2つのヴァイオリンとピアノのためのソナタ H.213(約14分)


                           関根 日出男

 1930年にパリの音楽出版社リュデクは、マルチヌーの小品集を幾つか出版し、その中には「2つのヴァイオリンとピアノのためのソナチネ」H.198も含まれていた。これに興味を示したのが、メアリ・ラムゼイと「モーツァルト・ソナタ・プレイヤーズ」を組んでいたイギリスのピアニスト、ベッティ・リンドゼイだった。マルチヌーは1933年6月の彼女らの要請に応え、もう1挺のヴァイオリンを加えたこのソナタを、1933年*注8月中旬以前に完成した。ヴァイオリニストのジャネット・マクドナルドを加えた初演は、翌1934年2月6日ロンドンで行われ、このアンサンブルに献呈された。大成功だったこのコンサートには、大統領の息子で音楽通の外交官ヤン・マサリクも臨席していた。

注:シャフラーネクやハルプライヒは「作曲年月を1932年1月、初演を同2月」としているが、ミフレは上記のように異論を唱えている。するとH.番号も、歌曲「復活祭」H.230と、「ピアノ・トリオと弦楽オーケストラのためのコンチェルティーノ」H.231との間に入ることになる。

1930年代の特徴であるバロック・スタイルで書かれたこのソナタは、演奏時間もほぼ同じ、4楽章の姉妹作「ソナチネ」より遥かに優れている。楽章は2つだが、第2楽章を短い中間部を挟んで二分し、前半のアンダンテを第2楽章、後半のアレグロを第3楽章とみなすこともできる。


第1楽章:

三部形式。アレグロ・ポーコ・モデラート 4/4拍子。
 変ロ長調の古典的主題が何度もくり返し姿を見せる。その間にきらびやかで常動的な楽句が、せわしなく現れる。中間部ではニ短調やヘ長調の優美な旋律についで、ヘ長調のペンタトニック下降副主題が奏でられる。最後は冒頭部分が忠実にくり返され、ヴァイオリン重音によるコーダはト長調主和音に終止する。

第2楽章:

1)自由な形式。アンダンテ、ハ長調、3/4拍子。
 音階的上昇カノンに始まり、ヴァイオリンが低く高く、夢幻的な調べを奏で、ピアノはオクターヴ・ユニゾンの刻みから、トレモロで伴奏する。次第に高揚してフェルマータで一段落したあと、ラプソディックな単旋律を、ヴァイオリンついでピアノがソロが奏で、ヴァイオリン二重奏で静かに締めくくる。

2)ピアノ・ソロの中間部:アレグレット3/8拍子ハ長調。16分音符3ヶの各種分散和音が上下動をくり返し、後半ヴィーヴォとなって、低いハ音連続トリルの上で、右手はめまぐるしく駆け回る。

3)三部形式。アレグロ、ニ長調、2/4拍子。16分音符がせわしなく動き回り、陽気さを存分に描き出している。トリルが極めて頻繁に用いられ、重音奏法、ピアノのトレモロ、和音進行も随所にみられる。やや静かな中間部最後のピアノ・ソロを経て、冒頭部分がそっくり再現され、コーダのアレグロ・ヴィーヴォでは、ニ長調分散主和音の上下動で力強く全曲を閉じる。