続 ゼネバ機構

 先月にゼネバ機構が学生の設計課題に適当と書いたが、メーカーからは舐めんなよと言われそうで、再び筆を執った。
 ゼネバ機構の部分は一部をスキマで逃げる部分もあるが、数学的に裏付けが可能で、明確に仕様を決定することが出来て教材として優れているだろう。しかし、それを駆動する機構の設計は簡単そうだが、プロとは明確に差が付くかも知れない。先に紹介したサイトでは軸受に円錐ころ軸受の使用を推奨している。
 こんな記述が無ければ、減速機などの教育用設計モデルに見られるように、華奢な単玉(単列深溝玉軸受)を使って済ましてしまうかもしれない。

 私はゼネバ機構を使った機械、インデックステーブルを設計した事はないが、これまでの経験から円錐ころ軸受を推奨する理由がわかるし、一方でそこまで言うかという思いもある。
 円錐ころ軸受はアキシャルとラジアル両方の負荷を受けられる上に、巨大な負荷容量があるから、選定しやすいだろう。しかし、その起動・回転トルクの大きさは無視できるレベルではない。他に選択の余地が無いほどの巨大な荷重が掛かるならば、円錐ころ軸受を選択すればよいが、その前にアンギュラ玉軸受という選択肢を除外するわけにはいかないだろう。アンギュラ玉軸受は単玉ほど組立に制約がないから、玉数が多くて負荷容量も大きい。

 ゼネバ機構は起動停止を繰返すわけだから、駆動の反力として生ずる軸受負荷の変動は大きい。軸受選定の際には最大級の荷重係数を採用したいところだ。一方で軸受内部にスキマがあると転動体と軌道面が叩き合って寿命低下の原因になるから、内部スキマは殺しておきたい。
 アンギュラ玉軸受は組合せで使用するのが原則だ。駆動軸ではアキシャル荷重が作用するわけではないから負荷側は接触角15°の背面(DB)組合せ品を使えばよい。一方、従動側は更にアキシャル荷重が加わるから、等価荷重を計算の上、接触角30〜40°の並列(DT)組合せ品を使用すればよい。そして内部スキマを殺す為に、DB品は軽い予圧品を使用するとよいだろう。(アンギュラ玉軸受の組合せ品は、予圧設定の為に端面の差幅研削をしている。)
反負荷側の軸受は選択の幅が広がるが、負荷側と同じものを使用したらよい。DT品は反負荷側外輪にばねで予圧を掛ければよい。反負荷側は、軸の熱膨張を逃げる為に外輪とハウジングをスキマ嵌めにしておく必要がある。
 一方、円錐ころ軸受は予圧を掛けると極端に重くなるから、大抵スキマには目をつぶって圧倒的な負荷能力で乗り切るのだろう。

 軸受容量を選定するには基本動定格荷重が目安になる。その荷重で、33.3rpmで回転させると90%の確率で100万回の寿命に達するという荷重だ。時間に直すと500時間にしかならない。なぜ90%なのか知らないが、せめて3σの99.7%のデータが欲しいところだ。99%信頼度係数として0.21が示されている。
 例えば60rpmで回転する時、速度係数0.822と信頼度係数0.21の逆数の積は5.8となる。私はその他諸々の係数を見込んで、軸受を選定する時は基本動定格荷重の10倍を目処としている。特に条件が厳しい時は計算し直すが、それがだいたいの目安だ。

 但し、軸径は軸受サイズの影響を受けるが、それだけではない。ゼネバ機構が取付けやすい事が大前提だし、駆動軸と従動軸が互いに干渉せずに収まる必要もある。
最も基本的な曲げやねじり応力、さらにたわみは計算しても、上述の要素が優先されて参考値にしかならないだろう。もちろん材質は鋼材が前提の話だ。応力が低いからSS材や低炭素鋼を選びたくなるだろうが、機械加工性を考慮すれば中炭素鋼が良い。強度設計でも剛性設計でもない設計が存在する。機能優先設計とでもいうのだろうか。

 カムフォロアはゼネバ機構には重要なエレメントだが、どうやって選定するのだろうか。回転数を厳密に計算しても意味がないように思う。ならば1回の割出しを1回の負荷として計算すればいいだろう。そして断続運転を繰返すわけだから、荷重係数は最大級だろう。
 まずは保持器付きか総コロ型かを選択する必要がある。保持器付きで負荷容量が適合すれば良いが、さほど高速にはならないので総コロ型でも支障無いだろう。 次にトラック負荷容量の確認が必要だ。フォーク部の材質と熱処理を決めてトラック面硬さを設定する必要がある。HRC40を境に球面外輪と円筒外輪の性能が入れ替っているが、このエリアを境にトラック面の熱処理も加工工具も変わる事を認識するべきだろう。選択だが、球面外輪を使うに越した事はないが、軸の作りがシッカリ(高剛性)していれば円筒外輪も容認されるだろう。

 次に駆動源の設定だ。ブレーキと減速機付きの小型インダクションモータは数多ある。ブレーキは保持する必要はないから、物によっては直流制動を採用してもいいだろう。多分種類が多すぎて選定しきれないだろうから、1つのベンダーに絞って課題を設定したほうが良さそうだ。
 モータの出力軸にはモータ本体と平行型や直交型がある。これはどちらを採用しても良いだろう。最近は直交型でもウォームギヤではなく、効率が良いハイポイドギヤも増えた。モータ軸と駆動軸の接続には、ミスアライメントを逃げる為にフレキシブルカップリングを使用する必要がある。
中空軸型の出力軸を持つものは従動軸を直接挿入できるからコンパクトになる。この場合、モータをリジッドに固定すると、ミスアライメントでスムースに回転しないだろう。モータは浮かして、回転方向にだけ剛性が高いトルクアーム構造にすればよい。取扱説明書要熟読だ。
 他にモータを停止させる為に、割出し完了の位置を検出するセンサも取付ける必要がある。些細な事だがこれも機械設計の所掌範囲だ。

 最後はハウジングだ。本物のトップダウン設計だったら、ここから決めていくのだろうが、教育で決められた空間に機構を入れる事に苦労させるのはつまらない。ハウジングサイズは出来なりで、ゼネバ機構の軸、そしてモータをどのように固定するかを学べば十分だろう。
 実は重要な事が抜けている。潤滑だ。軸受やカムフォロアはグリースを封入すれば問題ない。転がり接触するカムフォロアのトラック面も同様だろう。しかし、古典的な外側駆動式のゼネバ機構では凹凸の円弧ガイド部分は滑り接触となるので、潤滑の配慮が必要だ。材質を無給油材又は含油材にするか、ベッタリとグリースを塗って済ませるか、オイルバスに浸漬するか、等の選択肢があってハウジングの構造にも影響を及ぼす。しかしこれは保留にしておいた方が良いのかなと思う。 (2013/4/1)


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