ロダンは１９世紀の最も著名な彫刻家です。

人々のおもわくを超える作品を、次々と作り出していきました。

ロダン美術館の門を入ると、庭の植え込みの中に「考える人」の像が置かれていました。

たまたま飛行機がその後ろに長い飛行機雲を作って飛んでいきました。

その雲が左手の黄金の屋根の上で交差しています。この建物はドーム教会で、この教会の地下にナポレオンの墓が安置されているのです。

「考える人」は、「地獄の門」（次の写真）の一部として作られました。
門の上部中央でこちらを向いているのがそれです。
それが拡大して彫造され、独立した作品として有名になりました。

「地獄の門」は、1880年に国立美術館建築のモメント作成を依頼され、ダンテの『神曲』に登場する「地獄の門」をテーマにして作り始めたものでした。

しかし建築計画は中止になり、ロダンはその後自らのために彫り続けます。

1917年77歳で亡くなった時も未完だったそうですが、この作品にはロダンが37年をかけた彫刻的生涯のすべてが集約されている、といわれています。

ダンテの『神曲』で「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」とうたわれた地獄への入り口の門ですが、ロダンはその門に愛欲に苦しむ人間の姿を刻んでいきます。

ロダンには、内縁の妻ローズと女弟子カミーユ・クローデルとの間を揺れ動く愛欲生活がありました。
彫刻家として有能だったカミーユはその苦しみで精神病院に入院、死ぬまで退院することはありませんでした。

この門には、そういうロダン自らの愛欲生活の苦悩が赤裸に塗り込められている、ともいわれます。

「地獄の門」は、美術館の前庭の左側、隣の建物との境目にありました。下から見上げると、高さ５m40cm、幅3m90cmの大きさに、圧倒されます。

「カレーの市民」も前庭に陳列されていました。英仏間の百年戦争中、港町カレーでのできごとを題材にしたものです。

１年にわたってカレーを包囲したイギリス王は、1347年、市民の代表が城門の鍵をもって投降するなら攻撃を中止すると提案します。
飢餓に苦しむカレーの人々は提案を受け入れ、死を覚悟した人質が決まります。

500年以上たって、カレー市は名乗り出た代表を英雄としてたたえる記念碑の制作をロダンに依頼しました。

ロダンは代表たちが死を恐れて苦悶する姿もあわせて刻みました。
それは市当局の意に合わず、1888年に完成したのに放置され、設置されたのは1895年だったそうです。

美術館には、女弟子カミーユ・クローデル　↓

の彫刻を展示しているコーナーがあります。

19歳でロダンの弟子になったカミーユは、42歳のロダンに内妻ローズがいることを知らず愛し合うのですが、ロダンはやがてローズのもとに戻ります。

ロダンとの関係が破綻したカミーユは精神を患い、発狂します。

悪魔？に誘われるまま去って行く男性に、すがるように両手を差し伸べる若い女性。

「分別盛り」には、カミーユの悲痛な、狂おしいまでの思いが込められています。

カミーユにはまた、こんな作品もあります。

女性の表情には、恥じらいながらも男性の愛を心から信じきっている様子が現れています。

それはまだ、ロダン↓

への信頼が失われていなかったころの作品だからなのでしょうか。

作品に二人の関係を重ねて鑑賞するというのも乱暴な話ですが、それぐらい「分別盛り」の印象は強烈です。

「ワルツ」の裏側　↓
　　

男性の姿は意外ですが、もとは女性も何も身につけていなかったそうです。二人の密着度からあまりだと非難され、ドレスを着せたといいます。カミーユの大胆さがわかります。

この作品には、葛飾北斎の影響が考えられているそうです。 ↓
　　

確かに波頭の描写が似ています。

「波」は上の「分別盛り」の写真にも写っていますが、小品です。しかし波頭のおどろおどろしさは北斎の絵を上回ります。

激しい高波が押し寄せるのに気づかず（手前と左側の二人は気づいたか）、無邪気に遊んでいた女性たちはこの後どうなるのか。
荒波は、無防備な女性たちを時として急変して襲う、運命の象徴なのでしょうか。

左のロダンの彫刻とそっくりな作品がカミーユにもあります。　↓
　
　　　 　　カミーユ
　「束を背負った若い娘」　

ロダンのは足の角度が少し違うくらいで、ほとんどがカミーユの像の引き写しです。

これだけでなく、カミーユと知り合ってからのロダンの彫刻は、カミーユの影響を受けて変わったそうです。

それは、左の彫刻にみられるように、男女の隔てない赤裸な愛情表現をためらわなくなったことだそうです。

確かに、美術館に展示されている彫刻は、大半が裸形の男女の愛欲の像でした。

ロダンの「永遠の偶像」も、カミーユの「心からの信頼」とモチーフが似ています。

女性の表情からカミーユの像のような安らぎは感じられないのですが、二人の接し方の構造は共通です。

「考える人」と並んで有名な「接吻」の彫像です。

この像のある部屋で、小さなケースに入った同様の像がありました
　

もしかしたらこれが原型かもしれません。
彫像と同様の像は、ブロンズでも見かけます
　

この彫像を鋳造したものでしょうか。

上の「接吻」の男性の手は遠慮がちに女性の腰に置かれていて自然？な感じですが、下の方の男性の左手は大きく広げられてポーズをとっています。

見られること（見せること）を意識した、不自然な動きのようにも見えるですが。歓喜を表す西洋の伝統なのかな。

展示品の彫像には、一見未完成と思われる像がたくさん交じっていました。

そのおかげで制作の途中経過がうかがえ、それはそれでおもしろかったです。

また、表情のディテールなど大理石に埋まったままの部分への想像力が自由に喚起される面白さもあるんだなあ、と思いました。

石塊から自在に造形を彫り出していける彫刻家は、たいしたものです。

ロダンは当初写実的な像から出発しました。

ミケランジェロの作品に衝撃を受けて1877年に発表された「青銅時代」は、その像が実際の人間に似すぎているので、モデルから型をとって作ったのではないかとさえ言われたそうです。
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それが半人半馬という想像上の像も造ったりしています。

紹介するのがはばかられるブロンズ像もありました。参考までに横たわる女性像を。

ローズの像もありました。
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ロダンは24歳の時ローズと知り合い子供も設けました。1917年77歳の時、死期の迫った73歳のローズと結婚の手続きをします。その16日後にローズは息を引き取るのですが、更に９ヶ月後、ロダンも後を追うように亡くなります。

美術館の裏は広い庭園になっていて、要所にはロダンのブロンズ像が建っています。

子ども連れでのんびり庭を散歩している人たちもいました。
左手の林の奥にはレストランもあります。

美術鑑賞の合間に食事も散策もゆっくり楽しめる、うらやましい環境です。

丸い屋根が金色に輝くドーム教会は、ロダン美術館の隣にあります。

この写真はロダン美術館脇の道路から撮ったのですが、手前に写っているのがロダン美術館の前庭で、右側に小さく「考える人」のブロンズ像が見えています。

ドーム教会は、ルイ14世が建てたアンヴァリッド（傷病兵を看護する「廃兵院」）の付属施設として、1706年に完成しました。

流刑地セントヘレナ島で没したナポレオン・ボナパルトは「セーヌ川のほとりに憩うことを願う」と遺言したそうですが、1861年遺言通りその棺がドーム教会の真下に葬られました。

フランス革命の政治思想をヨーロッパに押し広めたナポレオン戦争の覇者、束の間ヨーロッパ大陸に君臨した皇帝の棺の豪華さは、破格です。

台座は緑色の花崗岩、棺の内側は鉄製で、それをマホガニー、鉛、黒檀と樫が包み、表面が赤い大理石と、なんと五層からなるのだそうです。

モザイク模様の円を描いて棺を囲む床の大理石の内側には、ナポレオンが勝利した戦いの名が刻まれています。

さらに女神たちの大理石の像が棺を守るかのようにぐるりと取り囲み、その外側の回廊には民法典を始めナポレオンの残した功績を称えるレリーフが刻まれています。

この墓所の一階は教会で、その一階と地下は吹き抜けになっています。

一階のキリストの十字架がかかっている窓（写真右上）の向こう側は「兵士の教会」で、その天井には、敵国から奪った軍旗が戦利品として飾られています。
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ドーム教会を後にしてアンヴァリッドを通って来ると、アレクサンドル３世橋 に出ます。この写真はその橋の手前で撮ったもの。

1789年7月14日、パリの民衆はこのアンヴァリッドから武器を運び出して、バスティーユを襲撃したのでした。

なお、アンヴァリッドの一部は軍事博物館になっていて、この分野では世界一充実した博物館だそうです。
他は今も軍事病院として使用されているそうです。