「ルサルカ」の演出評

関根日出男

20111122日、新国立劇場。

指揮J.Kizlink(チェコ)、東京フィルハーモニー交響楽団

演出P.Curran(スコットランド),

舞台, 衣裳、K.Knight(イギリス), 照明D.Jacques(フランス)

主な配役

ルサルカ:O.Guryakova(ロシア)、王子:P.Berger(スロヴァキア)

ヴォドニーク:M.Sharomianskii (ロシア)、

イェジババ:B.Remmert(ドイツ)外国の公女:B.Pinter(オーストリア)

第1幕

左手のベッドに横たわる水色のルサルカ。上方に黄色い月、満天の星、舞台背景の紫緑色が床面に反映。中央に柱、やがて舞台にルサルカと同じ衣装の水の精(姉妹たち)を載せた、9つのベッドが現れてくるくる回る。背も気品も高いイェジババの登場で、月は舞台背面に降りてくる。彼女の家は「ヘンゼルとグレーテル」のお菓子の家さなら、真中がぱっくり開いて、中からいろんな人物が出てきてバレエを踊る。

第2幕

中央斜かいに燭台を載せた長い祝宴用テーブル。大勢の客人たちがみな、濃い緋色の服を着て、網目の黒いアイマスクをかけ、間を縫って走るルサルカを脅すように迫る。真中の宴席は二つに割れ、真中にベッド、その上で王子と外国の王女は抱擁する。

第3幕

背後に白樺の木が数本。左手にベッド、中央やや右手に横たわる大きな柳の老木。これは1901年「ルサルカ」初演時、第1幕の舞台と同じ趣向。最後、王子は舞台裏に去ってゆくが、これも1991年、プラハ・スタヴォフスケー劇場での、モーツァルト没後200年記念公演の幕切れで、ドン・ジョヴァンニがリンゴを齧りながら、舞台裏に去ってゆくラドクJr. の演出と同工異曲。舞台はまたオペラ最初の情景に戻る。

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青を基調とした舞台装置、衣裳が美しく、紫緑色の舞台背景の床面への反映がすばらしい。

2009年ノルウェー国立オペラを嚆矢こうしとする今回の演出について、ポール・カラン自身、“ルサルカを、初潮を経て一人前の女に移ってゆく乙女として、心理的・肉体的(フロイド的)に描きたかったと言っている。さらにオペラは現代社会に即したものでなければ、古い博物館になってしまうとも。しかし最近とくにドイツ圏では、独りよがりの演出家が前面に出過ぎて、もとの音楽や観客の想像力を削いでしまうような舞台がまかり通り,寒心に堪えない。

とくに第2幕の演出について。まずは舞台全体を、暗い雰囲気の1、3幕と対比し、華やかにして欲しかった。またヴォドニーク(湖の主)が、他の幕でも背後に押しやられていたのも残念。これは「イェヌーファ」におけるコステルニチカ同様、極めて重要な役だからだ。無機質な客人たちは不気味で、ヴォドニークも後半、同じ服装で舞台を走り回っていた。彼はあくまでも背後(庭の池)にあって、ルサルカを見つめていなければ! 花を播き新朗新婦を祝福する乙女たちの服装も華やかにし、ルサルカの悲しみと対比すべきだった(このことは「イェヌーファ」第3幕“結婚の場面”での村娘の服装についても言える)。

だから弦主体の表情豊かな短い間奏(782 85および81720小節)をはさみ、ヴォドニークの嘆きと、,結婚を祝う乙女らの合唱とが交錯する、極めて叙情的な場面も、盛り上がりに欠けていた。グレコの絵にあるような白く大きなカラーをし、蛍光を発する4人は何だったのか?