２日目はロンドン塔を訪れるのがメインだったのですが、開館時間が9:30なので、その前に近くのタワー・ブリッジに行ってみました。

テムズ川に架かるタワー・ブリッジは、1894年に完成した跳ね橋。ヴィクトリア朝の技術の粋を集めて造られ、ロンドンのシンボルとなりました。

ゴシック様式の２つの塔の間の下の方の橋げたが、大きな船が通過する際に八の字形に跳ね上げられ、船が通るとまた平らに閉じられるのでした。

昨年行われたロンドンオリンピックの開会式では、聖火が船でタワーブリッジに到着する様子が大々的に報じられていました。
市民が開会式前に聖火を見られる最後の地に選ばれた、観光名所です。

その跳ね橋の足もと、塔の下で撮った写真。

人々が歩いている下の橋が跳ね橋です。妻の顔が写っている後方１cmちょっとのところ、白い模様の間に縦に２本筋が通っているところが、割れて跳ね上がって行く場所です。

なお、塔の内部には階段が300段あって、上の橋梁に登れるようになっています。

上の通路から眺めるテムズ川の川沿いの光景も格別だそうですが、あいにく登って見るまではしませんでした。

夏目漱石の『倫敦塔』を読んで以来、ロンドンといえばどうしても「ロンドン塔」が思い浮かんできます。

「倫敦塔の歴史は英国の歴史を煎じ詰めたものである。…… この倫敦塔を塔橋の上からテームス河を隔てて目の前に望んだとき、余は今の人か将た古への人かと思ふ迄我を忘れて余念もなく眺め入った。冬の初めとはいひながら物静かな日である。空は灰汁桶を掻き交ぜた様な色をして低く塔の上に垂れ懸って居る。」（『倫敦塔』より抜粋）

この写真はタワー・ブリッジ（塔橋）の上からテムズ川を挟んで対岸のロンドン塔を撮ったのですが、漱石の描写さながら灰汁をまいたような曇り空でした。

漱石の目にも、この写真のような光景が写っていたのでしょうか。

左の写真で私が立っている右後方、二つの丸い塔に挟まれた石壁の下の通路が入り口です。上の写真では左端の丸い塔の下。

漱石は「丸形の石造で石油タンクの状をなし」と表現しています。

また、この門をくぐった印象を「『憂の国に行かんとするものは此門を潜れ…此門を過ぎんとするものは一切の望を捨てよ』といふ句がどこぞに刻んではないかと思った」と述べています。

漱石にとって、ロンドン塔は血塗られた政争の跡が刻まれた悲劇の王宮だったのです。

門を潜って通路を進んで行くと、観光客が立ち止まって解説を聞いている場所がありました。それは「ブラッディ・タワー」でした。
この塔には多くの囚人が幽閉されました。12歳の幼王エドワード５世とその弟もここに囚われ、二人とも死体となって発見されたのでした。

その向かい、通路の右側に入り口が半分だけ暗く見えている濠は、
「反逆者の門」。　　↓

政治犯がこの門を通ってテムズ川からロンドン塔に送り込まれました。

漱石はこの門を「逆賊門」と呼び、「テームスは彼等にとつての三途の川で此門は冥府に通ずる入口であった」と述べています。

ロンドン塔は、堅牢な石の壁が通路を挟んで二重に巡らされ、ホワイト・タワーなど中心部を囲んでいます。
上の写真では通路の右側が外壁、左側が内壁になります。外壁の外側には更に濠が巡らされていました。

城の中心部に入るには、分厚い内壁に開けられた小さな門を通らなければなりません。

写真では門の奥に中庭とホワイトタワーの一部が見えています。内壁の上に突き出ている２本の塔は、ホワイトタワーの４つの尖塔の一部です。

ホワイトタワーは３階建てで、創建当時はロンドンで最も高い建物でした。

中庭に入ると、黒に赤い模様の制服を着た「ビーフイーター」がガイドをしてくれました。
漱石は「ビーフ・イーターと云うと始終牛でも食って居る人の様に思はれるがそんなものではない。彼は倫敦塔の番人である」と説明して、二人の会話の様子を紹介しています。

もと国王の親衛隊だったビーフイーターが、やがてロンドン塔の囚人の看守を任され、現在は観光ガイドを務めることになった名誉ある職なのだそうです。

写真は右から順に、クイーンズ・ハウス（木の陰の白壁のある黒っぽい建物）、ブラッディ・タワー（小塔が手前の壁から伸びている）、ウェイクフィールド・タワー<（手前の壁に削ったような跡が見える）です。

右側の建物がホワイトタワー、その左の明かりのついているのが宝物館です。

ホワイト・タワーはロンドン塔の本丸で、今は武具や甲冑が展示されています。
　＜ヘンリー８世甲冑＞
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宝物館にはダイヤや宝石2.800個がちりばめられた、帝国王冠も陳列されていました。
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芝生の一角に人だかりがしている場所は、タワー・グリーンです。

多くの囚人達は別の場所で公開処刑されたのですが、身分の高い７名の囚人がここで処刑されました。

そのなかにはヘンリー８世の二人の妻や、『ユートピア』の著述で知られるトマス・モア、宗教改革でヘンリー８世を支えた宰相クロムウェルもいました。

トマス・モアはヘンリー８世の離婚問題にカトリックの立場から反対したため斬首されます。それを推進した忠臣クロムウェルも、ヘンリー８世に紹介した４人目の妻が気に入られず失脚、５人目の妻との結婚式の当日処刑されてしまいます。

なお、２枚上の写真にあるクイーンズ・ハウスは、２番目の妻アン・ブーリンのためにヘンリー８世が建てた家。
エリザベス1世の生母であるアンも、結婚から２年後侍女に心移りした夫によって、反逆罪の汚名を着せられここで斬首されました。

塔の室内の壁に刻まれた文字について漱石が述べている部分から、印象的な一節を紹介します。

「模様だか文字だか分らない中に、正しき画で、小く『ジエーン』と書いてある。…ジエーンは義父と所天の野心の為めに十八年の春秋を罪なくして惜気も無く刑場に売った…余はジエーンの名の前に立ち留ったぎり動かない。動かないと云ふより寧ろ動けない」

室内の壁に刻まれた多くの文字の中に「JANE」と読める文字がありました。
その右下は「WILL」でしょうか。　　↓
　

ジェーン・グレイは、1554年イングランド女王に擁立されたものの、メアリー１世に破れ9日間で廃位。タワー・グリーンで夫と共に処刑されたのでした。

ブラッディ・タワーは、1483年この塔で姿を消したエドワード５世とその弟にちなんだ名前です。

父エドワード４世が亡くなると、叔父リチャードの手によって後継ぎの二人の王子（12歳と10歳）はこの塔に幽閉されます。
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ジョン・エヴァレット・ミレイ作

後に二人は行方不明となり、叔父がリチャード３世として即位しました。

1674年ロンドン塔の改修中、ホワイト・タワーの近くで２人分の遺骨が入った木箱が発見されます。それらは２人の王子の遺骨と推測され、ウェストミンスター寺院に埋葬されました。

ブラッディ・タワーには他にも身分の高い囚人が入れられていたのですが、展示されていたのは牢獄とは思われない立派な家具ばかりでした。

ヘンリー３世（1207〜1272年）はロンドン塔を完成させた王です。ウェストミンスター寺院（「ロンドンの旅 １日目」参照）を現在の姿に大改築したのも彼でした。

その玉座がウェイクフィールド・タワーに展示されていましたが、意外に質素なものでした。

中庭からタワー・ブリッジが見えたので撮ってみました。

右側の芝生の奥にはカラスを飼っている檻があります。
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「ロンドン塔からワタリガラスがいなくなるとイギリスは滅びる」というジンクスがあり、チャールズ２世の時代（1666年）から羽を切って飛べなくして飼育しているのだそうです。

ビーフイーターと撮った写真の芝生にもカラスが写っていましたが、あれもワタリガラスなのかな。

ロンドン塔をぐるりと取り囲んでいる石造りの外壁です。かつてはこの外側に濠があって水をたたえていました。

濠の跡の縁は鉄柵で囲まれています。 ↓

セント・ポール大聖堂は1666年のロンドン大火で一度消失し、1710年に再建されました。建物全体は中世の様式にしたがって十字架の形をしているのだそうです。
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ドームの頂は111ｍもあり、ローマのサン・ピエトロ大聖堂につぐ世界第２の大きさ。

地下室にはネルソン提督の記念碑をはじめ有名人の墓がたくさん並んでいました。
ウィンストン・チャーチルの葬儀もここで行われたそうです。

大聖堂はイングランド国教会の主教座聖堂で、1981年にはチャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚式も行われました。

内部は広く、華やかな内装はバロック風だそうです。
左の写真はあいにく暗くてその雰囲気が感じられないので、奥の聖歌隊席とその天井のモザイク画を。
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左の写真では上から光が洩れています。中央のドームの明かり取りから、光が差しているのでした。

聖堂内の側壁にはたくさんの彫刻が立ち並んでいました。それぞれのいわれが分からないのは残念。

これらの彫刻群が周囲の壁をぐるりと覆っているのですから壮観です 　

次の写真は聖堂内部の最奥、祭壇前の柱で撮った写真。

写真右手のステンドグラスの下で十字架の見えている台が、祭壇です。

西洋の教会を巡って驚くのは、その最深部まで自由に立ち入ることができることです。
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日本の神社・仏閣なら部外者が最深部に立ち入ることはほとんど不可能だと思います。「秘すれば花なり」の文化だからでしょうか。

２日目の午後は、来日して３年間室根でＡＬＴをしていたMatthewと市内で待ち合わせました。

待ち合わせ場所に現れたMatthewは私たちに気がつくと大きな声を発し、両手を広げて妻と私に抱きつく喜びの大歓迎でした。

日本でなら照れくさい街頭での抱擁も外国だと自然に対応できるのが不思議です。

レストランで食事したあと繁華街を案内してもらい、ウィンドーショッピングを経験しました。

有名なデパート「ハロッズ」も案内してもらったのですが、そこの「寿司バー」を覗いて驚きました。寿司ネタは新鮮な魚介類の無い、全く似て非なる代物でした。（今ならさすがに変わっているのではと思います）

ウィンドウショッピンの後にコヴェント・ガーデンを案内してもらいました。

コヴェント・ガーデンはかつての青果市場跡です。ミュージカル「マイ・フェア・レディ」の舞台となった地区。

現在はショッピングセンターに生まれ変わり、カフェやレストランが軒を連ねて大道芸人が集まる、観光スポットになりました。

写真は奇術師やピエロ、軽業師、演奏家など、芸人が集まるピアザ、セントラル・マーケットの一角です。

これは広場のカフェでの様子。演奏されているのはモーツアルトの弦楽四重奏でした。観客が気に入ると楽器入れに小銭を投げ込むのでした。