アルベルト物語・蓬莱編

エピソード#09「エレーナ」その2

 

 グラウンドに着くと、もう既に第1試合の出場メンバーがアップを始めていた。

 アルの所属する蓬莱のサッカー部は大所帯のため、試合形式の練習も半日がかりで行わ

れる。なにせチーム数が多い。部内でリーグ戦が行えそうなほどである。

 アルはBグラウンドの第2試合に出る予定になっている。

「アル、これホントにガッコウのクラブなのカ?エレーナのクラブよりも良い設備・・」

 エレーナはビッグクラブ並の設備を見て驚いているようだ。

「まあ確かに、ディレッタンティ(アマチュア)と比べたらここの方が整ってるよな」

 アルはエレーナに言われて、改めて自分の環境は恵まれているなと思った。

「あ、ゆかりのだ」

 アルは視線の先にショートカットの少女を捉えた。少女もこちらに気が付く。

「あっ、アルぅ、探してたんだぞっ。・・・あれ?」

 部で一番の熱血少女・ゆかりのはそう言いながらも、笑顔で駆け寄ってきた。だが、す

ぐにアルの後ろにいるエレーナに気が付き、少し遠慮がちになる。

「あ、そうだ、紹介しとくな。こいつは、俺の従姉妹で・・・」

 アルがそう言いかけると同時にエレーナが信じられない行動に出た。

「えっ☆▲◇●?」

 なんと、エレーナはゆかりのの前に歩み出ると、いきなりゆかりのの胸に手を当てたの

だ。いや、掴んだといった方が正確かもしれない。

「エ、エレーナ!オマエ、何やってんだよっ!」

「ヤッパリーソーダ、オマエ、コッツェだな?そうだろ?」

 どうやら・・・エレーナは胸の大きさでゆかりのを識別したらしい・・。

「い、いきなり何すんだよっ!ギュッて掴んだぞ、今!」

 ゆかりのは顔を真っ赤にして怒っている。まあ、それが当然だろう。

「アタシはエレーナ。アルのオーサナージミだ。ヨロシクな、コッツェ」

「何言ってるかわかんないよっ!大体何だよ、“こっつぇ”って」

 ゆかりのは更に口をとがらせて、何故かアルに向かって怒鳴る。

「あ・・えと、だからエレーナは俺の幼なじみだって言ってんだよ」

「じゃあ、“こっつぇ”っていうのは何だよっ」

「あ、それな・・・それはな・・・」

 そう言いかけて、アルはそっと顔を寄せてゆかりのに耳打ちした。

 要するに、アルがエレーナに出した手紙で「梢」という名前の綴りを間違えたためにエ

レーナが“コッツェ”と憶えてしまったらしい。

「今じゃ、家族中が"Cozze YUKARINO"って憶えちゃってる始末さ、あはははっ」

「可笑しくなぁーーーい!!!」

「あっ・・おい・・ゆかりの」

 とうとう、ゆかりのは頭から湯気が噴き出しそうなくらいに怒りだし、みんなの練習し

ている輪の中に戻っていってしまった。

 ・・・かに見えたのだが、途中で引き返してくる。しかも・・・・どういう訳か、顔に

うっすらと笑みを浮かべている。そして、アルの目の前で立ち止まった。

「ど、どうしたんだ・・?ゆかりの・・・?」

「アルぅ?」

「な・・なんだ?」

−バキィッ−

 殴った。

「ふんっ!」

 今度は本当に戻っていった。アルは殴られた頬を押さえ、去っていくゆかりのの後ろ姿

を呆然と見送っていた。

「ゆかりの・・・」

「あっははははは。アル殴られたぁ☆」

 エレーナはアルの表情が可笑しくて、腹を抱えて笑っている。

「エレーナ、オマエなぁ・・・・」

 結局、アルはこの後、試合が始まるまでゆかりのをなだめ続けることとなった。

 

まだ、つづく。

 

 

Update 2003/05/25

2003 Masato HIGA / HIGA Planning.

 

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