明治34年銘鑑関連雑記

明治三十四年 信濃好者中 巻柏之銘鑑 関連推察雑記

 掲載品種は97種、この銘鑑から新たに掲載された新品種は6種ある。
6品種が追加されて、一部の文字使いが変わった他は、明治31年の巻柏種類名寄の
掲載品種とほぼ同じである。
明治31年の名寄より継承されなかった品種は「黒牡丹白斑」と「虎金砂」の2種だが、
定説の「虎金砂」は、現在の「金砂子」であり、天保の「金砂子」が萬延以降「虎金砂」になり、
昭和初期より現在まで「金砂子」と言われている。
この銘鑑では「山本改金砂子」となっており「山本砂子」の掲載が無い事から「山本砂子」改め
「金砂子」と解釈したのだが、単なる地域誤認であったのか。

 新品種6種の内、現存種は「金龍」と「古今独歩ノ斑」の2種類だが、その外に現存種と同名
の「鳳凰」があるが、この銘鑑の「鳳凰」は現存種とは無関係で、現在の「鳳凰」は昭和27年度
登録品種である。此れ以外にも「鳳凰」名は、青桃園森源六氏〔愛知県〕が昭和6年に発行し
た銘鑑に掲載があるが、この銘鑑の「鳳凰」との関わりは不明である。
しかし青桃園森源六氏の銘鑑には第33号とあり、毎年発行されたと仮定して逆算すると、
第1号の発行は当銘鑑と同年代になり、全く無関係とは言い切れない。

 この銘鑑の発見により、昭和50年代以前に発刊された書籍の記述に矛盾が生じている。
ひとつには「金毛織」→「金龍」説であるが、この事は萬延元年の現存種説に疑問の残る品種
で取り上げたが、此の別枠大見出しで誇らしげに掲載された「金龍」の文字は、今までには見
られなかった容姿の新品種である事を物語っている様に見える。

 この「金龍」が昭和の全ての銘鑑に掲載される、現在の「金龍」である事を証明することは
出来ないが、品種として「金龍」名の掲載は此れが始めてであり、「金毛織」も同時に掲載され
ている。また「金毛織」が分岐の粗い常葉ではないかと思われる記述は「九尾の如く」の他にも
あり、現在の「暁」である「夕日影」の説明文「日向にては金毛織の如く・・」にも見る事ができる
 此の「夕日影」は現在の「暁」である事実が銘鑑上で確認できる唯一の品種でもある。

 もうひとつは「古今独歩斑」→「錦孔雀」説だが、現在の「錦孔雀」は昭和5年発行東京巻柏
会銘鑑に掲載の「古今独歩斑」が始まりで、昭和7年の銘鑑より「錦孔雀」になり現在に至る
説が定説で、それ以前の本種「古今独歩ノ斑」には触れていない。
この「古今独歩ノ斑」と、昭和5年の「古今独歩斑」が別種であったとは考えにくいため
たぶん明治34年に「古今独歩ノ斑」名の品種が存在したことを知らなかった物と思われ
ひいてはこの銘鑑の存在を知らなかったものと思われる。

 この銘鑑で新掲載の「小町紅」「東洋海」「日之出錦」の3種は、昭和に継承されることなく、
この銘鑑を限りに不明となる。

 
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