私は光が好きだ。けれど充お兄ちゃんも好きだ。
そして、仁美さんの事が好きになった。
たくみくんも好きだし、財前のおばちゃんやおじちゃんも大好きだ。
充お兄ちゃんに失恋するもっと前から、私は皆の事が『家族』として好きだった。






「なあ、恋人同士やないエッチって、何やと思う?」

この率直な質問に、盛大にお弁当を噴出しながら友達が「はあ!?」と言った。 まるで漫画みたいなベタなボケに、「汚いなあ」と何の捻りもない感想を述べる。

「あんた、いきなり何言い出しよるん、どっか頭ぶっけた?拾い食いした?」
「私の事何やと思とんの」
「浮いた話のひとつも聞かんうちにそんなベタな昼ドラの内容みたいな事聞いてくるからや」
「ああ、じゃあステップ下げるわ。恋人同士やないキスって、何やろね」

「変わりあらへんわ!」と友達は私の後頭部をチョップしてきた。

最近私は光との関係についてばかり考えていた。
私たちはキスをする、そこに意味があるとしたらお互いの存在を確認し合う事。 自分の居場所を把握するため、だろうか。
それから光は私を抱いた。拒まなかった私も私だが、光が何を考えているかはわからない。
この間、白石先輩に私と光がどんな関係かと問われた時、あいつは「ただの幼馴染」と即答した。
あってる。間違いない。それ以外に私たちはなんでもない。

でもただの幼馴染で肉体的に関係を持つのはおかしくないか。

「まあなあ、もそういうのに興味持つ年頃になったんやろなあ」
「うん、まあそういう事でええわ」
「どういう事やねん」
「どういう事と思う?」

抱かれたのも、キスするのも嫌だとは思わない。
だけどそこにある感情について見出すのはとても難しい。

なぜなら、(恋であってはいけないのだと私は思っている)。
私はあの家で家族みたいなものだから。 光は女の子とちゃうけどおばさんやおじさんが大事に大事に育ててきた子供で、 だから自分の子供のように可愛がってくれて、何も起こらない関係だろうと安心しきっている私という存在が、 光にとっての『何か』であってはいけない気がしてた。

分別のつかない子供ではいられなくなったからこんな事を思うのかもしれない。
それとも、充お兄ちゃんが手の届かない人だとわかって以来同じ事を繰り返すべきではないと、 自分の心を保守しているのかもしれない。

(何より、自分の中で光という存在がどういうものなのかイマイチわからない)

「そうやね、うち、もしあんたがそういう子やったらちょっと嫌と思う」
「何で?」
「みんな、得せえへんやろそんな関係」
「例えば」
「自分にも相手にも、本気になってくれる人がおったとしたら。その人にとって失礼やんか」
「本人たちがそれでええなら、ええんちゃうの」
「さあ、わからんわ。大体にして、そういう関係は愛情があるから成り立つんと思うもん。 何か嫌や。そういうの無いと思うと、悲しいやん。何も生まんし」
「…でも、出来てしまうんが人間なんやな」
「あんた何があってん」
「わからん。事故ったのかもしれんわ」
「…前言撤回。あんたがそういう子やったら結構切ない、けど辛い事あったらうちに言いや。 味方になったるから」

「多分な」と付け足して友達は笑った。その笑顔に多少心がほっとする。

仁美さんお手製のお弁当の残りをかきこみながら、私はまた光の事を考えた。
(これは、選択を迫られているんだろうか)
あの家に幸せに暮らしていくには、私はただの幼馴染でいなければならない。 だから、光とキスをしてはいけないんだ。 友達が指摘するように、こういう関係は『イケナイ』のだろうと思う。
何も生まないし、悲しいし(だって残り物を和えたみたいな感じじゃない?)。
境遇が似てるから同じ箱の中に納まってしまっただけなのかもしれない。 だってあの時の光は、私が拒んだら消えてしまいそうだったんだもの。 私が逃げ道になってあげなきゃ、私が受け止めてあげなきゃ。
それは私の驕りなのだろうか。

しかし彼女が出来たら一番に教えてな、と自分で光に言いながら、あの時私は何を考えていただろうか。 もし、光が『彼女出来たからお前はもういらん』とか言い出したら私は駄々を捏ねるだろうか。 そしたら光は『わかった』と言ってくれるのだろうか。 それとも私は『わかった』とあの家を出て行くのだろうか。

いや、根本的に間違っている。
(元々あの家は私の家ではない)



そもそも何故、こんなに悩む事があるのだろう。
私たちは家族のような幼馴染、それ以上でもそれ以下でもなく、 それがわかっているのならば道を踏み外すことももうないはずだ。

キスをするのはもう止めよう。まだ、取り返しのつかないところまでは落ちていない。




「それにな、もしどっちかが本気やったらどうするん。たとえ話やけどな、 にその気が無くても相手が本気やったら?相手は傷ついて、ほんできっとも傷つくんやで」

「うちの知ってるはそういう子や」と友達は言った。それから、「あくまでも例え話や」と。


いや、それはきっとありえない。
(本当は、ありえなくない)
けれど私は気付かないフリをしていた。

(だって、だから、だったら、どうしろって)


理解できないほど子供ではないけれど、受け入れることができるほど大人ではない


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