護衛艦ゆうぎりカレー
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さて今回は『護衛艦ゆうぎりカレー』です。DD153護衛艦ゆうぎりは、1989年に就役したあさぎり
型護衛艦の3番艦。既に艦齢30年近いベテラン艦ですが、あさぎり型全8隻ぶんの艦齢延伸措置の予算が計
上され、海上防衛の第一線における戦力としてまだまだ期待されているフネであります。
ちなみにこの護衛艦ゆうぎり、私にとっては初めて体験航海で乗せてもらったという実に思い出深い艦でも
ありまして、15年前の高揚感がまるで昨日の事の様に思い出されます。あれからもう15年か・・・私もい
いオッサンになってしまう訳です(笑)。
そんな事はどうでもいいとして、まずはパッケージから見て行きましょう。特徴的な2本マスト、背の高い
後部格納庫、左右のウイング後方に配置されたファランクス・・・あさぎり型らしさがとても映えるアングル
ですね。
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箱裏面には金曜カレーの説明文、あと護衛艦ゆうぎりからレシピの提供を受けたメルキュールホテル横須賀
の紹介と、そこで提供されているゆうぎりカレーの画像が掲載されていますが、美味しそうなカレー画像の上
には堂々と『隠し味のコーヒーが際立つスパイシーカレー』との一文が。
一口分のカレーを口の中で転がしてイメージを膨らませ、味を分析しつつ妄想を大爆発させながら味わうの
が私の海自レトルトカレー道の醍醐味なのに、肝心の隠し味をこうも堂々とばらされてしまうとは(笑)。こ
ういう事がないように、試食前はなるべく箱裏の情報を見ない様にしているのですが、今回はつい目に入って
しまいました・・・っていうか、そもそも隠し味が際立っちゃダメだろ(笑)。
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いきなりトホホな気分ですが、とりあえず試食に移りましょう。おおお、濃厚そうなダークブラウンの色合
いも猛々しい、なかなか美味しそうなカレーですよ。拍子切りのジャガイモとニンジン、あと小さい消しゴム
大の牛肉も入って見た目は賑やか。
一口食べてみると、ほほう、なるほど。甘辛のバランスがとれた、実に伝統的なカレーです。コーヒーらし
いしっかりとしたコクと微かな苦みが、全体を引き締めながら味わいの分厚さを演出していて、いかにもベテ
ラン艦らしい落ち着いた佇まい。ジャワカレーの中辛にコーヒーのコクをプラスした感じで、食べ進むうちに
ジワジワとホットな辛さも効いてきます。
決して重々しくないどっしりした旨味がこのカレーのキモと言えますが、その中にあってほんの僅かに漂っ
ている爽やかな甘味・・・なるほど、この軽やかな甘味こそがゆうぎりカレーの本質なのでしょう。隠し味に
しては表に出過ぎているコーヒーアピールは、むしろこの甘味を隠すための陽動だったのか。危ない危ない、
もう少しで引っかかるところでした(笑)。
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改めて一口分のカレーを口に含み、舌の上に感じられる甘味、鼻に抜けていくスパイスの香りに神経を集中
します。スパイシーな中にも、どこか和風の個性が感じられるこの甘味・・・もしかして、しっかり煮込んで
とけてしまったかぼちゃが正体かな?
という訳で箱裏の原材料表示を確認しますが、かぼちゃのかの字も無し。また勘違いか(笑)。ちなみに使
用されいている原材料はごくありふれたものばかりで、珍奇な材料はありません。その中にあってはちみつが
甘味の演出に一役買っている様ですが、そうか、この甘味の正体ははちみつだったのか。見抜けなかったなあ。
とは言え、どこにでもある普通の材料ばかりでスタンダードの味を極めたところが、いかにも老練艦らしい
味わいでしょう。教科書的スタンダードというか、意地悪な言い方をすれば個性の主張に乏しい味わいではあ
りますが、歴代給養員達が様々な工夫を凝らし、就役以来30年の研鑽の果てに辿りついたこの境地。あらゆ
る工夫を惜しみなく積み重ね、そこからすべての無駄を削ぎ落して完成したのがこの味なのでしょう。
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そんな進化の最終形態の如きカレーを味わっていると、つい思い出してしまうのが15年前の護衛艦ゆうぎ
り艦上で体験したある出来事です。
和歌山県新宮沖を航行していた護衛艦ゆうぎり。艦橋にいた私が突然背後で響いた大声に驚いて振り返ると、
一人の海士が副長に怒鳴りつけられていました。
凍り付いた表情で立ち竦む若い海士、そして副長が去ったあとすぐに海士のフォローに入るベテラン海曹。
ああ、なにか気を抜いてヘマをして怒られたんだな。それにしても一般見学者が沢山いる中で、あんな勢いで
怒鳴るとは。やっぱり幹部って怒らせると滅茶苦茶怖いな・・・と思った事をよく覚えています。
しかしあれから15年。世の中は大きく変わり、私の考え方や物事の受け取り方も変わりました。誰か一人
の些細なミスで全員が危険にさらされるのが船乗りという仕事です。その場にお客さんが居ようが居まいが、
気を抜いた部下を躊躇なく怒鳴りつけるためには、他人よりもむしろ自分に厳しくあらねばならないのは言う
までもありません。
また雷を落とされた部下に対するフォローも、当然その人間性を見極めて行うべきでしょう。仕事も私生活
も絶好調の中、傲りや気の緩みから起きたミスと、仕事に対する意欲の喪失や後ろ向きな姿勢から起きたミス
では、当然フォローの入り方も異なります。そしてその場で正解を与えるフォローがベストなのか、それとも
時間がかかってでも自分で正解に気づかせるフォローがベストなのかも、その人その場によって違うでしょう。
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ミスした自分を人前で躊躇なく怒鳴りつける為に、あの副長は普段からどれだけ自分と仕事に厳しくあろう
としていたか。的確なフォローを行う為に、海曹は普段からいかに自分の事を気にかけていてくれたか・・・
そんな事は、若い海士に理解できるはずもありません。10年15年と現場のキャリアを踏んで、自分が叱る
側、フォローする側に立って初めて分かる事なのですから。
あれから15年、今頃あの海士君は若手を怒鳴りつけたりフォローする立場にいるんだろうか。あの時は理
解できなかった色々な事を、何度も何度も心の中で噛み締めながら・・・。
人の育て方の基礎中の基礎。カレーのあるべき姿の基礎中の基礎。そしてその後15年にわたって自衛隊イ
ベントを見て歩いてきた私の基礎中の基礎が、あの護衛艦ゆうぎり艦上の出来事であったと、今更ながらつく
づく思いました。
いつになく真面目な話になってしまった今回の試食レポですが、こんなことをくどくどと書き連ねてしまっ
たのは、結局私も15年ぶんおっさんになってしまったという事なんだろうなあ・・・。なんだか微妙な気分
で美味しく食べ終えてしまった、海自カレーの基礎中の基礎というべき『護衛艦ゆうぎりカレー』でありまし
た。
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