リヂツェ追悼曲 Památník Lidicím H.296 解説:関根日出男 1942年5月27日、ボヘミア・モラヴィア保護領(第2次世界大戦中ナチス・ドイツ占領下にあったチェコの呼称)副総督ハイドリヒが、ロンドンから飛来、降下した自由チェコ・パラシュート隊員により、プラハ北部の路上で爆殺された。 ナチス占領軍は報復として6月10日、隊員の1人の出身地であるプラハ西北20キロの小村リヂツェを焼き払い、男子約200人を虐殺、婦女子約300名を強制収容所やドイツ人家庭へ送り、この村を地図の上から抹殺した。*注 1943年アメリカ作曲家連盟から、渡米2年後のマルチヌーは17人の作曲家と共に、大戦中の事件を音楽で表わすよう依頼された。当時コネチカット州ダリエンで休暇をとっており、7月24日に第2交響曲を完成させたばかりの彼は、激情と安らぎの祈りをこめたこの作品を8月3日に書き上げた。 初演は同年10月28日(チェコスロヴァキア共和国独立25周年当日)、ロヂンスキー指揮ニューヨーク・フィルによりカーネギー・ホールで行われ絶賛を博した。プラハ初演は1946年3月14日、R・クベリーク指揮チェコ・フィルが行い、本邦初演は1982年11年19日、ノイマン指揮チェコ・フィルにより上野文化会館で行われた。 楽器編成:フルート、オーボエ、クラリネット各3、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、タムタム、ハープ、ピアノ、弦5部。演奏時間:約9分。
アダージオ /アンダンテ・モデラート/アダージオの3つの部分から成る。 ◆ アダージオ~ ◆ ~アンダンテ・モデラート~ ここでは二度音程を上下する音型を軸に、ffとppの対比、ティンパニの連打などがあり、弦に穏やかな変ロ長調旋律(譜例3)が出て変ホ長調に落ち着く。最後の三度音程が何回か繰り返されたのち、 冒頭のテンポに戻ると突然、弦を伴うホルンがfで、長7度上向してハ音を吹き鳴らし、下降してヘ短調でベートーヴェンの「運命の動機」を響かせる((譜例4)「運命の動機」は大戦中BBC放送の勝利のコールサインだった。しかし最後の変ホ音ではすでに転調して静かに進行し、全曲はハ長調主和音で終止する。
注:パラシュート隊員たちはプラハ市内のキュリロス・メトデオ教会の墓所に隠れていたが、20日後に見つかり処刑された。戦後リヂツェ村に戻れた16人の中には、幸運?にも殺人罪でプラハに入獄していた男がおり、彼の話をもとに作家ボフミル・フラバル(1914~97)は、「私はイギリス王に給仕した」(1971作、2006年映画化予定)を書いている。1955年ここには記念館が設置され、「友情と平和のバラ園」には、全世界から送られた3万本のバラが植えられ、毎年6月第2日曜に記念式典が行われている。 同様の蛮行は2週間後の6月24日、東ボヘミアの町パルドゥビツェ近在の小集落レジャーキでも行われ、33人が銃殺、14人が連行され、生き残ったのは子供2人だけだった(現在、記念碑が建っている)。 |