモロの交替があり、ポーコ・メーノからトランペット、ファゴット、ホルン独奏部分となる。テンポが元に戻るとオーボエに主題変形が出て展開し、冒頭主題がくり返される。アンダンテからはヴィオラ・ソロが延々と続き、ファゴットが対旋律を奏でる。オーボエに優美な旋律(譜例7)についで、高音ヴァイオリンが息に長い旋律を奏でる。

アンダンテ・ポーコ・モデラートの長大なコーダでは、前打音を伴うピッコロ、フルート、ハープ、ピアノのアルペッジオ和音を背景に、オーボエがホ長調の旋律( 譜例8)を奏で、金管に冒頭の4音が再現され、ホルンとトロンボーンが交互にドヴォジャークの『レクイエム』冒頭主題を奏で、全曲を閉じる。