結局、答えだかなんだか分からない曖昧な態度を取ったままのアリスを
連れてバーを後にした。
なんでか?
なんでだろうな。一刻も早く…二人に為りたかっただけなのかもしれない。
夜風を浴びながら喧騒が支配する大阪の街並みを抜けていく。
「アリス…、歩けるか?」
「大丈夫や」
失くしていた声は戻ってきたらしい。
酒は強いアリスは滅多なことでは顔色が変わるほど呑んだりしない。しかも変わるときは決まって青ざめる。それが店を出てからも相変わらず頬を紅潮させたままで…一瞬でも視線が絡むとふいに横を向くか俯いて隠れて仕舞う。
「…そうか」
はっきりとした答えが貰えないまま、二人肩を並べて歩く。
歩く歩幅はいつも一緒だった。…どちらかと言えば歩が速い俺と
どちらかと言えばゆっくりと歩くアリス。それでも、いつだって並んで歩いた。
偶に速足で歩くと小刻みに歩を急いで付いてくるアリスの姿を見るのも好きだったが、こうやって並んで同じ景色を見て同じタイミングで歩くのが何より…気に入っている。視線すら…共有していたい。
子供じみた…独占慾にも通じる想いにいつだって苦笑していたものだ。
黙ったまま、歩く。
いつもなら苦にならない会話が途切れた間も…今日ばかりは気が気でない。
「なぁ…、火村」
「な、なんだ?」
ふいに掛けられた声に…思ったよりも上ずった声が出て自分でも酷く驚いた。
「…君が、いつだってオレとおんなじ速さで歩いてくれてるの…嬉しかってん」
「…っ!アリス」
ふわふわと歩く足元は覚束ない、声すら…浮いている様に耳に届くのは、きっと
俺の心が浮ついて居て覚束ないからなんだろう。
「たま〜に、触れる指先も…ずっと、ずっと…気になってたんや」
「…気になってたって…なに、を?」
アリスはずっと強い。過去に囚われたまま悪夢からすら抜け出せない俺なんかよりずっと、強くて…儚い。
気になっていたという俺の指先を見つめる代わりに…持ち上げた拡げた自分の指を見つめて…ゆっくりと握っていく。
細い手首は…握りしめて力を込めたらきっと折れてしまうんだろう。
「その、キミの…指。いつも冷たい…けどな、あったかい時もあるんやろうかって」
学生の頃、握ったペンを紙の上で熱心に走らせていた指先は…今では軽やかにキーを叩いて物語を紡いでいる。家事を滅多にしない、もっぱらキーを叩くだけにある様な指先は荒れることなく白くしなやかに美しいままだ。
むしろ、学生の頃よりも華奢になっている様にさえ…見える。
その指は…果たして、どんな体温を伝えてくれるんだろうか。
「声、も。…偶に掠れた様に聴こえる君の声が…知らない人みたいで…」
知っているのに…知らないみたいや。
呟いた声は…微かにアリスの想いを乗せて耳へ届く。
聴いた事の無い、セクシャルな艶を乗せた声。
ああ、まったくだ。
こうもずっと傍に居たけれど…お互いに未だ未だ、だったんだな。
『知らない事が多い』
20年目になんとなく20のお題より
Author by emi