一人目の正体


「あっ……」
「うおっ!」

出会いがしらに歩いてきた影にぶつかった。
少し足早に歩いてきたらしい相手は、背はそこそこ高いのにえらく細くてぶつかった拍子に体勢を崩して豪快に倒れた。
手にしていたテキストやなんやらを派手にぶちまけたソイツに慌てて手を差し伸べて
散らばってしまった荷物を集めてやる。

「す、すまんかったな。気ぃつかんかった…」
「ええですよ。こっちこそ、すんません」

濁りの無い綺麗なアルトで返すソイツは穏やかな言い方と優しい微笑を浮かべていた。
見るからに、柔和そうな…。
ふと手にとった、提出用だろうか学籍と名前の書かれたレポートを見て違和感を覚える。

「有栖川有栖…?これって、名前?」
「…ああ、名前…やけど」

「へえ、あんたに合ってるな。いい名前だ」
「…え?ほんまに?」

何を驚いているのか分からなかったが、瞳を大きく見開いて次の瞬間。
笑ったんだ。
それはもう、艶やかに。

「そんなん、言われたの君で2人目や!」

嬉しそうに微笑むソイツの笑顔は、今でも忘れられない。
きっとソレを言った1人目を思って笑ったんだろう。
あんな綺麗に笑った有栖川は程なくして仲の良い友人となり
それから暫くしてから俺は1人目、の正体を知った。

剣呑な雰囲気すら纏う俊才は有栖川の前でなんと穏やかな笑顔をするのだろう。

「ねえ、アリスさんと火村さん。仲良しだったねぇ?」

それから、長い年月が経った今尚、二人は変わらずに微笑む。
あの日、見た艶やかな笑顔は今でも記憶の片隅に在る。

もう少し、早くに見つけていたら…。
俺は1人目、になれただろうか?

「…そうだね。あの二人はずっと仲良しなんだよ」

そうだ。
それでいいのだと、今は思える。
やがて、記憶は仕舞われ埋もれていくだろう。

「アリスさんって素敵な名前ね。とってもよく似合ってる」
「ああ。その通りだ。…今度会ったら言ってあげるといい」

果たして、ソレが何人目なのか知らない。
でも、キミは1人目と共に穏やかに艶やかに微笑むのだ。

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Author by emi