顔を上げた私のすぐ隣に、太陽がある。 「したよ…毎日毎日、ずっとしてた」 「それは大変だったね」 「うん…だけどね、こうやって泣くのも最後にしようと思って」 信じられないくら自然に、言葉が出てきた。心は不思議なくらい落ち着いていて、優しくて穏やかな気持ちだった。 泣きはらした目で捉えた、久し振りに見た佐伯君は相変わらず格好良くて、少し髪が伸びていた。 「私ね、明日から県外に出るんだ」 「へえ」 「それで、新しい世界を切り開きたいな、って思ってるんだ。 高校の三年間はずっとずっと苦しい毎日だったから。今度こそ本当に自分でいようって思ってるんだ」 聞かれてもいないのに饒舌にぺらぺらと話していた。 あの頃は彼が話しているのを聞き流して、自分からふる話題なんて持っていなかったのに。 「俺もね、新しい世界が見たいなって思ってここに来たクチなんだ」 「佐伯君も?」 「うん。毎日毎日、ここに来てずっとここに座ってた。考え事するのにいいんだよ」 「日差し、心地いいもんね」 「俺、三年間ずっと考えてた事があってさ」 ふいに声のトーンが落ちた佐伯君の方を振り向くと、 彼はあの日の私のように、俯いてずっと地面を見ていた。 「三年前俺の好きだった女の子の、見てた景色ってどんなのだったかな、って」 顔を上げた彼の、寂しそうな今にも泣き出しそうな顔を見て、私は言葉を失った。 自惚れてはいけないと思っていたが、今彼がとらえているのは私の姿なんだろうかと思って苦しくなった。 「ずっとずっと縛るんだ。彼女、俺の事」 「佐伯くん、」 「俺にはわからないんだよ、今でも彼女の気持ちが。 好きだって言ってくれた。俺は一度彼女をふったけど、 彼女は変わらず俺が好きだって気持ちをくれた。 いつの間にか俺は彼女を目で追ってて、彼女も俺を追ってきた。だけどっ、」 その時彼の目から、一筋涙が伝った。 「気付いたらいつの間にか、彼女の姿がどこにも見えない」 佐伯君につられて、私の涙もまた溢れた。 真昼の公園で、二人でベンチに腰掛けて。何をやっているんだろうと通りかかった人は笑うだろうか。 笑いたければ笑えばいい。 だけどこれが、ちっぽけな私達の等身大の恋だった。 「だけど俺の中に、あり続ける…彼女が、が…」 私の中に彼がいたように。 彼の中に私がいた。 何でもっと早く、気付かなかったのか。 「佐伯君…私、好きだった…あなたが凄く好きだった…だけど怖かったの。 全て暴かれて、私の真意があなたの前に差し出されることが怖かった! 自分の事ばっかり考えて自分を護ろうとして……逃げちゃった」 「………………………」 「気付いた時はもう遅かった。全て遅かった…私ね、一度メール送ろうとしたの。 だけど佐伯君に届かなかった。バカだよね。うん。わがままだった…私、だけどね…だけど、」 愛してるって気付いたの、やっとやっと、全てが終わってしまった頃に 言葉に出してみるとそれは何とも無い言葉。 ただの音で、空気に一瞬で溶けていく言葉。 笑顔を作ってみたけれど、あなたにちゃんと届いたかな。 頬に、優しいくちびるが触れた。 そっと目を閉じると、目尻に溜まった涙がそこを伝っていった。 噛みつくようなキスも、今は全然怖くないよ 「ん、っ………さえ…き、くんっ……」 愛が苦しくて、どうしようもなく苦しくて 息つくその一瞬の間さえ惜しい程に 「…っ、……っは、…」 そっと繋がれた右手があたたかくて 隙を突いてくちびるから漏れるあなたの私を呼ぶ声が愛おしくて 長い間ずっと、空いた時間を埋めるようにくちびるを求めていた 泣きながら恋をしていた 光の中で、もう一度あなたを見つけた ねえ、私の全てを暴いて、等身大のあなたで もう逃げたりしないから ずっとずっと恋していたい 慰めるような右手も
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