アルベルト物語・蓬莱編
エピソード#09「エレーナ」その3
アルの出場する第2試合は午後2時にキックオフとなった。通常、高校生の公式戦は少 |
し短めの試合時間になっているものだが、蓬莱では一般の試合と同じく45分ハーフの前 |
後半で行われる。将来のJリーグ入りを視野に入れているのが理由らしい。 |
アルのチームには他に、ピッポ(FW)、ゆかりの(MF)、葵(DF)、火沙士(DF)、勝矢(DF) |
という顔ぶれである。もちろん、アルは今日も中盤を任されている。 |
試合前、監督(いたのか?)に呼ばれたアルは、今日の試合でキャプテンマークを着ける |
ように命じられた。そのせいか、幾分かアルはいつもより緊張していたようだ。 |
もっとも、ピッチに立つアルはいつもと変わり無いように振る舞ったため、それに気付 |
いた者はいなかったようだが・・。 |
試合は立ち上がりこそ相手のチームに押されたものの、プレイが止まる度にアルが大声 |
で一人一人に指示を出し、流れを変え攻撃の形を作っていった。 |
そして前半25分、中盤で勝矢がカットしたボールを、ゆかりのが持って左サイドを上 |
がり中央のアルへパス、そのボールをアルがノントラップで絶妙のキラーパス。 |
最後は右から走り込んでいたピッポがピンポイントで合わせてゴール!! |
その直後にもピッポが右サイドから一人で持ち込み、自ら決めて2点目。 |
結局、前半を2−0とワンサイド状態で折り返した。 |
そのまま後半に入っても流れは変わらず、アルのチームが楽勝で終えるかに見えた。 |
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だが、後半12分にアクシデントは起こった。 |
葵が拾ったルーズボールから流れを作り、ゆかりのが中央を突破していた時だった。 |
サイドからプレスを掛け、チャンスを潰しに来た相手チームの選手が、ゆかりのの足元 |
へ悪質なスライディングをした。スパイクがゆかりのの足首を強襲し、ゆかりのはピッチ |
へものすごい勢いで叩きつけられた。 |
−ピィィーーーッ− |
主審のホイッスルが鳴り響く。 |
ゆかりののパスを信じて走り込んでいたアルは咄嗟に振り向く。 |
誰かが足首を押さえて倒れ込んでいた。ゆかりのだ・・。そのまま、動かない・・。 |
アルは弾かれたようにダッシュし、ゆかりのの側へ駆け寄る。まわりの選手もみんな、 |
近くに集まってきた。 |
審判が続けざまに2枚のカードを掲げた。1枚は黄色、1枚は赤である。 |
しかし、それぞれのカードは違う人物に対して出された。イエローカードはファウルを |
犯した選手に、レッドカードは・・なんとアルに対して出されていた。 |
見ると、相手の選手が額を押さえている。アルは痛む足を必死に堪えているゆかりのを |
見て頭に血が上り、相手の選手に対してヘッドバットを食らわしていた。 |
「ゆかりの・・・」 |
般若のような形相でレッドカードを受けていたアルは、ゆかりのの方を向くと何処か悲 |
しげな表情になった。静かにその側に舞い戻り、跪く。 |
「マネージャー、担架や担架っ!!」 |
応急処置用のコールドスプレーを噴きかけていた葵が叫んだ。葵も気が高ぶっているの |
か、叫んだ声が上ずっている。 |
マネージャーの都達が慌てて担架を持ってくる。が、それをアルの手が制した。 |
「アルはん、どないしたんや?」 |
葵の問いかけに、アルは無言でキャプテンマークを腕から外し、葵に手渡す。 |
「どういうことやねんな、なあ、アルはん」 |
「後はオマエに任せる。頼んだぜ、葵」 |
そういうと、アルは額に汗を浮かべるゆかりのを軽々と抱き上げた。 |
「一人少なくなっちまったが、まだ点は取れる。ピッポは中盤に下がって攻撃の基点を作 |
れ。葵、ディフェンスを指揮しろ!勝矢と火沙士がいれば大丈夫だ」 |
そこまで、言ったアルは葵にだけ聞こえるように、 |
《怒りを闘志に変えるんだ。ディフェンスラインは自分のプライド。絶対、下げるなよ》 |
と囁いた。葵の顔つきが変わる。 |
アルはゆかりのを抱き抱えたまま、医務室へと向かう。ただサイドラインを越えるとき |
に一度だけ振り向き、ピッチを見渡して胸の中で何かを詫びていた。 |
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(まだつづく。なんでこんな長くなるんだろ(^^ゞ)
Update 2003/05/25
2003 Masato HIGA / HIGA Planning.