マルチヌー交響曲:第2番


第2交響曲
H.295 (1943/5-7)

この交響曲の楽想は、第1番作曲中の1942年初頭、ジャマイカ島を散歩していて浮かんだという。しかしこれをもとに第2番を書き始めたのは、1943年5月29日になってからで、7月24日にコネチカット州ダーリエンで完成した。ニューヨークに近いここは、緑の木々に覆われた木造家屋の点在する閑静な地である。この作品はクリーヴランド在住のチェコ人に依頼され、彼らに捧げられた。形式は第1番よりやや伝統的で単純明快、チェコ的で叙情性に富んでおり、1930年代に多用していたコンチェルト・グロッソの作風を、交響曲の形式に仕上げたと言ってよい。

 初演は19431028日、ラインスドルフ指揮クリーヴランド交響楽団により行われた。この時マルチヌーは生まれてはじめて飛行機に乗った。演奏後、チェコの民族衣裳をまとった3人の乙女が、舞台に大きな花を捧げ、作曲者を感激させたという。当日はチェコスロヴァキア共和国独立25周年にあたり、「リヂツェ追悼曲」*注も、カーネギー・ホールで、ロヂンスキー指揮ニューヨーク・フィルにより初演されている。楽器編成は大規模だが、小楽器群が交代で現われる室内楽的スタイルによっている。

注:1942年6月末、ゲシュタポ長官ハイドリヒがプラハ街頭で、ロンドンから飛来した

チェコ義勇軍落下傘隊員により爆殺されると、ナチスは報復として翌月上旬、隊員の

出身地というだけで、プラハ西方のリヂツェ村を破壊、住民を虐殺した。同様のこと

は6月24日、東ボヘミアのレジャーキ村でもくり返された。



第1楽章:アレグロ・モデラート、6/8拍子、簡潔なソナタ形式。

ヘ長調~ニ短調主題(譜例1)は弦で示され、半音階的に下降する副主題(譜例2)が16小節目に現われ、3拍子のリズムで進んでゆく。展開部ではフルートのパッセージ、弦のトレモロ、ハープとピアノのアルペッジオとグリッサンドが目をひく。主部が再現し短いコーダのあと、変ロ長調主和音に終止する。





第2楽章:アンダンテ・モデラート、9/8拍子。

 ヴィオラのハ音持続の上で、オーボエとクラリネットが変ホ長調~ハ短調旋律(譜例3)を優しく奏でる。ついで静けさをたたえた民謡風の派生主題(譜例4)を弦楽合奏が、管楽器のうごめきを間に挟み、転調をくりかえしながら延々と奏でてゆく。ポーコ・アニマートからは弦の持続音と、ピアノの変ホ音連打に支えられ、木管の下降音型が何度もくり返される。ポーコ・ピウ・アニマートでこの音型は、木管と弦で同時にフォルテで奏でられ、弦の細かい刻みを背景にピアノが、変ホ、変ニ、ハの3音を4回強く響かす。弦楽合奏を経て最後は、フルートが冒頭主題の変形を静かに回想する。






第3楽章:ポーコ・アレグロ、2/4拍子。

 プロコフィエフを思わせるスケルツォ風行進曲。1小節のトゥッティ上向音型についで、トランペットなどの軍楽風リズムに乗って、フルート、オーボエ、ハープにおどけた音型( 譜例5)が提示され、ついで第1ヴァイオリンに軽快な変ロ長調主題(譜例6)が出る。これがトゥッティで華やかに展開され、木管の高音から低音へと下降する音型が、何度も反復されたあと、弱音器つきトランペットが「ラ・マルセイエーズ」の断片を奏でる。打楽器の活躍するモトリックなトッカータを経て、主題が再現しハ長調主和音に終止する。




第4楽章:スケルツォ風ロンド。

アレグロ、4/4拍子のイ長調下降主題(譜例7)が楽しげに提示され、シンコペーションをきかせた経過句となる。叙情的な変イ長調副主題(譜例8)が、ソロ・オーボエとソロ・ファゴットのユニゾンで現われ。これに木管四重奏が続く。叙情主題はチェロに受けつがれ、せわしないパッセージが続く。ついで変ホ・変ニ・ハ・ニ・ハ5音のオスティナート音型を中心とした展開が行われる。副主題がフルートに現われ、クラリネット、ハープ、ピアノが半音階上向音型でこれを彩る。5音オスティナートが再現して高揚し、下降主題の変形を第1ヴァイオリンが奏で、ニ長調主和音に終止する。