Z mrtvého domu

死者の家から

作曲     1927-1928年
初演     1930.4.12 ブルノ国民劇場 ブラティスラフ・バカラ指揮(バカラ=フルブナ版による)
演奏時間  第1幕30分,第2幕32分,第3幕40分
台本     ドストエフスキーの小説「死の家の記録」による作曲者自身の台本(チェコ語)
時と場所   19世紀の半ば。シベリアの流刑地。
登場人物    

アレクサンドル・ペトロヴィッチ・ゴリャンチコフ(Br):政治犯の囚人。
アリエイヤ(T):ダッタン人の少年囚。
ルカ・クズミチ または,フィルカ・モロゾフ(Br):囚人。殺人犯。
スクラトフ(T):頭の弱い囚人。殺人犯。
シャプキン(T):耳の突き出た囚人。窃盗犯。
シシコフ(Br):囚人。殺人犯。

大男の囚人(T)
小男の囚人(S)
所長(Br)
老いた囚人(T)
チェクノフ(Br)
舞台裏の声(T)
チェレヴィン(T)
売春婦(S)
ケドリル(T)
ドン・ファン(Br)
二人の衛兵(T,Br)
囚人たちの合唱  

あらすじ


第1幕

シベリアのインティシ河畔の監獄の中庭。早朝。

 監獄の一日が始まり,囚人が監房から出てきて顔を洗っている。大男の囚人と小男の囚人がいがみ合っていると,衛兵が新参の囚人,アレクサンドル・ペトロ ヴィッチ・ゴリャンチコフを連行してくる。監獄の所長は政治犯アレクサンドルのプライドを保った態度が癪にさわって,彼に私有品の没収と鞭打ち刑を命じ る。所長は退場し,アレクサンドルも衛兵に連れ出される。やがて舞台裏から鞭打ちにあったアレクサンドルのうめき声が漏れてくる。
 囚人たちが翼の折れた鷲を捕らえて来る。囚人たちはこの鷲を「森の皇帝」と呼び自由への思いを託する。囚人たちは看守に追い立てられるように仕事へ向か う。
 中庭には数人が残り,身の上話をしながら裁縫作業をする。 頭の弱い囚人,スクラトフは傍らのルカ・クズミチを相手に支離滅裂な事を口走っているが,ル カは相手にしない。そのうち,スクラトフはモスクワにいた時分を回想しながら浮かれて踊り出すが,やがてくたびれて寝てしまう。
 ルカ・クズミチは自分の身の上を語る。ルカは,以前,軍隊にいた時,ささいなことでウクライナ人たちとともに獄舎に入れられ,書記官に不当な扱いを受け た。そこで彼は反乱を画策してウクライナ人たちを煽動し,ナイフを借りた。日頃から所長の少佐に反感を持っていた彼は,少佐が「自分は神であり皇帝だ」と 公言して威張り散らすと,それに反抗して隠し持っていたナイフで彼を刺殺した。しかし結局彼はウクライナ人たちに裏切られ,捕まって拷問を受けて,この監 獄に移されたのだった。
 アレクサンドルが衛兵に連れられて来るが,衰弱のあまり倒れこむ。


第2幕

 一年後。イルティシュ河畔の草原。

 アレクサンドルはダッタン人の少年囚アリエイヤを可愛がり,彼に読み書きを教える。復活祭を知らせる教会の鐘が遠くから響いてくる。今日だけは囚人達も 作業を休み,ささやかな慰安を得ることができる。所長,衛兵が司祭や訪問客とともにやってくる。司祭が祝福した後,彼らは退場する。囚人たちは食卓につ く。そこでスクラトフは自分が投獄されたいきさつを告白する。
 スクラトフは以前ルイザというドイツ女と付き合っていた。ルイザは身持ちの堅い誠実な女性だったが,ある日,突然,彼に会いにこなくなった。彼が手紙を 書くと,ルイザはようやく会いに来て彼に事情を打ち明けた。ルイザは金持ちの親戚と結婚することになったのだ。スクラトフが,どんな相手か見に行くと醜い 初老の男だった。そこで彼はルイザの婚礼の席に乗り込み,男を射殺した。

 囚人による手作りの演芸会が開かれる。役者は全て囚人たち,舞台も舞台道具もありあわせのものである。最初の舞台が始まる。

「ケドリルとドン・ファン」
 ドン・ファンの地獄落ちの翻案劇である。ケドリルがドン・ファンの元に反抗するエルヴィラを連れて来る。ドン・ファンは彼女を救いに来た騎士を決闘の末 に殺し,エルヴィラは逃げ出す。醜い靴直しの女房が登場して,ドン・ファンを誘惑するが,彼はそれ拒絶し,ケドリルが彼女を追い払う。司祭の女房が登場, ドン・ファンと愛し合うが,悪魔が出てきてドン・ファンを連れ去ってしまう。今度はケドリルが彼女と愛し合うが,悪魔は彼女も連れ去る。

 囚人は,この劇に大笑いする。次はパントマイムである。

「美しい粉屋の女房」
 粉屋は女房を家に残して出かける。すると彼女を狙う男たちが次々とやってくる。一人目は隣人,二人目は軍人,3人目はドン・ファンである。彼女は,男が 来るたびに,一緒にいた男を部屋のあちこちに隠す。やがて亭主が帰ってきて,彼らは皆,家から放り出される。ドン・ファンは,亭主を倒し,女房とともに踊 る。悪魔たちも出てくる。

 演芸会の後,忍び込んできた売春婦が若い囚人とともに物陰に姿を消す。小男の囚人が,アレクサンドルとアリエイヤに因縁をつけ,湯沸しをアリエイヤに投 げつけて重傷を負わせる。囚人が騒ぎ,衛兵が出てくる。


第3幕

 監獄病院の病室。

 アレクサンドルが熱にうかされたアリエイヤを看病している。同じ病室にはスクラトフやルカ,チェクノフがいる。ルカはチェクノフといがみ合いながらも激 しく咳き込む。
 同室のシャプキンが奇妙な身の上話をする。彼は耳が人より突き出ているばかりに貧乏くじを引いたのだ。シャプキンは,かって浮浪者だった時に仲間と共に 押し込みを働いたが,警官に逮捕される。彼らは皆黙秘をしていたが,担当の裁判官が,以前,耳の突き出た書記官に金を持ち逃げされたことがあったため,彼 一人が目をつけられ,耳を痛いほどひっぱられて無理やり供述調書をとられ,ここに連れてこられたのだという。
 次にシシコフが告白する。彼の村に富裕な地主の娘アクリイナがいた。フィルカ・モロゾフという悪党が彼女と付き合っていて,金持ちの父親に持参金をよこ せ,さもないと兵隊に行くぞと脅した。父親が拒絶すると,フィルカはアクリイナと寝たと言いふらした。おかげでアクリイナは皆から汚れた娘だと思われ,父 親からひどくぶたれていた。シシコフは母から説得され思い切ってアクリイナを嫁に迎えたが,初夜を迎えてみると実は処女だった。シシコフはアクリイナの前 にひざまづき誤解していたことを詫びた。翌日,シシコフがフィルカの元へ仕返しに行くと,逆にフィルカから「おまえは酔っ払っていて処女かどうかもわから ないのだろう」と馬鹿にされる。腹を立てたシシコフは帰って彼女を打ちのめす。フィルカは徴兵の日,アクリイナの元に出向き,彼女に3年間愛しつづけてい たことを告白する。彼女も彼の仕打ちを許す。アクリイナはシシコフに「フィルカを誰よりも愛していた」と告白する。その日,シシコフは彼女と一言も話さ ず,夜になって「お前を殺す」と告げる。そして翌朝,彼は彼女を森に連れて行き,喉を切って殺した。
 シシコフの告白が終わると,苦しそうにうめいていたルカが息を引き取る。衛兵がやってきてルカの死体を運ぼうとした時,シシコフは傍らにいたルカこそが フィルカだったことを知り愕然とする。別の衛兵がアレクサンドルを呼び,連れて行く。

 アレクサンドルの釈放が決まる。所長は酒に酔いながらアレクサンドルにこれまでの仕打ちを詫びる。アレクサンドルはアリエイヤに別れを告げる。アレクサ ンドルが出所する時,囚人たちは翼の癒えた鷲を離し,自由への憧れを合唱する。衛兵たちが囚人たちに作業に戻るよう命じて,幕となる。
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歌劇「死者の家から」 対訳・解説書