朝からずっと、光の事を考えていた。






いつの間にか終わった授業、気づいたら周りの人はみんな立ちあがっていた。 後ろの席の友達から、「!」と肩を叩かれて、授業の終わりの挨拶のためにみんな立っているのだと気付かされる。 ガタンと派手な音を立てて立ち上がると、教室内に笑いが起こった(まあ、いいや)。

「どないしてん、ぼーっとして」と笑いながら問いかけてくる友達に「んーちょっとね」とだけ返事をして窓の外を見た。 どんよりとした雲が太陽の光を遮っていて、いつ降り出してもおかしくなさそうな天気だった。
案の定、6限目になるとうるさい雷と共にざあざあと雨が降り出した。
(まったく、私の今の心の中みたいだ)


そしてこんな日に限って掃除当番とくる。
文句を言いながら、雨の中ゴミ捨てに行った帰りだった。 空き教室から声が聞こえてきて、ああ今日は雨だからどこかの部活がミーティングでもしているのだろうと、 通りすがり様にちらりと中を覗き込むとそこには能面顔の光がいた。
つまらなそう(テニスが出来ないからかな)。
あの日以来、暗い暗雲をいつだって引き連れている光も、テニスは楽しんでいるようだった。 先輩たちが明るくて面白い人たちばかりだからかもしれない。 実際絡んだ事はないけれど、噂はよく聞くし彼らは校内でも有名人だ。
(よかった、光を理解してくれる人がそばにいて)とつくづく思ってしまう。
風の噂に聞く光は、クラスから浮いていたし嫌な奴だと誤解をされているようだった。 何を考えているかわからないし、話しかけてもそっけないし。 そんな腹の中では何考えてるかわからないような奴に優しくしてやれるほど、私たちの心はまだ広くない。

そういえば今朝の会話を思い出して、どうせ傘なんて持ってないんだろうなと思い当たる。
テニス部は割と遅くまで部活をしているみたいだけど、ミーティングだけなら早く終わるだろう。 そう思った私は光を傘に入れてやる事にした(どうせ、帰る場所は同じなのだ)。

今朝の態度も気になっていたし、何となく疎遠になってしまったけれど完璧に仲が壊れてしまったわけじゃない。 光が何かに躓いて、つぶれそうになっているのなら助けてあげたい(だって私たち、家族みたいなもんでしょう)。




時間をつぶす為に教室に帰って一人もくもくと本を読んでいると、ポケットに入れていた携帯が鳴った。
その振動にびっくりして顔をあげると、黒板の上の丸い時計は5時過ぎを指していた。

「やばっ、」

バタンと勢いよく本を閉じて、鞄を掴んで教室を出た。



その時、携帯には友達のメールが一件入っていて。あわてていた私はそのメールを読まずに昇降口に走った。 そして、偶然にもそこには光が居た。
声をかけようと思った瞬間、彼はばちゃばちゃと走り出して私は急いでその後を追いかけた、

の、だけれど。
その足は途中で止まった。

遠慮することは、なかったのだと思う。

光は校門で足を止め、そこには仁美さんがいた。きっと私がそこに行けば、光は私の傘に入っただろうと思う。 (なぜ?そんな事を思うの?)だって私の方が、光の事を知っているし、 光だって私の方がいいに、決まっているよね。 だって私たちは双子みたいにきょうだいみたいに一緒に育ったのだから。

(光は、光は私を選んでくれるよね?)

なのに、自信に満ちた心とは裏腹に私の足は止まってしまった。
だってそこに居た光は(私の知らない光)だった。
(そんな顔、見たことないよ)
(そんな、優しい顔)

なんで?

だってその女、私から(そして光からも)充お兄ちゃんをとった人なんだよ。
だってその女、私から、居場所を、





何でそんな事をしたのかわからない。
馬鹿げていると思う。あほらしい。
私はこっそりと彼らの後をつけた。



そして、見て、しまったのだ。
(光、ねえ、光、その女、)


祈りにも似た独善

『ねえ、校門に財前くんちの義姉さんいたよ。どっかで見たことあると思ったらさあ、たぶんそうだよ』
(先に帰った友達の、このメールを見ていたら)
(たぶんこんな事にはならなかったに違いないと、思うのだ)

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