彼との恋が終わって、愛に気付いて、そして絶望した。あれから。
一年経って二年経って。気がついたら目前に高校卒業が控えていた。

高校の三年間、何を過ごしてきただろう。
気付けば両手には、空虚しか握っていなかった。
友達と話していても、思い浮かぶのは私を諭した本当の私を知っている佐伯君の事だけだった。

ねえ、今ならあなたに全てを暴かれても私は私でいられるよ。

きっと、あなたの傍でなら、真実でいられると思う。
けれどいくら私がそう思ったところで、彼が私に応えてくれることはもう、二度とない。

ねえ、夢に出てきた相手が自分を想っているだなんて誰が言ったのかな。

あなたが夢に出てくるたびに、私はこんなに苦しいよ。
恋って本当は苦しいものだったんだね。




あの日、彼が私に好きだといったあの日
憧れてばかりだったあの背中が、私のすぐ傍にあった
伸ばした腕は、確かに彼を抱きしめていた

触れ合ったくちびるが、どうしようもなくリアルで怖かった

けれどあなたは私の中に、いたのに


どうして、見失ってしまったのだろう。






私は高校を卒業したら、この町を出ることになっていた。進学先の学校が他県にあって、寮に入ることに決まったのだ。
引越しをしてしまったら、もうきっと彼とどこかですれ違うことも無いだろう。
高校で、一度だけ彼とすれ違ったことがあった。部活で遅くなり、父が車で学校まで迎えに来てくれたとき、たまたまよったコンビニで、彼の姿を見た。
その時、変わらない後姿に声が出なかった。彼はあれから、何一つ私の中の彼と変わってはいなかった。
逃げるようにコンビニを出た私は、彼が私に気付いたかすらわからなかった。

今更どう彼に声をかけていいのかわからなかった。それ以前に、きっと私には彼に声をかける資格なんて無いのだとわかっていた。今きっと彼の隣には、彼の愛する人がいるのだとうと思う。彼は私の事なんて、一通過点としか思わないだろう。
けれど一生にたった一度かと思うあの恋は、私の初恋で、そして最後の恋だった。
これからまだ続く人生の中で、これ以上の恋はきっと無い。

初恋に勝てる恋なんて無い。
だっていくら人とめぐりあおうと、初恋はいつだって付きまとうんだ。
あの人とここが違う、そんな風に思う恋は本当の恋じゃない。


だからこそ、はっきりと訣別していきたかった。
彼を引き摺るのは終わりにしたい。
そして、彼と会って伝えたい。

『愛しています』

彼にとって迷惑な言葉だけど、あってくれるかなんてわからないけど。
それでも私はこのままじゃいつまでたっても前へ進めないと思ったのだ。


三月に入ってすぐ卒業式が終わって、私は引越しの作業に追われていた。だけど寮にはほとんど必要なものが備わっていて、そんなに大荷物にはならなかった。
いよいよ明日に引越し本番を備えたところで、私の足は自然と公園へと向かっていた。
彼と座ったベンチに一人だけ腰掛けて、あの夜見れなかった空を見上げた。

冬の太陽は、昼でもてっぺんより少し傾いていた。

「眩しくて、届かなくて、まるで佐伯君みたい」

憧れ、夢、本当に私にとってあの人はそんな存在だったんだなあとしみじみ感じた。
零れ落ちる涙は、そのまま拭わなかった。
あの人に会う資格なんて私、持ってない。
だけど考えて、考えて、想うことは自由だよね。

会いたい、けれど迷惑だ。
終わりから始まって、それで勝手にまた終わらせて。
元々しつこい女だった。だけど彼は受け止めてくれた。

それ以上求めたらいけない。


彼はあの日、私の手を握ってくれたっけ。
滑り台でもすべろうか、そういってベンチから私の手を引いた。
滑り台のてっぺんで、抱きしめられて。高くておっこちそうで不安だったけど、彼の鼓動があたたかかった。
いつのまにかあったかくなった指先に、あの頃の私は気付いていたのかな。

堰を切ってあふれる涙が、地面に吸い寄せられていく。
いつのまにか大声を上げてないていた。

あの頃も、こんな風にないてばっかりだった。

「失恋でもした?」

ふと、隣にぬくもりを感じた。




奇蹟は二度と起こらない、そんな風に思っていた。
神様は、どこまで私を見てくれているのだろう。

今でも狂おしく
きみのゆめをみます



NEXT