笑う男

「火村〜?」

そっと、呼ぶ。

その名は、、、


あの日から、そして。
これからもずっと。




麗らかなる正午。

辺りを包みこむ暖かな陽に眠気を誘われるのは必至か。

先ほどから口元に張り付いている名は、
返ることなく、周囲を漂ったままだ。

それでも。

探し始めて、ほどなく。
私は小さな微笑みを漏らす事になる。

「あ…」


掻き分けて入る茂みの先に。


首の無い、シャツがあった。

もとい。

グレイのシャツに身を包んだ身体があった。

…ひむら?


確認をしようと近づく。


秋には足音を知らせていた落ち葉も
新緑が芽吹いた後ではそれをしない。

しっとりとした艶やかな緑が気配さえ
吸い込んでしまうのだろうか。



上下する胸。


傍に漂う、馴染みの香り。


と。


首の無い、肢体が動いた。

「…アリスか?」

長い腕が覆っていたテキストを持ち上げ、
少し眠そうな眼が私を見つめる。

「…んだ」

なにがおかしいのか、と。


その視線が言っていて。


私は更に笑った。



だって。



こんなにも近い。

  香りだけで君だと気が付けるのも。
  足音さえしないのに、私だと知っていたのも。

     隠れていた君を、見つけられるのも。



「くぁ…、」
「あはは…」

オオ口を開けて欠伸をする火村が、
腹を抱えて笑う私が、


「「 昼はカレーでも喰う? 」」


互いに掛けた言葉で笑いが止まらなくなるのも。



出逢って一年、共に過ごしてきたからなのだろうと思う。


    あの、階段教室で。



 今日という、日に。


    君に出会った。

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Author by emi