「あんね、、うちな、彼氏出来てん」 その言葉を親友から聞いたときは、(ふうん)くらいにしか思っていなかった。 彼女とは小学校が同じで、高学年になってから本や音楽の趣味が合う事がわかり手紙交換を通じて親友と言えるまで仲良くなった。 中学も同じだとわかって、安心だねと春休みに一緒に遊びまくったのを覚えてる。 まあ、大所帯の学校でクラスが端と端になってしまって以来、 それほど頻繁に会うわけでもないし手紙交換の回数も減っていった。 彼女も新しい環境に馴染んだようだったし、お互いがそれほどお互いを必要としなくなった結果だったのだろうと思う。 けれど、手紙に書かれてくる惚気に、段々嫌気がさしてきた頃。 私はたまたま彼女が居なかった時に、彼女のクラスを訪れた。 どこに行ったのだろうかと問いかけようと近くに居た人に「すいません」と声を掛けた、 それが偶然にも友達の恋人であった。 彼はすぐに私が彼女の親友であると気付いたらしい、それで何となく仲良くなって。 廊下ですれ違う時も声を掛けあうようになって、 それで彼女の居ないところで勝手に色んな話で盛り上がったりなんかして。 ある日彼女はその事を知って酷く怒った。 (でも、私は別にいけない事をしているつもりはこれっぽっちもなかった) 親友の恋人だし、私だって仲良くしたいし、それだけだった。 手紙に書いてこられる惚気話だって、彼とのネタになったりする、けど。 「私の彼をとらないで、今の私には彼しかいないの、彼が必要なの」 これがトドメの言葉だった。 (じゃあ何、私はいらないって事?) その時私が何を思ったかと言うと、彼女への怒りが爆発したのではなく。 親友を私から奪った彼女の恋人への憎しみがむくむくと胸の内を支配したのだった。 (あんたなんかより、私の方が彼女の事をわかってるんだから) (彼女には、私が必要なんだから) あんたなんか、いなければ良かったのよ。 怒りの矛先が間違ってるだとか、私の方が彼女に依存していたのだとか。 そんな事当時の私は全く気付いていなかった。 もっと早くに、彼女が自分にとってとても大きくて大事な存在だったって気付いてたら。 こんな事にはならなかったのかもしれない。 初恋が心の中で疼き続けるのと同じように、初めてできた大事な友達も、ずっとずっと心の中に蟠っているものなのだ。 私は嫌な女だった。 恋人がいなくなれば、彼女が戻ってきてくれるのだと思ってた。 だから私は、彼女の恋人とできるだけ仲良くなって、彼女なんかよりも私の方がと押しまくって。 結果、彼女は恋人と別れた。 (けれど勿論、彼女は私のところへ戻ってこなかった) 取り返しのつかないことをしたのだと、気付くのはもっともっと後になってからで。 なんで、どうして、私を見てくれないのと。 その時の私は絶望したのだ。 これが私の恋愛のファーストインプレッション。 自分の恋に絶望したんじゃない、他人の恋に介入して勝手に絶望したのだった。 (レンアイって憎しみあう事だったの?)って。 それが中学一年の夏。 彼女とは今も疎遠。 人生の中で解決したい問題のひとつでもある。 月日は流れて中学二年生になった春。 一年生の時仲良くなった友達とは、二年になっても同じクラスになれた。 クラス分けの表を見て「同じクラスだねー!」と盛り上がった後、 他にどんな人が居るだろうと名前を見ていくと、友達が隣で「うわ」と落胆の声を上げた。 「今年ユウジと同じクラスやん…最悪」 「誰?ユウジて」 (いやでも、ユウジ、何か聞いたことあるかなあ) まあ、ありきたりな名前ではあるなあと質問を投げかけると、友達はため息を吐いて 「テニス部のアホ」と心底うんざりしながらそう言った。 「ああ、テニス部(有名やからどっかで名前見たんかな)」 「一年の終わりぐらいからめきめき出てきはって。お調子もんでうるさいねん」 「マネージャーも大変なんやなあ」 文化部の自分には関係ない話だけれど。 そんなこんなでさして何の問題もなく2年生のスタートを切った私だったけれど、 去年の親友との事件(もはや私の中では事件化した)を絶妙に引き摺ってナイーヴになっていた為、 人とどう接するかドギマギしていたりした。 去年から仲良しの友達のおかげで、どうにか一人ぼっちという事は避けられたのだけれど。 (それでも本当に楽しいと心から笑える日は数少なかった) 新しいクラスにもちょっと馴染めてきた頃、席替えがあって。 それで隣の席が噂の『ユウジ』になった。 (正直なところ、彼の存在を忘れかけていた)だって、 「ユウジくんやろ、よろしくね」 「あんま近寄んなや。女クサイのうつる」 ( は あ ? ) 正直私は耳を疑った。それから彼は友達の言っていたユウジとは別のユウジだろうかと、 黒板に書かれていた新しい座席の名前を確認した。 いや、うちのクラスユウジは一人しかおらん(ちょお、待ってや)。 話が違う。 友達の話では、ユウジは『お調子ものでうるさい』という事だった、ような。 このユウジは、お調子ものどころかどう考えても授業とかさぼっちゃうようなガラの悪い問題児か素行不良の生徒だろう。 言葉遣いも悪いし、冷たい!クラスメイトに浴びせる言葉か今の。 まして女の子に向かっていう言葉か。 絶望した。まことに絶望した。 私は、この挨拶の日以来絶対自分から話しかけるもんかと心に誓った。 (どうせ、暴言はかれて終わるに決まってるから) が、嫌い嫌い、絶対話とかかけん。 とか、考えてしまっている時点でアウト。 逆に意識して気になってしまうのが人間の心理というものではないだろうか。 はやい話私は彼の事が若干好きになってしまい、気になって気になって仕方なくなってしまったのだ。 (あれ、なにこのトキメキ)みたいな。 夏が終わる頃、一年前にあった事件のことなんか結構忘れてしまっていた私は (だって、学生の毎日はいろんな事があっていそがしい)、 恋って楽しい、恋バナって楽しいと浮かれ気分だったのである。 愛 だ っ た |