ゼネバ機構
U-TUBEでゼネバ機構の映像を見つけた。回転する2つの部品の映像を別々に作り、合成したという。映像技術の事はよく知らないが、この動きなら手元の機構解析ソフトで簡単に出来ると思って私もトライしてみた。
ゼネバ機構の事だが、元々は時計の機構として発明されたという。ゼネバストップともいって、従動側のフォークが1つ欠けた構造だったようだ。ゼンマイを巻過ぎないように、ある回転数巻いたらそれ以上は巻けなくする仕掛けだ。
今は使われていないというが、当時のゼンマイはどれくらい巻けたのだろうか。余談だが、現代人にもゼネバストップがあればと思う。巻きすぎて切れないように…。
ゼネバの名前も英語でGENEVAという通りで、時計産業が盛んな発明の地ジュネーブから来ている。
ゼネバ機構を初めて見たのは40年前で、当時としては最新鋭の数値制御タレット旋盤に搭載された、タレット(刃物台)の回転機構でだった。当時は6角や8角が主流で縦型だったが、ゼネバ機構らしく息継ぎしながら回転しているのを、もどかしく思って見ていた記憶がある。
ゼネバ機構を設計するに当って文献を調べたが意外に少ない。機構学の本には名前と絵が載っている程度で詳しいものは見つけられなかった。論文が2つ見つかり、1つはオープンアクセスで直ぐに読めたが、他は本学の図書館にもある事になっているが、月刊誌が年毎に製本された書籍からは必要な月のものは抜け落ちていて読めなかった。より正確な情報提供が必要だろう。
同時にゼネバ機構ユニットを製造しているサイトから2D_CADデータをダウンロードできたのでそちらも参考にした。
2D_CADデータを3D化して機構解析してみると、干渉箇所が顕われた。現物は幾らかのスキマがあって支障なく作動するのだろうが。実際、割出した後に他の機構で最終位置決めする事もあるし、すべり接触もあるからスキマはある程度は必要なのかも知れない。
今回は解析用だから干渉やスキマのない設計にした。解析によれば、4分割では駆動側の円弧のガイド部分に90°切欠きがないと、フォーク部の食込みだけでなく、凹凸の円弧ガイド間で干渉を起こすようだ。この円弧部分の干渉について理論式の導出が必要だろう。しかし、CADデータは90°よりもかなり小さな切欠き77°となっている。先の論文でも同様だった。一方でカムフォロアも90°キッチリと駆動するわけでもなさそうだ。ゼネバ機構はスキマとガイド長さが設計の肝のようだ。
そしてこのソフトは解析中の動きを映像にする事が可能なのだ。
ゼネバ機構にはよく知られた外側駆動方式のほかに、内側駆動式もある。どちらも割出し機構に使われているが、内側駆動式の方はコンパクトな構造になるようだ。
解析した結果を比較してみた。一見、外側駆動式の方が運動性能が良さそうに見えるが、縦軸も横軸もスケールが異なる。このデータは1回転/秒で駆動したものだから、割出し動作は、外側駆動式は0.25秒なのに対して内側駆動式は0.75秒だ。そして左右のデータは繋げる事ができる。
カムフォロアが斜め45°の位置を原点として、内側駆動式が外側に向かって270°回転するのに対して、外側駆動式は内側に向かって90°回転するモデルと同じだからだ。メカ的にはスライダ揺動機構というところだろう。この動きは、ある遊園地に沢山ある人形の動作で見た事がある。
外側駆動式と内側駆動式では軸間距離が異なるが、算出するのは角度データつまり角度、角速度、角加速度なので影響はない。理論式は共通に使える。先の論文に記載のものを使用してグラフ化してみた。縦線が入る0.75秒の位置が境目で、左側が内側駆動式右側が外側駆動式に相当する。さてこれはどっちの方が運動性能が良いのだろうか。
私は部品同士の接触にすべり接触があって、小さな干渉をスキマで逃げている外側駆動式には高い運動性能は期待できないと思う。スキマで小細工がなく、全てカムフォロア使用で転がり接触化して、高速化が可能な内側駆動式が理に適っている。
但し、改善された外側駆動式には円弧ガイド部の片側にカムフォロアを配置した実開H06-40507やこんな機構もあるようだ。 (2013/3/1)
2013/3/9追記
引き続き動力関係の考察をした。残念ながら手持ちの機構解析ソフトは、ゼネバ機構はキネマティック解析のみでダイナミック解析はできないようなので、手計算にて検討した。
トルク(Nm)=イナーシャ(Nms^2)×角加速度(rad/s^2)という式がある。従動軸側の負荷イナーシャは一定として、角加速度は計算済みだから従動側の必要トルクは容易に算出できる。しかし、駆動軸と従動軸のトルク伝達比率はカムフォロアとフォークの位置関係により大きく変動する。
トルクの伝達比率は幾何学的に求める事ができる。計算して気が付いた事だが、カムフォロアがフォークに入り始める位置、つまりフォーク溝の中心と駆動側接線が一致する位置では伝達トルクがゼロになる。先に「カムフォロアが90°キッチリと駆動するわけではない」と書いたがそれが原因だろう。従動側の必要トルクを伝達比率で割ると駆動側の必要トルクが算出されるが、伝達比率がゼロならば駆動側は無限大となってしまう。そこで、どこまでのスキマが容認されるかという事になる。
ここでスキマとはフォーク溝とカムフォロアのスキマを指す。例えばこのスキマが0.02mmあって、駆動側の半径が70mmとすれば、ACOS(69.98/70)=1.37°、つまり1.37°の猶予がある事になる。よってカムフォロアがフォークに入る位置から1°進んだ位置での角加速度と伝達トルク比率を使用して計算すればよい。今回は1°と仮定したが、物の大きさやスキマによってはもっと大きな猶予が得られるだろう。
4分割ゼネバで外側駆動式と内側駆動式両方の計算結果を示す。45°から315°が内側駆動式で残り90°が外側駆動式のデータだ。左スケールで内側駆動式の場合、トルク伝達比率はゼロから2.418倍まで変化するが、46°では0.018倍だ。一方、外側駆動式でのトルク伝達比率はゼロから0.414倍まで変化し、316°では0.017倍だ。摩擦要因は別にして、これがゼネバ機構の伝達効率として動力を選定すればいいだろう。
右スケールには参考までに角加速度をトルク伝達比率で割った値、駆動トルク係数が示されている。但し、角度は内側駆動式が46から313°で外側駆動式が316から403°の範囲だ。これにイナーシャを掛ければ駆動側で必要なトルクが得られる。
ふと思いついて、ボケ防止のようなつもりでやってみた。ゼネバ機構自体は決して新しいものではないが、前編(2013/3/1)の最後に紹介したものは新型として発売されている。ゼネバ機構の課題を見事に克服して、これぞ温故知新と思った。
又、学生が設計を学ぶ課題としても適当なレベルかなと思う。何年も同じ課題を使い回して、更新をお考えの教員には検討の価値有りかと思う。
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