*****双子の物語*****



小さな石版には名前が刻まれていた。
《山崎正樹 山崎みゆき、ここに眠る》
と・・・。

その石版に花を手向け、呆然と立ち尽くしている少年と少女。
なぜかよく似ているこの二人は、とても悲しい瞳をしていた。
少女は日記帳のような物を抱え、少年は手紙を握り締めていた。

「ずるいよな・・・、父さんも母さんもさ。こんなんじゃ憎めって言われたって憎む事なんてできないよ」
少年が呆れたようにそう言い放った。
「そうね・・・。父さんも母さんも託したのね・・・。まさか二人とも死ぬなんて思いもしないで、私達をもう一人に託して死んでしまった」
少女のその言葉に、少年は再び石版を見る。
「本当に・・・ずるいよ・・・。俺達の今までの苦労なんて知らずに死んじまうなんて、さ・・・」
少女は少年の手を強く握り締めた。
「そう、かな? 私は大丈夫だったよ。一人じゃなかったもの」
少年も黙って、手を握り返した。
「・・・まあな」

それから二人はしばらく黙っていた。
まるで父と母の温もりを感じているかのように、
優しい風を心地良さそうにし、やがて二人の顔は笑顔に変わっていく・・・。



不意に声をかけられた。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん・・・」
おどおどとした声。
驚いたように二人が振り返ると、そこには小さな女の子と男の子が立っていた。
「なぁに?」
少女が優しく小さな二人に声をかけると、女の子の方が不思議な黒い手紙を差し出した。
「これ・・・、黒い人に、おんなじ顔をした二人の子に渡しなさいって言われたの」
少年と少女は思わず顔を見合わせた。
女の子から手紙を受け取ると、少女は急いでその手紙を開けた。


『私は知っていた。
二人がこのまま出会わず歩んでいく運命を・・・。
それは、誰が見ても不幸と呼ばれる運命だった。

だから私はチャンスを与えてやる事にした。ただの気紛れだった・・・。無駄な事ばかりする馬鹿な人間を試してみたかったのかもしれない。
これが、人間に与える最後のチャンスだったのかもしれない。
そして、二人は私が思う以上の物を私に見せつけた。
馬鹿な人間を、ほんの少しだけ理解できたような気がした。
だから、
二人の魂を新たな生命として誕生させた。
もう決して離れる事のない、強い運命を持たせて。

君達の目の前にいた、あの子達に・・・』


黒い手紙を読み終わったと同時に、二人は勢いよく顔を上げた。

遠くの方で、男の子と女の子が笑いながら歩いていた。もうさっき目の前にいた双子の事など忘れているかのように、振り返る事さえなく・・・。

「待って!! 父さん! 母・・」
「駄目!!」
男の子と女の子を追いかけようとした少年を、少女は引き止めた。
「駄目だよ!! やっと一緒になれたんだよ! 今度こそ幸せになれるんだよ!! 私達はもう会っちゃいけないの!! 関わっちゃ駄目なんだよ!」
「そんなの! だって俺達の父さんだよ・・・、母さんだよ」
少年の言葉は少しづつ弱まっていった。
そして、少女の言葉をすべて理解したように俯いた。
「解ってる。解ってるよ・・・。」
名残惜しそうに男の子と女の子が去っていった方向を見つめる少年の頭を、少女は優しく撫ぜた。
「父さんと母さんは私達にたくさんの言葉を残してくれた・・・。それにあなたという大切な存在も・・・だから私達はもう大丈夫。今度は、父さんと母さんが本当に幸せになる番だよ」
「・・・・・」
少女のその言葉に、やがて少年は顔を上げる。
「・・・うん、そうだよな」
そう納得するように呟き少年は笑顔に戻った。

「俺達が覚えていよう。
・・・父さんと母さんの生きた道を。
誰よりも俺達を愛してくれた証を・・・」



二人はもう一度石版を見つめた。
そして、その瞳は決して悲しい物ではなかった。
迷いのない・・・強い、決意。

「父さん、母さん・・・俺達は絶対に忘れないよ」


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