コンロッド

 エンジン部品のコンロッドは日本語では連接棒、英語ではConnecting_rodといい、機械屋には見慣れた存在だ。ふと思った。どうして両端の穴径が異なるのかと言う事だ。
 ニュートン第3法則(作用反作用の法則)通り、引張と圧縮の力は両方に等しく作用するはずだ。私はこの機械は門外漢で、調べてみるが径が異なる前提の話しか出てこない。

 各々の穴に嵌まるピストンピンやクランクピンは作用する力が同じだ。材質は同じとしてピンを支持する間隔、スパンの違いを考慮する必要はある。クランクシャフト側にはクランクアームがあるからクランクシャフトのスパンは2倍以上になるだろう。両端支持梁では曲げ応力を一定とするとスパンの変化は軸径の3乗で利いてくる。 スパンが2倍で軸径は1.26倍、4倍ならば1.59倍だ。実際には形状係数の値も考慮が必要だが、これだけではさほど大きくならない。

 コンロッドと各々のピンの間にメタルと呼ばれる、すべり軸受が存在する。
機械の可動部分には磨滅防止や摩擦低減の為に潤滑剤が必要だが、機構部品自体のダメージを避けるために軸受部品を介するものだ。間に挟むものは何でもよいわけではなく、エンジンの場合アルミや銅系の合金が多く使用される。
 すべり軸受の性能を表すのにPV値という数値が用いられる。P値は軸受単位面積当りに掛かる荷重で、軸受面積は曲面ではなく軸径×軸受幅で計算する。V値は摺動速度だ。P値とV値は反比例の関係だ。

 そこでエンジンのスライダクランク機構だが、ピストンピンには過酷な曲げ荷重が作用するだろう。しかし、動きはわずかな角度の揺動運動があるだけで摺動速度は低い。一方クランクシャフトにも同じ曲げ荷重が作用するが、1往復で1回転するのだから同じ直径だとしても摺動速度は数倍高くなる。軸径が大きければ、V値も上がるが、代わりにP値が減るので良い傾向だ。
 しかし、PV値を確保する為に、負荷条件によってはクランクピン強度以上の軸受面積のすべり軸受を使用する必要が生じるケースもあるだろう。摺動速度を上げないようにメタル幅を広げると、スパンが伸びて軸径が広がるというジレンマがある。一方コンロッドやクランクシャフトはエンジンの性能に直接影響を及ぼすから極力軽くしたいのは言うまでもない。
 そこで、消耗部品という考え方が出てくる。クランクシャフトやコンロッドは、簡単に交換するわけにはいかない。しかし、メタルならば一定使用条件毎に交換する事はユーザーの理解を得られるだろう。
 メタルにDLCを使用する研究報告を読んだ。摩擦半減だけでなく軸受面積縮小でクランクシャフトの重量削減を目論んでいる。実用化が楽しみだ。

 軸強度や危険速度よりも軸受性能が軸径の決定要因になる事は、機械設計ではよくあることだ。基本的な計算を省略して経験則で何の何割とかいって、適当に決めていると本質が見えなくなるだろう。

 以前T大学の設計授業で、スターリングエンジンを設計製作する話を紹介した。ここにもスライダクランク機構がある。実際に動かすわけだから、無負荷・低速度だとしてもメタルが省略されることはないだろう。
 メタルの存在すら考慮せずにエンジンを設計出来たらどれだけ楽ちんかと推察する。  (2014/6/25)

2014/7/7追記
 コンロッドの構造解析というと、座屈解析が定番だ。座屈の末端条件はPIN-PINだから、ビッグエンドとスモールエンドに掛かる荷重を対向させて各々にベアリング荷重を設定する。と書くと習っていないと思われるかもしれない。座屈解析をする時には事前に静解析を行うが、その静解析は拘束と荷重を組合わせるのがお決まりだからだ。
 ならば、宙に浮いた風船を解析する時はどうするだろう。荷重のバランスが取れている時は拘束を行わずに慣性リリーフという機能で静解析を行う事が出来る。コンロッドで拘束を使用した時との違いを、試したことはないが少し違った風景が拝めるかもしれない。


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