Love Wish.

'97 Version.

Everyday,Love Somebody.But Someday,Wanna be Loved by Somebody.−

 

 恋愛には千差万別・種々さまざまのケースがあるものです。今からここに登

場するお話もまた、そんな何処にでもあるありふれた恋愛のお話です。

 例えば、まだ恋と呼ぶには足らない感情。思春期に入ったばかりの頃に誰も

が経験する、麻疹のような淡い憧れの恋というのがありますよね。

 それでは、まずはこんな恋から・・・。

First Love. "Baby's Love"

 日増しに強くなる陽光に照らされた、萌え立つような草の匂いが心持ち和ら

いで来る頃、放課後の進路指導室には、遠くスポーツ系クラブの練習の声が聞

こえるばかりだった。

「どうした、中井に槙原。先生に何か相談か?」

 新任の数学教師・稲葉は、副担任をしているクラスの女子二人に呼ばれて話

を聞いていた。

「それが、そのォ。ほらぁ里緒。アンタのことなんだから、自分で言いなよ」

 それまで親友である中井真理の横に座ってうつむき、時々、稲葉の方を見や

っていた槙原里緒は、ハッと顔を上げて驚きの表情で隣りの真理子を見る。

「何だ、槙原がどうかしたのか?」

 稲葉が事の次第をよく飲み込めないといった様子で、里緒の顔を覗き込む。

里緒は慌てて下を向き、耳まで赤くしている。

「あ、あの・・・」

 里緒は何やら言おうとしたが、恥ずかしさでまたうつむいてしまう。

(ヤだもぉ、自分じゃ言えないから頼んだのにぃ。ねえ、真理から言ってよォ)

「もうっ、分かったわよ。あのね、先生」

「なんだ中井、言ってみろ」

「里緒がね、稲葉先生のこと好きなんだって。でね、先生はどう思ってるか聞

きたいんだって。でも一人じゃダメだって言うからワタシも一緒に来たんです」

「ふむ、そういうコト・・・か」

「あ…あの、稲葉先生はワタシのこと・・・どう思いますか?」 

 気持ちを押さえ切れず、里緒が真剣なまなざしで問いかける。

「どうって、ま、ボクはもちろん槙原のことが大好きだ。でもそれは中井にし

てみても同じ、二人とも大事な生徒の一人だからね」

 里緒の勢いに気持ち押されながらも、稲葉は笑顔でそう答える。だが、幼稚

園児ならまだしもこの年頃の女の子は、当然それじゃあ納得合点もいくはずは

ない。

「先生!子供扱いしないでください。私たちもう中学生なんですからぁ」

「そうよ、生徒じゃなく一人の女の子として、里緒のことどう思うんですか?」

 こうなると困ってしまう。相手は自分のことを、異性として対等に見てもら

いたがっている。しかも真剣も真剣、カナリ本気である。とはいえ、自分は赴

任したての新米教師。女子生徒を異性としてみないよう心掛けるのは基本中の

基本だと心に決めている。

このくらいあしらえねば、この先到底やっていけない。

「答えてください、先生」

 里緒はなおも食い下がる。それも当たり前である。何せ、里緒としては散々

思い悩んだあげく、親友の真理子を拝み倒しての告白である。この程度のマニ

ュアル解答で引き下がっては、≪槙原里緒・十四歳≫、オンナが廃る。

「あのな、二人とも落ち着いてよく聞け。槙原がボクに抱いているのは、恋な

んかじゃなく単なる憧れだと思うんだ。この年頃にはよくある勘違いで、ボク

にも覚えがある」

「でもォ・・・」

「まあ、槙原もそのうちに同じ年頃の男子に本当の恋をして、ボクのことは気

にならなくなる。だから、そんなふうに考えないこと、いいね?」

「は・・・い」

 ショックはやはり隠せないが、稲葉に諭されて仕方なくそう答える。

「そうガッカリしないで、元気出せ槙原。ボクはそこにいる中井みたいに元気

いっぱいな女の子の方が中学生らしくて好きだな。よしッ、この話はこれで終

わり。二人とも気をつけて帰れよ」

 そう言うと稲葉は椅子から立ち上がり、進路指導室を後にした。後に残され

た二人は、ふと互いに顔を見合わせる。そして、それぞれの表情にだんだんと

明るさを取り戻す二人。

「エヘッ」

「ウフッ」

 真理子は里緒に微笑みかけ、里緒の顔にも笑みが浮かぶ。

「ね、真理子。稲葉先生って、やっぱイイよね」

「ウン、・・・カッコイイよね。稲葉先生・・・か」

 新任教師の何げない最後の一言が、新たなる憧れと女子中学生の友情の危機

を呼ぶこともある。

 

 ケースは様々ですが、恐らく、この種の思い出は殆どの人が例外なく経験し

ていることと思います。ただ、憧れが強すぎるあまり恋と錯覚する人もいれば、

あるいは幼すぎたりして自分でもはっきりと自覚のないまま通り過ぎてしまう

人もまた沢山いるかと思います。

 さて、この憧れというのは恋愛感情という視点から見ると、少し恋とは性質

を異にすると思われます。仮に恋愛の中で当てはめるとしたなら、片想いの一

つでしょうか。

 片想い・・・。未だ想いの通じぬ、切なさをかみしめる悲哀の恋。

 それでは、続いてまた一つ恋のお話をご紹介します。

 

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1997 Masato HIGA.

 

1997/12/23 Up dated.
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