チェロ・ソナタ第2 *1H.286

チェロとピアノのための二重奏には、3曲のソナタ(H.277, H.286, H.340)以外に、アリエッタ(H.188 B)、ミニチュア組曲(H.192)、ノクターン(H.189)、パストラール(H.190)、7つのアラベスク(H.201)、ロッシーニの主題による変奏曲(H.290)、スロヴァキア民謡主題による変奏曲(H.378)がある。

 1941年3月末ヨーロッパの戦乱を避け、アメリカに渡ったマルチヌーは、ニューヨーク郊外のロングアイランドはジャマイカ在住のリプカ*2の世話で、9月末から半年以上も近くの家に滞在していた。このソナタは11月から12月にかけ作曲されたもので、リプカに献呈され、翌年3月27日ワシントンでラポルト*3とエリ・ボンテンポにより初演された(演奏時間約20分)。



 注1:H.は、ベルギーの音楽学者ハルプライヒHarry Halbreich(1931年生)が、1968年にマルチヌーの全作品を作曲年代に整理した番号。

 注2:リプカRybka, Frank=František(1895~1970)オルガニスト、チェロ奏者。ブルノ・オルガン学校でヤナーチェクに学び、故郷ポリチカでマルチヌーと知り合う。1912年からアメリカに定住、ピッツバーク、ジャマイカで教えていた。渡米後のマルチヌーを全面的に支援し、友情は終生続いた。息子たちF・ジェイムズ(外科医、マルチヌーについての著書あり)とフランク(ホルン奏者)も、マルチヌー.と親しく付き合っていた。

 注3:ラポルトLaporte, Lucien Kirsch(1900~91)チェリスト。リエージュ生、1918年、同地音楽院卒、23年渡米、NBC(37年),CBS(38年)各オーケストラ所属。40年代前半New World(マンハッタン),Guilet各SQに所属、53年パガニーニSQを結成。


~ 解 説 ~

 第1楽章:アレグロ。ヘ短調の3音f-as-eにはじまるピアノの前奏(譜例1)後、4/8、3/8拍子の交代する主題(譜例2)が変ニ長調で示され、転調をくり返してゆく。チェロのラプソディックな音型を経て、ピアノの跛行リズムの上でチェロが自由な展開を行う。上行音型の波状的反復ののち静まり、冒頭の100小節がそっくりくり返され、ヘ音のユニゾンで力強く終る。

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 第2楽章:ラールゴ。嬰ハ短調にはじまる陰鬱なピアノ和音進行の前奏後、チェロがエレジー(譜例3)を奏でる。途中低音にドヴォジャークの「レクイエム」主題が引用されている。中間部ではピアノの下降連音がフォルテとなって、チェロがレシタティフを歌い、嬰トの長い持続音ののち主題が再帰し、ホ長調主和音に終止する。

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 第3楽章:アレグロ・コンモード。ピアノによる、8分音符3つと16分音符6つを連ねた、ハ短調分散主和音の前奏(譜例4)の後、主題(譜例5)がヘ短調で出、やがて優美な下降音型(譜例6)がト長調で奏でられる。ポーコ・メーノとなって舞曲調のピアノにチェロが軽やかに応える。冒頭部分が変形して再帰し、チェロのカデンツァとなり、コーダはト長調和音で終る。

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