★ チェコ・フィルハーモニー六重奏団コンサート

2005年年6月21日(火)
19:00
東京文化会館小ホール
マルティヌー:弦楽六重奏曲 他


B.マルチヌー:弦楽六重奏 H.224
(1932年/5月:演奏時間約19分)

解説:関根日出男

弦楽六重奏曲の名曲と言えば、ブラームスの第1番、チャイコフスキイの「フィレンツェの思い出」、シェーンベルクの「浄められた夜」がまず頭に浮かぶ。その他にもドヴォジャーク、レーガー、ミヨー、シュルホフらの作品がある。

 マルチヌーの弦楽六重奏曲は、彼の名を世界に轟かすことになった画期的な作品である。1932年2月初旬にバレエ・カンタータ「シュパリーチェク」を脱稿した作曲者は、その後たて続けに4曲の室内楽用セレナーデを作り、さらに5月20日から1週間でこの六重奏曲を完成した。これをクーセヴィツキーらが審査員をつとめるクーリジ・コンクールに提出していたが、彼はそのことをすっかり忘れていた。

 前年に4年半越しのマルチヌーとの恋を実らせ、結婚していたパリジェンヌのお針子シャルロットの回想によると、ある日ヴァイオリニストの友人ダシュキンが訪ねてきて、どうせまた友人たちのいたずらだろうと、借物のピアノの上に放置されている電報を見て、145曲の他の作品を抑えての入賞を伝えるワシントンからのものである、と教えてくれた。

賞金1千ドル(2万5千フラン)で夫妻の懐は潤った(もう1週間、気づくのが遅ければ、世界経済恐慌のあおりで、パリにあるアメリカ銀行が閉鎖されたため、この賞金は貰えなかったという)。しかし二人の暮らしは以前と同じくつつましいものだった。もちろんこれでマルチヌーは初めて自分のピアノ(プレイエル)を持つことができた。このピアノは第2次世界大戦中は、友人のハンガリー人作曲家ハルシャーニが保管し、戦後チェリストのヴェチトモフがプラハへ持ち帰ったと言われている。

 この作品は1933年4月24日、ワシントンでクロール弦楽四重奏団のメンバーなどにより初演され、クーリジ夫人に献呈された。戦後さるアメリカの出版社の依頼で、コントラバスを加えた弦楽合奏用にも編曲されている。




第1楽章:自由なソナタ形式

 ヴィオラとチェロがユニゾンで上昇するハ短調主和音による音型にはじまり、第1ヴァイオリンの高音から下降する楽句が、各楽器を経てチェロに渡され、低いニ音を長く延ばし、3/4拍子の序奏レントが終る。

 4/4拍子の主部アレグロ・ポーコ・モデラートは、第1ヴィオラ、第1チェロの変ホ長調のユニゾンにはじまり、高音からのせわしない下降のあと、第1ヴァイオリンが短い主題2つ(譜例1,2)を奏する。さらに第1ヴァイオリンの高い持続音の間に、他楽器はピチカートでとび跳ねる。

(譜例1)


(譜例2)


 主部冒頭音型が再現し、各楽器は18分音符で上昇し、間にピチカートの和音や跳躍音型をはさむ。八分音符のスタッカートを背景に、第1ヴィオラに表情豊かな挿句(譜例3)があらわれる。

(譜例3)


 85小節目から15小節の四分音符を主体とした経過句で、さらにこの後に持続音の下に始まる16分音符のせわしない動きと、八分音符による舞踏的な楽句とが交互にあらわれる。

 145小節に入ると、主部冒頭部分が20小節にわたって再現され、170小節からは、先の85小節からの15小節がくり返され、ハ長調主和音に終止する。





第2楽章:アンダンティーノ~アレグロ・スケルツァンド、三部形式
 6/8拍子、変ロ長調の短い上向主題(譜例4)を第1ヴァイオラが奏で、1小節毎にカノン風に他楽器を加えてゆく。18小節目からふたたび主題がくり返されるが、途中から変奏され、全楽器のトレモロを経て不協和音で小休止する。

(譜例4)


 3/8拍子のスケルツォ部分は、スタッカートで上下に飛び跳ねる主題(譜例5)が、ト短調から様々調に展開されてゆく。途中トレモロ部分を経て、後半リズミカルな伴奏に乗って、第1ヴァイオリンが息の長い上行音階を奏で、ヘ長調主和音でテンポIとなる。

(譜例5)


 再現部には冒頭の18小節目からの17小節が使われ、短いコーダはヘ長調主和音で静かに終る。





第3楽章:アレグロ・ポーコ・モデラート、ロンド・ソナタ形式
 2/2拍子ニ短調主題(譜例6)が第1ヴィオラに出て、他楽器がこれに加わって行く。三連音を含む経過句のあと、ヘ長調の第2主題(譜例7)がヴァイオリンのユニゾンで37小節まで3回くり返される。

(譜例6)


(譜例7)


 展開部では低音域と高音弦がかけ合い、第1主題をカノン風に展開してゆく。57小節からトレモロのうちにニ短調下降音型が反復され、ホ音のユニゾン持続をバックに第2ヴァイオリンがこの下降主題をイ長調で奏で、他楽器に渡してゆく。さらにスタッカートによる主題の展開が行われ、ヴァイオリンのユニゾンで勇ましいニ長調台主題が奏でられる。

 再現部では冒頭部分の37小節が忠実に、ついで157小節から先の57小節以降の16小節が、やや変形して反復され、第2主題による短いコーダは、喜ばしげなニ長調主和音でコンチェルト・グロッソ風の全曲をしめくくる。