ふっと指先を動かして違和感を感じる。
腕枕をしている方の腕だ。
そりゃ、あれだ。腕枕してるから痺れてるんだろう、ってことじゃねぇ。
痺れてないってこと。
ためしに掌を握っては開いて、をしてみてもちゃんと感覚はある。
おかしくねぇ?
腕枕ってヤツはどんな軽い頭が乗っていてもあっという間に痺れてくるんだぜ?
これ、うちの猫で証明済。
痺れない、というのであれば。
乗っている頭が体重をかけていないからってことになる。
つまり、眠っていないってことだ。そうだろう?
少しクリアになってきた思考で再度白い背中を窺い見た。
規則正しい上下を繰り返すそれは、心なしか緊張しているようにも見える。
コイツ、起きてやがる・・・。
意図は良く分からなかったが、その余裕のある感じがやけに苛苛としてなんか変な気分だ。
あ?なんで、苛?
ほら、きっとあれだ。
全力でお相手したのに、眠らずに居られる余力が残っているってことに、苛。
きっと、そう。
と、掌がやけにすかすかする、ってことに気がついた。
腕枕、とは違うもう片方の腕。
肘は腰を廻って腹あたりについてる。それは分かる。
じゃ、掌は?
おそらく、胸のあたりに差し掛かっているはずなのに、なんだ。
すかすか・・・、おお、胸がねぇんだ。
極端に、ねぇ。
横向きとはいえ、盛大に貧乳だな、コイツ。
少しくらい、手にかかってもよさそう・・・・、よさ・・・・、え?
ってか、あれ?
さわさわと指を動かすと、息を呑むように腕の中の躰が身じろぎをした。
そりゃ、もう、小さく。
へぇ、いい根性じゃねぇの。
俺の動きに声、殺すなんてなぁ?
その声。聞かせてもらおうか。
するり、と指が掠めた突起を擦ると、今度こそ声が漏れる。
「んっ・・・・」
低め、アルト。
・・・なんだ?なんか、ぼやっと思い出してきたような・・・。
きゅ、と摘み上げていた。
無意識に。
たぶん、声が、聞きたかったんだと思う。
「やっ・・・・、ぁ・・・・」
反らされる、白い、躰。
涙で濡れた、いつもとは違う、顔。
いくら弄ってみても、一向に見つからない、胸の膨らみ。
見覚えのある、天井。
ああ、そうだ。
声を、聴かせろよ・・・・。
「アリス・・・・」
そうだ。
そうだったんだ。
簡単な答えを見誤るところだったんだな。
俺は。
「アリス・・・・!」
抱きしめた細い躰は、紛れも無く知った匂いがする。
コレは、俺の煙草の匂いだ。
香りが移るからと言って嫌がるくせに、飲み始めるといつも貰い煙草をする、アリスの匂い。
「・・・いやや」
小さく呟く声は、間違えようも無い。
ずっと、隣で聴いてきた声だから。
「アリス、お願いだ・・・、こっち、むいて?」
ぴくりと動く肩に優しく口付けをする。
なんでだ?
そんなこと、どうだっていい。
アリスの顔を、見たい。
それだけだ。
「いやぁ・・・・、ひむ、ら・・・」
ああ、そんなにか細い声で俺を呼ぶなよ。
誤解、しちまうだろうが。
きっとしたたかに酔った俺が、イヤだって言うアリスを押し倒したに違いない。
その、いや、なんだろう?
聞いたことねぇもんなぁ?
いくら酔っていたからって、男友達を押し倒すヤツなんて。
細腕のアリスじゃ、俺にはかなわねぇしな?
「・・・すまん、アリス」
「いや、や・・・!」
「俺を許せとは言えねぇよな、悪かった」
その、細い肩は細かく震える。
ああ、頼むからどうか。・・・泣くなよ、アリス。
「アリス・・・、ごめん」
「っ・・・!いややって!そんなん、謝られたらオレ、オレ・・・」
必死に涙を堪えているアリスは、それでも全身で泣いている。
そっと腕を解いてアリスの涙を拭おうと身体を動かすと、素早く動いたアリスの腕によって阻止された。
腕を絡ませるようにして、俺を離さない。
「・・・アリス?」
一体なんのつもりか、わからねぇよ。
無理やり組み敷いた俺が触れているのが、嫌なんだろう?
・・・ああ。そうか。混乱して手近にあった俺の腕に思わずしがみ付いたってとこか。
くそっ。
「・・・謝って、そんで?どないすんねん。オレと友達、止めるって言うんか?」
「アリス・・・、何、言って・・・・」
「そうや、そうやろ。訳分からん事、言っとるよ。オレかてわかってる!でも、でもなぁ・・・。
ずっと、ずっと、好きやったんや!キミと、こうしてみたいって思ってた!」
なんだ、何?
何、言ってんだ、お前。
「だからっ!後悔なんてしてないんや!わかったら、謝るな!・・とっとと出てけ!」
言いたいことだけ、言う癖。こっちの意見なんて求めない、自己完結する癖。
ああ、アリスだな。
なんて、冷静に思ってる場合じゃないらしい。
言い放つとアリスは俺の腕を解放してさっさと小さく丸まってしまった。
少し、離れたその距離が恨めしい。
ふう、と大きくため息をひとつ、吐く。
丸まった背中が、小さく、小さく動くのを俺は見逃してやらない。
見逃してなんか、やらねぇ。
足掛け、10年。
長いこと、一方通行だった路は漸く拓けたらしいからな。
記憶が曖昧なのが、なにより悔しいところだが、まあ、いいさ。
だって、なぁ?
「わかったよ、アリス。・・・其処まで言うなら、友達は止める」
ふるふると震える背中をそっと包み込んで、一気に反転させた。
見えた顔になぜかすごく安心した。
ああ、アリス。
その噛み締めて紅い口唇に、初めての、キスをしよう。
「・・・恋人って事で、いいかな?」
Author by emi