日々のエッセイ

 暖冬とはいえ、寒い2月。
 能登半島地震で困難な生活を強いられている方々を想うと、一日もはやい復興と、少しでも暖かな気候を願わずにはいられません。
 十年ほど前ですが、クリスマス前の季節に輪島の朝市通りを訪れ、着いたのが夕方で、閉館時間ギリギリで永井豪記念館へ飛び込んだのを思い出します。その後、輪島塗りのお店をハシゴしたり、海沿いの古い町並みを歩いたり。並んだお店のショーウィンドウは、どこも工夫を凝らしたクリスマスの飾りが美しく、電燈の温かなオレンジ色に包まれ、まるで絵本の中の町並みを彷徨っているみたい、と感激したものです。
 長い年月を経た素敵な町の記憶は、旅行者の胸にもしっかり刻まれています。

        


  実家へ行った時、葉がすっかり落ちた並木道に、こんなインスタレーションを見つけ、ほんわかした空気を冬空に振りまいていました。アートイベントの一つだったようですが、かなり大きな雲くんたちの行列で、インパクトがあります。

 2月になると、お菓子屋さんの店頭はいっきに華やぎますね。
 バレンタインデーがあるのですから、当然です。オシャレなパッケージのチョコレートが、装飾品のごとくショーケースの中に並びます。義理チョコは淘汰され、女の子たちは彼に、じゃなく、自分のために”ご褒美チョコ”を選ぶ時代になってきました。
 2月にしか買えない特別仕様のチョコレートを、暖かな自分の部屋で、思いっきりリラックスして味わうのは、もしかしたら最高の贅沢かも。

         
 ホットチョコレートの絵本は、この季節にぴったりですね。表紙は、板チョコそのもの。中に、丁寧なホットチョコレートのレシピが載っています。チョコレートに含まれるカカオポリフェノールは、血管を広げたり、身体の酸化を抑えたり、美肌効果があるというのですから、女性には嬉しい飲み物です。今日は珈琲や紅茶ではなく、レシピ通りにホットチョコレートを作ってみましょうか。

         
 チョコレートの代わりに、こんな優雅な愛の本を楽しんでみるのも、バレンタインデーの過ごし方。『A VICTORIAN POSY』というこの本には、四季折々の花飾りにまつわる小さなお話が詰まっています。タイトルのヴィクトリアンポジーというのは、男性のフォーマルジャケットの襟のボタンホールを飾る小さな花だそうですね。19世紀に流行したとか。表紙の花束には、小さくTrue Loveと書かれた紙が挟んであります。男性向きではないけれど、贈られると嬉しい綺麗な本です。

          

 愛の本をもう一冊。最近、古本屋さんで買った、半世紀近く前の本です。私が童話作家になりたいなぁ、と憧れるようになったのは、立原えりかさんの物語の影響があります。そして、子どもの頃に読んだ立原さんのメルヘンは、イラストレーター牧村慶子さんの繊細な絵に彩られていたものです。立原さんと牧村さんのコンビが紡ぐ幻想的で、どこか切ない雰囲気に惹かれました。立原さんの童話を他のかたの挿画で読んでも、「ちょっと違う・・・」と思ってしまうほど、牧村さんの絵がぴったりで、好みでもありました。
 この本は、そんなお二人が奏でる愛の詩。本を開くと、かつて誰かの大切なプレゼント品だったようで、「To Keiko From Junko」と、サインが入っていました。半世紀という長い長い時間を感じさせない綺麗な本だったので、持ち主にとても大切にされていたことがわかります。

         
 憧れの気持ちというのは、伝わるのでしょうか。5年ほど前、編集者さんが、ちょうど牧村さんの担当でもあったことから、引き合わせて頂く機会に恵まれました。ご近所にお住まいと知り、以来、お手紙のやりとりをさせて頂きました。牧村さんが精力的に創作を続けていらっしゃる姿を拝見して、私も頑張らなきゃ、と励みにしていました。
 その牧村さんも、昨年の夏、天国へ居を移され、寂しい限りです。少女のための、詩情あふれる優しい絵の数々、いつか画集になって、未来の少女たちへ届くといいなぁと思います。

        


 バレンタインというと、昔からこの絵を思い出します。フォロンの『リリー、わたしを愛して』という作品。上の写真はその一部です。何もない蒼い海に、真っ赤なふくよかな唇の舟が浮かび、男性がぎこちなく櫂を動かしています。静かだけれど、情熱的な絵。自分の名前に似たタイトルも好きだったから、覚えているのかもしれません。

            

 冬の寒さをぬくぬくと暖めてくれそうな人形に出会いました。ウォルドルフ人形という名称があるのを教えて頂きました。
 シュタイナーの教育思想から生まれた玩具で、天然素材から作られ、中綿には子どもの肌の弾力に近い羊の毛を使い、子どもの想像力を育むために、あえてシンプルな表情にしてあるそうです。子どもを想う、子どものための人形。ギュッと抱き締めたら、安心出来そうなお人形。ちょこんと二人並んでいるところが可愛いので、思わず写真を撮らせて頂きました。


 2月、愛のある暮らしで寒さを乗り越えましょう。

 2024年2月

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