うちの学校には、部活動の他に愛好会というものが存在する。
それは何かと言うと、いわゆる部活動と認められる程人数が集まらなかった所謂一般とは異なった嗜好の持ち主達が集まる変わり者クラブだ。全校生徒の中にはその存在すら知らないで三年間を過ごすという人もいるくらい、マニアックな会である。
きっと私もその中の一人になっていただろうと思う。友達が、そんな数少なに存在するとある愛好会の一人でなかったら。



「じゃーん!っ、見てこれ!!」
「ちょっ…何なのその気色悪い色合い……」

急に背中を叩かれて、ふいに振り返ると目の前に表現しにくい色の飲み物。
中学生時代、他校の学校にそんな色の飲み物を作るのが趣味だという人がいるとテニス部の連中からの噂を聞いた事があるが、まさにそれとイメージがぴったり合致するような気味の悪い色をしていた。この世のものとは思えない。しかも少しサイダーみたいに泡がぷつぷつ言ってるし。

「何と、昨日完成したばかりの惚れ薬」

鼻高々と言った様に胸を張る一風変わった私の友達は、あろうことか黒魔術愛好会(研究友の会とも言うらしいが、どうでもいい)所属である。新校舎が建築され、古い校舎は数年前に取り壊されたがなぜか唯一残された、木造の西一角。そこが彼らの活動場所らしい。
昼だと言うのに真っ暗だとか、嫌な匂いが漂ってくるだとか、挙句の果てにはあそこは異次元空間だなんて噂される程オカルトな場所だ。
近づいていくのは物好きオカルトホラー好き。友達がいる私ですら立ち寄った事がない。

で、そんな愛好会所属の友達は、こうして何か発見があるたび怪しげな品を片手に寄ってくる。いや、寄ってくるという表現はおかしいな、友達だし。

「惚れ薬って…それ、ちゃんと聞くの?大体ありえないでしょ」
「人間にはこれからだけど、猫には大絶賛よ?昨日ノラにためしたの。家までついてきちゃった!」
「…マタタビでも入れたわけ?」
「入れ…たかな。あ、でもこっちに入れたのはあんたの髪の毛」
「は、はああ!?」

わが耳を疑った。今、何と言った、友よ。
聞き間違いであってほしいと思ったが、今まで見た事もないような笑みを浮かべた友達は私の肩をポンと叩いた。

「あんた用の惚れ薬なの」
「なんで?!何のために!!」
「高校三年になって恋のひとつもしてないあんたのキューピッドしてやろうって言ってんの!」
「余計なお世話!!!」

確かに友達の言うとおり、私は昔から恋愛というものに興味がなかった。
どちらかというとずっと友達という関係でいたいという思いが強くて、恋心というものがよくわからなかった。

「まあ人間にきくかとかまだわかんないんだし、怒らない怒らない!」
「そういう問題じゃないでしょ…」
「あ、ちょうどいいところにバネが来た!」
「えっ、ちょ、まさかそれ、黒羽君に使う気じゃないでしょうね!!!って、ちょっと!!!」

信じられない事に、私の制止も聞かずに友は黒羽君のもとへ駆け寄っていってしまった。
カップを渡された彼はその中身を見て露骨に嫌な顔…というかもう凄い顔をしたが、何やら耳打ちされたようで、さらに顔を真っ青にしながら一気にそれを流し込んだ。

や、でもそんなの大体きくわけないし。
そんな薬あったら世界中の人が好きな人と両想いになれちゃうじゃない。

ありっこない、ありっこない…ありっこ………



……俺と付き合わないか?」



真剣な黒羽君の顔が、少しだけ照れたように微笑んだ。

こんな恋の始まりも、


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