ナユタよりフカシギ
それは、アイ。
埃の様なもの。
払っても、払っても、いつのまにか其処にあって。
まるで、まとわりつく様に離れていかない。
それなのに、与えるものは、那由他より不可思議よりも大きい。
それはまるで、目に見えない埃。
―アイ。
外は、雨。
締め切りまでも間があり、試験までも間がある、そんな穏やかな休日の昼下がり。
少し遅めのブランチをとった後、特に出掛ける予定もなかった俺たちはまるで示し合わせたかのように、各々寛いだ体勢で活字を追っていた。
手にした本のジャンルこそ違うものの、色違いのクッションを背に、ただただ、ページを捲る。
雨音が周囲から喧騒と陽の光りを拭い去った室内には時折漏れ聞こえるため息の様な吐息と、指が奏でる乾いた音だけ。いつだって、こんな風に穏やかな時間をアリスと二人で送れればいい、最近特にそう思う事が多いのは…。
俺も歳を取ったってことかもしれねぇな。
じっと固まったままで熱心にページを捲るアリスを眺めてふと、思った。
柔らかな髪が頬に掛かり、時折それを煩そうに指が掻き上げていく。
無意識なのであろうが、ふぅと口の端が軽く上がる時がある。
…笑っているのだ。
同意を求めて話しかけているのかとその都度反応してしまっていたたまに上がる意味の伝わらない声にも、夢中で読んでいるゆえの無意識の声なのだと知ってからは、それにもいつの間にか慣れていた。
読んでいた本にしおりをはさむと、手元の煙草に火をともす。
カチリ。
乾いた音を立てて、ゼロハリのライターが役割を終えサイトテーブルへと置かれる、その、音に。僅かな反応を示してアリスがふいに火村の顔を見つけた。
「…なんだ?気になった…か?」
こうして過ごす間、煙草を咥える事が無いわけではない。
それでも、アリスが気にしたように顔をあげた事などなかったので、少し驚いた。まさか、見つめていた事でその気配を察知したわけでもあるまい。
ん?と瞳をくるくるとさせたアリスは、違う、と言ったように被りを振ると、腕を伸ばして伸びをしている。
…単にキリが良かっただけらしい。
なんだ、というように肩をすくめて見せると、逆にじっと見つめられてなんだか尻のあたりからむずむずとする。普段、思考の海へとダイブしているアリスを見つめる事は多くても、こうしてじっと見つめられる事など、そうないからだ。
「…なぁ、火村…」
「あ?」
改まった様子のアリスに、何事かと先を促すと、少し困ったようにはにかんだアリスが小さな声で呟く言葉に、思い切り動揺したのだろうな、吸い込んだ紫煙にむせそうになった。
「火村、オレの事。…どうおもってるん?」
じいっと此方を見つめているアリスは噎せた俺に構う事無く表情を変えない。
さあ、どう答えようかと逡巡している火村は手元の煙草がじじと音を立て短くなっていく様が、まるでカウントダウンの様だと思った。
なんだ、急に。
言い放ってすっかり答えを待つ体勢のアリスは、おそらく火村が口火を切るまで動かないつもりだろう。はぐらかそうものなら、暫くはむっとしたまま、機嫌が治るのには時間がかかる。せっかくの休日に、機嫌の良くないアリスと過ごすのは、…勿体ないな、と踏んで大きく息を吸い込むと覚悟を決める…が。
「どう思っているか…、だって?アリス、急にどうした…、まさかとは思うが、思春期にありがちなロマンチストじゃあるまいし不安とやらになったのか?これでも、努力はしているつもりなんだが…」
一応、交わすスタンスだけは試みて見る。無駄だとわかっていても、どうして逃げたくなるんだろうな。案の定、そうやなくて、とアリスが言うのに、わかったよ、と苦笑して向かい合うと、すっかり短くなった煙草を消して最後の紫煙が天井へと立ち上っていくのを目で追った。
60006hitsキリリクでいただきました“素直に好きとは言えない火村・甘い系”です。…難しかったデス(汗)思い描かれていたのとは違うかもしれませんが お気に召していただけますと幸いですvv有難うございました。また、お待ちしております☆
Author by emi