ある男の日記〜最終話〜


6月25日火曜日(晴れ)



彼女は眠りについてしまった・・・・・・・。
ほんの少し前まで元気に笑っていたはずの彼女は、まるで人形のように動かない。
話し掛けても、触れても、少しも反応を見せてくれない。
・・・・・・なぜ、どうしてこんな事に!!!
溢れ出る涙をふき取る事もできず、私はただ呆然と彼女を見つめていた。
何もする事ができなかった自分が悔しくて、憎くて、どうする事もできない!

「あの・・・・これを」
遠慮がちに私に話しかけたのは、彼女の母親だった。
そして、彼女の母が私に手渡した物は一冊の日記。
「これを、あなたに渡すかどうか悩んだのだけど・・・。令菜が望んでいる事だから読んであげてください。そしてあの子の言葉を受け止めてあげてください」
彼女の母親は、悲しそうな瞳でそう言い残していった。

私は彼女の日記を見つめた。
その日記は、何度も何度も涙を流した後が残されていて彼女そのものだった。
そして・・・。ゆっくりとページをめくっていく毎に、私は信じられない事実に激しい目眩を覚える事になる。彼女が私の元へ現れた理由、彼女があんなにも強かった理由、彼女がこんな事になってしまった理由。
そこにはすべてが書かれていた。
そして・・・、私への思いも。

けど・・・・・・、たった一つだけ日記には違う事実が書かれていた。
それは。


彼女が生きているという事実。


彼女は深い深い眠りについただけで、ゆっくりと呼吸も聞こえる。
ただまるで永遠の眠りについてしまったかのように、彼女は決して目覚めないだけ・・・。

私は焦る気持ちをおさえながらも、彼女の母親に頼み令菜の家へと向かった。
そして、彼女の日記に書いてあった『闇の扉』という本を探した。
必死で捜して、捜して、さがしてさがして。
ようやく、『闇の扉』を見つける事ができた。

『あなたの願望、命と引き換えに叶えてみませんか?』

日記に書いてあった通りの言葉がそこには書いてあった。
こんな非現実的な事、信じられる訳がない・・・。
けど、彼女は現に理由もつかない眠りに陥ってしまった。
私は焦る気持ちを抑えながらも、ページをめくっていくと・・・。

『茂原直樹さんが、憧れるような女性になりたい』

彼女の字で、確かにそう書かれていた。
私は胸が締め付けられるような、そんな悲しさを感じた。
こんなにも前から彼女が私を見ていたなんて・・・全然気づかなかった。
どうして気づいてあげる事ができなかったんだろう。
今までずっと一人で彼女は戦っていたというのに。
私は何度も何度も彼女を傷つけていた・・・・・・、それなのに令菜は私を励ましてくれていた。
自分の死が近づいていると知りながらも、彼女は必死で私を支えてくれた。


私は震える手で次のページをめくってみた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・思わず声が出そうになった。
なぜなら・・・なぜならそこには信じられない事実が書いてあったからだ。



 『願いは叶えられました。
  あなたの願いを叶えるために使われた力は・・・・・・。
  最初のきっかけ
  少しの勇気
  以上の力を使用させていただきました。

  あなたの願いの代金は10年です。

  10年後、またのご使用宜しくお願いします』



私は何度も何度も同じ所を繰り返し読んだ。決して間違いでないと信じられるまで何度も読み、やがて私は震えるほどに嬉しさを感じた。
・・・ああ、令菜。
君は死なないよ・・・・・、君はまだ生きられる。
『闇の扉』は決してすべての命を奪う本じゃない、
君の願いのぶんだけ、生きるという歩みを止めてしまうんだ・・。
10年後、目を覚ますんだよ!

それが解った途端、私は抑えきれない気持ちと焦りでどうにかなってしまいそうな気分になった。
ああ、早く君に教えてあげたい。君が生きられる事を・・・。
そして何よりも、君は決して力に頼ったわけじゃなく、少しだけの勇気ときっかけだけであんなにも素晴らしい人間になれたんだって事を。



私が・・・・誰よりも早く教えてあげたい。




私は、彼女を待つ事に決めた。
10年という月日はとても長く厳しいものなのかもしれない。
けど、私にとってそれだけ令菜は大切な存在になってしまった・・・。
たった数日という時しかまだ出会っていないというのに、とても・・・とても大事な存在になってしまった。

『どうか、自分の思うままの道を歩いてください。
・・・・決して、後悔しないで。』

私は彼女の言葉を忠実に守るだけ。

彼女が目覚めた時、不安に思わせたくない。
誰もいない病院で一人で目覚めさせたくない。
彼女が泣かないように笑って向かえてあげたい。
自分の本当の気持ちを伝えたい・・・・。

それが私が最も望む事なのだから。






だから・・・・どうか、それまでは。
彼女に良い夢を見させてあげてください・・・・・。





彼女を心から愛する男より。



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