アルベルト物語・蓬莱編

エピソード#112「エレーナ」その5

 

 医務室にはエレーナとゆかりのが残った。

 エレーナはアルが倒した丸椅子を起こしてそれに腰掛けた。

「コッツェ、ダイジョウブカ?」

「えと・・うん、大丈夫だよ」

 大きな瞳を見開いて覗き込むエレーナに、ゆかりのはやや気押され気味だ。

「顔アカイゾ、コッツェ。熱でもあるカ?」

「うう・・・」

 ゆかりのは言葉に詰まる。まさかさっきまでのことが原因で紅くなっているなんて、そ

れこそ恥ずかしくて言えない。

「コッツェ、アルのコト好きカ?」

 更に追い打ちを掛けるような質問をしてくる。

「あ・・いや・・その。エレーナはどうなんだよっ」

「エレーナはアルが大好き・」

「あ・・そう・・」

 改心の一撃で反撃したつもりが、あっさりと答えられてしまった。

「でもアルにとって、エレーナはイモウトだってイワレタ。ミラノで一回だけデートして

 くれた時にアルがそうイッタ。だから、アルはエレーナの大事な“お兄ちゃん”」

「エレーナはそれでホントにいいの?」

 ゆかりのは少し体を起こしながら問いただす。口調も何処と無く強いものになって来て

いるように感じられる。もしかしたら自分の心にも問いかけているのだろうか・・。

「フーフやコイビトは別れても、ファミリアならキズナはずっと消えナイヨ」

「エレーナ・・・」

「エレーナ、ホントはコッツェに会いにキタ。アル、コッツェのことトッテモ気に入って

 いるってメールに書いてきたカラ。エレーナ、コッツェに会ってみたくナッタ」

 ニコニコと微笑みながらそう話すエレーナに、どう答えて良いのか解らない。ゆかりの

はまだ、アルに対する気持ちがはっきりしなくて悩んでいるのだ。

「でもボク、自分がアルのことどう思ってるのかわかンない・・・」

「アハハハッ、コッツェ、アルと同じことイッテル☆」

 ゆかりのが申し訳なさそうに答えると、エレーナはそう言って一笑してしまった。

「アルも昨日、言ってタヨ。“俺はゆかりののこと好きかどうかまだ解んねえよ”」

 エレーナはアルの口まねをしてみせる。

「アルが・・・?」

「ソーダヨ。だから、コッツェも気にシナイヨ、そんなコト。コッツェもアルもお互いの

 ことちゃんとシンケンに考えテル。ダカラ・・・・」

「だから・・・?」

「ダカラ、エレーナ安心してミラノに帰れるヨ」

「えっ??」

 突然のエレーナの言葉にゆかりのは驚きを隠せない。

「もう帰っちゃうの、エレーナ。だって、明後日はアルの・・・」

 そう、明後日はアルの誕生日だった。エレーナはきっと、アルの誕生日を祝う目的で蓬

莱に来たに違いない。ゆかりのはそう思っていた。

「それはゆかりのに任せたヨ。アルの好物はネ、甘〜いチョコダカラ忘れるナ☆」

 

 

 いつの間にか、医務室の中は夕暮れの色に染まっていた。

 室内にはエレーナの姿はなく、ゆかりのはジッと天井を見上げていた。

−ガチャッ−

「エレーナ、ゆかりの、そろそろ帰るぞ・・・あれ?」

「あ・・アル」

 ドアから顔を覗かせたアルにゆかりのはぼんやりと言葉を返す。

「エレーナは?」

「ミラノに帰っちゃったよ、エレーナ」

「えっ?な、なんで?」

 ゆかりのの言葉に、アルは耳を疑った。しかし、すぐに頷いて見せた。

「そっか、帰っちまったのか、そっか」

「アル、追っかけなくて良いの?見送りに行かなくて良いの?」

「良いんだよ」

 そう言いながら、アルは椅子に腰を下ろす。

「あいつ、見送りに行くと怒るんだよ。絶対、泣いちまうから・・・」

 カーテンに閉ざされた窓の外を見つめながらアルはそう言った。

「・・・・・アル」

「あ?なんだよ」

 ゆかりのの声にアルは振り返る。すこし真剣な眼差しがあった。

「勝負の時の罰ゲーム憶えてる?」

「なんだよ、急に?ミラノ行きだろ、忘れてねえよ」

「絶対・・・だかんねっ・・」

 ゆかりのの言葉がちょっぴり涙声になっていた。

「ゆかりの?どうしたんだよ?」

「・・・・・・」

 ゆかりのの様子がおかしいことに気付いたアルが尋ねる。でも言葉が出ない。

「ミラノに連れてけ・・・絶対だかんねっ!」

 そういうと、ゆかりのはシーツを頭からすっぽりと被ってしまった。

「・・・・・・・」

 アルには掛ける言葉が見つからなかった。

 ゆかりの、そして突然来て突然去って行ったエレーナ。

 一体、二人の間にどういう会話があったんだろう・・・。

 たぶん、きっと、ゆかりのはシーツの中で泣いているに違いない。

 その意味は、まだアルには解らない。

 ただ今は、ゆかりのが泣き止むのをじっと見守るコトだけしかできなかった。

 

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あとがき

 

ただ今かなり恥ずかしい、ぐーたら@作者です。

いやぁ・・なんつーか・・・何なんでしょうねぇ(笑)

自分でも、よくこんな恥ずかしい文章が書けたなと。

思わず、主人公をアルベルトじゃない別の名前に

してしまおうかと思ったくらいだったりします。

もうめっちゃ古典的なラブコメディっすねぇ(^^ゞ、

とはいえ、こういうのってやめられないんですよ(w

そういうロマンティストなオヤジです、俺は♪

 

当時メーリングリストに参加していた方が

もしもこれを読んでいたら、すいません。

元の文章の雰囲気などを損ないたくないため、

キャラクター名や、設定など当時の物をそのまま

使用させていただいています。ご了承下さい。

 

なお、この作品はあくまでフィクションです。

 

Update 2003/05/25

2003 Masato HIGA / HIGA Planning.

 

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