一人旅のロングドライブに夢中になりました
ドライブ旅行の楽しさに目覚めたのは、大学の夏休みでした。恒例のゼミ旅行で、学生仲間のマイカーに分乗したのがきっかけです。それまでクルマに無関心だった私が、そのドライブ旅行で受けた刺戟は十分すぎるほどでした。
在学中に運転免許を取得し、クルマの購入資金と維持費は全額自分の給料で賄うため、就職後2年越しに念願のクルマを手に入れました。
クルマ選びで思案する中、目にとまったのがホンダプレリュードでした。
プレリュードXZ
5速MT、(国産車初の)4輪アンチロックブレーキを装備
当初は初代の“XR”に惹かれ、購入資金を蓄えている間にフルモデルチェンジした2代目の“XZ”をみて心が決まりました。
5ナンバー枠一杯の幅広い車体、1トンに満たない車両重量、アクセルに機敏に反応する1800ccエンジン、凝ったつくりのフロントサスペンション、4輪ディスクブレーキ、ほとんどロールしない低い車高、低い着座席など、このクルマは軽快に運転を楽しむのにうってつけの特徴を満載していました。
一つ特筆すると、“XX”など他のグレードとは異なり、このプレリュード“XZ”のステアリングには、操舵アシストがありません。いわゆる重ステなので、その手応えはかなりのものです。 運転中の操舵は、ステアリングに手を添えた自分の腕の力だけ。路面の状況、前輪タイヤの踏ん張り具合の微妙な変化まで、ステアリングから手のひらに直に伝わってきます。
道路からのフィードバックを常に手の感触で確かめながら、思う存分に運転を楽しんでいました。 2速・3速のシフトを繰り返しながらたどる観光地の曲がりくねった道は、(私と)このクルマにとって相性が合っていました。
低い着座席
手応えあるステアリングと程よい操作感のシフトレバー
当時、モーターファンという自動車の月刊誌がありました。 中でも特に興味をそそられた記事が新車のテストリポートです。自動車工学の視点でクルマの性能を計測していました。
新車発売となったプレリュードXZもテストリポートの俎上に乗り、操縦性・安定性などを示す図表が数多く掲載されました。 私には専門外の知識ですが、これを頭の片隅において実際の運転感覚と重ね合わせていました。
大阪を起点に、走り応えのありそうな観光地の道路を求めて、一人旅で日本各地をめぐりました。
近畿とその周辺は日帰り、信州方面は1泊、北海道、東北、九州方面へは、2泊以上のドライブです。旅費を抑えるため、宿泊費の廉価な『公共の宿』を探しました。
晴れたその日に出発を決めることが多いので宿泊予約なしですが、特に混雑する連休を除けば、たいていは当日空室が見つかりました。
本四架橋3ルートが全線開通する前で、四国方面のドライブは残念ながら果たせませんでした。
プレリュードの軌跡
このプレリュードの燃費は、高速道路を多用すると12km/Lくらいです。給油満タンにして600km走ると燃料計がE を指し、50L消費(給油)する勘定です。
満タンにしてから出発すると、1日走りきるのにちょうどいい具合でした。一時期、休日にガソリンスタンドが軒並み休業していたのですが、給油の頃合いを気にかけずドライブできました。
プレリュードXZはFM・AMラジオが標準装備で、カセットデッキなどのオーディオシステムはディーラーオプションでした。 思案の末、日本橋の電気専門店街でSONYのカセットデッキとパワーアンプを買ってきて自分で取り付けることにしました。
当初、スピーカーはラジオと共用で、自作のリレーで切り替えて聴いていました。スピーカーは左右のドアに埋め込まれていて、音量を上げるとドア自体が盛大に振動します。音質も自宅で聴くオーディオセットと比べていまひとつもの足りません。市販のリア・スピーカーも高額であるほどには魅力を感じません。考えうる選択はリア・スピーカーの自作でした。高校時代の工芸の時間にバックロードホーンスピーカーを製作したことがあり、魅惑の自作をもう一度という動機もありました。
自作の密閉型2ウェイスピーカー
(ウーファーはFW108に換装)
スピーカーユニットは当時自作派御用達メーカーFOSTEXの10cmウーファー(FW100)と、12mmドームツィーター(FT10D)です。 エンクロージャーは、必要な容積を確保しつつ、後方視界を妨げない最小限の大きさで、リアトレイに据え付けてジャストフィットする形状を設計し、12mm厚のラワン棚板を加工して作成しました。小粒ながらダンピングの効いた強力なスピーカーユニットらしく、パワーを駆けるほど広がりのある音を聞かせてくれます。その音質も自宅で聴くのと遜色ない程度の仕上がりになりました。
自作スピーカーの設計図
青空駐車場で休日にしか乗らないため、クルマには常にボディカバーを掛けていました。
直射日光に曝されるボディカバーは、2年と耐えず紙より脆く破れるまで劣化しました。 その分、クルマの塗装、プラスチックの外装部品の劣化を抑えていたのではないかと想像します。 15年を経てもまだまだ艶やか(!?)でした。
ただし、ルーフ後端両隅とトランクリッドの両隅は要注意です。ボディカバーが掛け下がり、車体と密着する箇所で擦り合うため、その部分の塗装が次第に薄く剥げてきます。 剥げても米粒ほどのわずかな範囲なので、時々タッチアップペイントで重ね塗り補修しました。 車体の色はタフタホワイトのソリッドカラーなので、補修の塗り跡もほとんど目立ちませんでした。
洗車後、固形ワックスで磨きボディカバーを掛け、雨の日はクルマを使わずに済ますと、ほとんど手間がかからず、常にきれいな状態でドライブに出かけることができました。
ドライブそのものが新鮮な体験の連続でした。そこで、その日のドライブの様子を小さなノートに記録することにしました。以前、山登りを本格的に始めた頃、「登山手帖」に山行の日記をつけて、時々読み返していました。遠出のドライブも、どこかそれに似ています。
走行記録ノート
最初の5年間は遠出のドライブに熱中していましたが、平成元年(1989年)に新たな趣味を見つけ、休日の過ごしかたが変わりました。
当時普及し始めた16ビット・パソコンに手を染め、『K&R』を熟読し“三十路の手習い”でCプログラミングに没頭しました。SHARPの68000上で走るGNU C コンパイラとフリーの開発ツール群が極上の開発環境を与えてくれました。
所帯を持って家族中心の日常生活を送るようになると、いつでも・どこまでも遠くへドライブという訳にはいかなくなりました。わが子の育児が最大の関心事となり、遠出ドライブ熱も自然と冷めて、走行記録も粗略になりました。
“最強のデート・カー(?)”と、一世を風靡したプレリュードもモデル・チェンジを重ねる間に、世間では利便性に優れたミニバン隆盛の時代を迎え、2ドア・クーペの人気はすっかり下火になりました。
飽くことなく乗り続けたクルマでしたが、姿そのままに中身を全て進化させたような新型プレリュード(5代目)は、私の目にはとても魅力的に見えました。走行距離は多くないのですが、15年目の継続検査を機に買い替えを決め、廃車の手続きをしました。