< オーボエ・コンチェルト H.353 >

URANIA
フランチシェク・ハンタク (Ob)
マルチン・トゥルノフスキー (指揮)
ブルノ・ステイト・フィル (1964録音)
ob-solo 2fl. 2cl. fg. 2hr. tr. pf. str.
1. Moderato (4:45)
2. Poco andante (6:56)
3. Poco allegro (4:22)
1955年4-5月
モン・ボロン
イジー・タンツィブデクへ

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『聖フランチェスカのフレスコ画』を書いた直後に、オーストラリアのオーボイストに委嘱されて書かれた。 比較的短い作品(17分)で小編成のオーケストラではあるがオーボエ・ソロはいろいろな要素を含むメロディー・ラインが特徴的である。 動きが大きく華やかで、音域が広いばかりでなく(際上限が3加線上のg-flat)、高度なテクニックが要求される。 オーケストラ・パートに強弱を書いてあるおかげで楽譜の構造が明らかにされている。しかし、これはかえって優位にたつ 厚い伴奏を動かすことができないという不利な点でもある。

マルチヌーは内容だけでなく、バランスにも気を配った。 室内楽用の幅の広い楽器の使い方をしており、オーボエ・ソロを除いたとしてもかなり複雑で、低音部でのピアノの使い方や、 ソロ・パートからピアノへのすばやい受け渡しによるパッセージにより、アンサンブルをより難しいものにしている。 この曲を委嘱したオーボエ奏者は、なんとかこの泥沼のような構成からオーボエを解き放つように作曲家に頼んだ。 マルチヌーは滅多に書きかえるということをしたことがなかったが、これについて考えてみたという。

『聖フランチェスカのフレスコ画』で試みた和声の単純化がこの作品でも反映されており、 音の層が制限されていて音色は軽やかである。

参考:M.Safranek: "B.Martinu: the man and his music"
B.Large: "Bohusulav Martinu"

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第1楽章 Moderato
オーケストラがトゥッティで賑やかに始まる。5回ほど姿を変え、ピアノの後奏でそのひとしきりが 落ち着いたところでオーボエ・ソロがホルンの3度音程を従えて出てくる。しばらくはオーボエがゆったりと自由に主役を演じ、 オーケストラは全くの脇役で進む。長音程の多い平和なパッセージである。上行形・半音音階のオーボエ・ソロが2回出てきたあと オーケストラが不協和音を奏で盛り上がったところでいきなり終わり、オーボエがトーンダウンして聞こえてきて、 またしばらくオーボエ・ソロ主役、オーケストラ脇役のトゥッティ。オーボエ・ソロ上行形、3拍子の音階の後、音符3つずつの 音型が3オクターブにわたって下降し、さらに上行したところで、オーケストラの不協和音の間奏。 その後、オーケストラ伴奏のオーボエ・ソロがピアノとのアンサンブルを楽しむ。 トランペットのファンファーレに絡み付くようにオーボエ・ソロがppでオブリガートを吹く。 ホルンも仲間入りしてパターンの違う3者が三つ巴になったかと思うと、 いつの間にかオーボエのオブリガートが主旋律になっている。 オーボエと入ってきた弦楽器のトリルで終わり、その後は前半部分の再現があり、まもなく終わる。

第2楽章 Poco andante
弦のユニゾンが重々しく始まり、やがて祈るようなコラールに変わる。 決然としたホルンのメロディーの下で不穏な雰囲気の和音がffで2回聞こえ(a)、解決した後オーボエ・ソロが始まる。 さきほどの不穏な和音が弱々しく1度聞こえた後、神経質そうなピアノのトリルの伴奏が入る。 ソロが終わると再び冒頭のようなコラールが始まる。そして再びホルンと(a)。このときホルンの音色は明るい。 クレッシェンドする弦楽器に導かれ、オーボエ・ソロがカデンツに入る。早いパッセージ、アルペジオ、 トリルなどでデザインされている。またもや神経質なピアノのトリルが両手のトレモロに変わりクライマックスへと向かい、 ピアノ伴奏は絶望するかのように終わる。 オーボエ・ソロが6音のアルペジオで間奏を奏でると、不安から解き放たれるように、穏やかな色彩の弦楽器群が伴奏する。 叙情的なメロディーとのアンサンブルが美しい。最後はオーボエのe音だけに集約される。

第3楽章:Poco allegro
低弦のピツィカートとピアノの連打によって始まる。他の弦、トランペットが加わり、導入部分が続く。 2音連打の楽器から楽器への受け渡しが興味をそそる。オーボエは民謡調のトリルで楽しげに入ってくる。 しばらくはオーケストラとのパッセージ。オーボエのフレーズ終了後、弦楽器とピアノとのアンサンブルで盛り上がり、 オーボエの長いレツィタティーヴォ・カデンツが始まる。古典、印象派の両方にありがちなパターンが同居している。 華やかではあるが、呼吸のコントロールの耐久性を追及しているかのようにフレーズが長い。 強弱がはっきりしており、エコーが効果的である。再現部の後、コーダに入るまでのオーボエのトリルと短い単位のアルペジオの動きは、 『クラリネットとピアノのためのソナチネ』の3楽章の最後を思わせる。 オーボエのトリルの下で聞こえる、弦楽器にとって代わったピアノの早い動きが印象的である。 その後、短い間に5回以上の転調があり、アップ・テンポのコーダに入る。 まるでキッチン・レヴューの最後のような終わりである。


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この色の部分は聴きどころです。

第1楽章:オーボエ、トランペット、ホルンの三つ巴は、マルチヌー特有パターンの一つですが、 お互いにどこを弾いて吹いているのか途中で確認ができないのために、非常に怖く演奏家泣かせであるが、聴いてみるとやはり面白い。

第2楽章:ピアノ・トリルの伴奏はマルチヌーならでは。

第3楽章:導入部に続く民謡調のメロディーはほのぼのとし、楽しい。 最後、キッチン・レヴューをご存じの方ならにんまりとしてしまうはず。


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歯切れのよい拍感、確実なアーティキレーションによって非常にメリハリのある演奏となっています。 恐らくはこのCD以外のテンポでは演奏不能なのではないでしょうか。 なぜなら、テンポを上げればアンサンブルに破綻が生じるでしょうし、落とせばオーボエ奏者が酸欠になるでしょうから。

聴き応えのある長く華やかなレツィタティーヴォ・カデンツもソリストは演奏を楽しむことができるのかしら、 と心配してしまいます。常に呼吸のコントロールに意識を集中させていなければならないのではないでしょうか。

楽しい曲ですがなんとも難しそうです。 困難なソロを吹ききったオーボエ奏者とすばらしいアンサンブルに拍手・拍手!
* M.Tokuda *

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その他
* ピアノとオーケストラのためのコンチェルト『呪文』 (1956)
Brno State Philharmonic (1964年録音) Cond: Jiri Pinkas Pf: Josef Palenicek

* 弦楽器、ピアノとティンパニのためのダブル・コンチェルト(1940)
Czech Philharmonic (1959年録音) Cond: Karel Sejna