猫と腕枕の秘密

したたかに酔っていたのは認めよう。
確かに、暫く無いような深酒だったのも認めよう。


それにしたって、ってヤツ?
二十歳やそこらの餓鬼じゃあるめぇし、なんてザマだ。



思わずべらんぼうめ調になっちまうのも、仕方ないってもんだろう。
まさか、30を過ぎてから記憶が無い朝を迎えるとは思わなかった。



多分に漏れず、隣には温もり。

おそらく裸と思われる、誰かわからねぇ、ヤツ。
ご丁寧に腕枕ときた。俺としたことが。


驚いたさ。
驚くだろ、普通。



この歳にもなって、深酒した挙句
知らねぇ間に誰ともわからねぇ相手と仲良く寝てたんだぞ?


さっき、少し身じろぎして分かった。

腰の辺りに独特のだるさと躰を覆うような倦怠感。この感覚には覚えがある。
久しぶりになるが、まさしく事後の朝ってとこだろう。



つまり、ヤッてる。・・・絶対。



しかも、恐ろしいことに、多分、1回じゃねぇような気がする。
それか、なんだ。歳だ、きっと。


久しぶりの行為に躰がついていかなかったんだな、たぶん。



・・・それはそれで、情けねぇ感じがして嫌だな。
ってことは、やっぱり2回以上、致してるってことだろ。



俺、三十路。


そんなこたぁ、わかってるんだよ!




じゃ、あれだ。
あ?なんだ?



おう、落ち着け、ひとまずほら、深呼吸だ。


とにかく、俺には記憶がねぇ。

で、隣には・・・正確には腕の中には・・・誰かわからねぇ、裸のヤツが寝てる。


相手、だな。


とりあえず、相手がわからねぇうちには対処のしようが無いからな。
昨日の夜だ、そう、思い出してきたじゃねぇか、ってか飲む前の話だ。


忘れてたまるか。





追っていた事件が漸く片付いて、研究の方もひと段落して、


まあ、兎に角久しぶりの酒だったんだ。・・・疲れてたか?そうかもしれん。

いつもの店だ、飲んでいたのは。

大阪、心斎橋、Rって店。

そうそう。ここのアンチョビとチーズのピザが好きなんだよ、

・・・アリスが。


まあ、雰囲気は申し分ないし、料理も酒もうまい。
おまけに店員もほどよい距離感で、まあ寛げる店だ。

寛げる、・・・それがいけなかったか?




いや、そこの店からたぶん、移動した気がしてきた。
うわ、なんだ、その曖昧な記憶は。


どうも、そのあたりからやばかったらしい、俺。
いつになく上機嫌で河岸変えをしたんだろう、そこもぼんやり覚えてる。



そうだ。

そもそも、アリスはどうした?


ヤツも、確かハイピッチで飲んでいたと思う。

少なくとも俺よりは酒に強いアリスのことだ。

あのペースで飲んでいたからといってつぶれるってことはまず有り得ない。
ん?・・・たしか、締め切り明けだと言ってたか?
それじゃ、わかんねぇなぁ。



もしかしたら、次の店でつぶれてたかも。


それで、だ。

そのあたりから記憶はさっぱりねぇ。




アリスがつぶれて、なんだ。

どっかの浮かれた女にでも連れ込まれたか、俺は。


おかしいな、記憶を無くすくらいに酔っていたとしたら役に立つとは思えねぇんだが。

よくもまあ、達けたもんだ。

なあ?



俺もまだまだ、枯れちゃいねぇらしい。





って、そこじゃねぇし!


そうだ、相手ね。


生憎と隣に寝てはいても、背を向けた状態なので顔までは見えない。


見るに耐えないのは選んでないはず、いくらなんでもなぁ。
自分で言うのもあれだが、俺の審美眼は確かだと思うぞ。



少なくとも、見えている背中は白く綺麗だ。
よかった、そんなに酷くはないらしい。


短めの髪は柔らかそうで射した光が綺麗な輪を作っている。
艶めいているっていうのか?よくわからねぇが、・・・まぁ、綺麗だ。
そこから細い項が覗いていて薄い肩へとなだらかな曲線を描いている。
ふむ。随分と華奢なようだ。


後ろから見る肩なぞ、骨が浮き出てすらいる。




これ、力をこめて掴んだら折れるんじゃねぇの?
その割りにどうも肩幅は広めのようで、余計に頭が小さく見える。



そこへきて、漸く手は2本あるのだという当たり前のことを思い出した。
いや、それ、ヤバイ。

思いっきり動揺しているらしいぞ、おお、腕はどこだ?




片方は腕枕をしているから、相手の頭の下。

じゃ、もう片方は・・・。
意識を指先まで廻らせると、ああ、あった。
しっかりと相手の腰の辺りに回されて抱きつくような格好でいるらしい。
細せぇ、腰。軽く腕、廻ってるよ。廻るどころか余って更に上に掌が伸びている。


・・・どんな、密着だ、俺。


学生時代、かなりの数をこなしてはきたが、ここまでのサービスをしていた覚えはねぇな。

ってことは、あれだ。


初、だ。


初々しいことこの上ねぇな。いや、それ、意味わかんねぇし。


どうも、酔っていた俺はこの相手が思いの他、お気に入りだったらしい。

それだけは分かった。




問題は・・・。誰だ、コイツってトコロ。

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Author by emi