掌が感じる、掌で感じる side-h


嫌な、夢だ。
明け方に其れを見た。
全身の毛穴から厭な汗が噴出して上半身を起こして掌を確認する。
ああ、まだ。
大丈夫…。

震える、掌。

「…にゃぁ〜」

突然とあげた叫び声に驚いたのか、気になったのか。
いつの間にか、傍らにはモモが居る。
その小さな額を擦り付けるように火村の腰の辺りに蹲って。

夜明けまでは、まだ遠い。

白々とした特有の空気を纏って布団から抜け出すと
少しだけ窓を開け煙草に火を灯す。

モモは抜け殻となった布団へと潜り込んだ。

遠くに霞む南方の空は未だ暗い闇に包まれて眠ったままだ。

起きているのか、気配を窺うとその窺う気配を窺っているアリスの背中を知っている。
気がついていて、気がつかない振りをしているのだ。
もう、ずいぶんと長い事ずっと。

それでも、アリスは踏み込んでは来ない。

突き放す訳ではない、関心を持たないわけでもない。
ただ、そっと知っているだけ、触れない。
ソレが、唯の闇だと分かっているのだろうか。

ふっと吐き出した煙はひどく曖昧な形状を描いては消える。
まるで、夢のように。

確かに、そこにはあるのに、いつの間にか見えなくなっている。

白い霞を吐き出す毎に、夢を吐き出しているのかもしれない。
否、吐き出してしまいたいと願っているのだ。

アリスは何の前触れも無く、そっと掌に触れることがある。
そうして、優しく撫ぜるのだ。

その、慈しむ指先を愛してやまない。

Next

Author by emi