ウッドアイランド よこすか海軍カレー
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さて今回は『ウッドアイランド よこすか海軍カレー』です。このウッドアイランドとは、カレーの街宣言で全国
的に有名な横須賀市内にあるレストランで、海軍カレー人気店コンテストで栄えある一位に輝いたという知る
人ぞ知る名店であります。その店名を冠したレトルトカレーが商品化されている事からも、実力のほどが伺い
知れますね。
実はこの『ウッドアイランド よこすか海軍カレー』、かれこれ3年ほど前に一度試食を済ませていました。し
かし当時は私の舌が未熟だったのか、美味しい事は美味しいんだけど特にこれといった味の表現のとっかか
りが見つからず、きちんとしたレポが書けないまま長年放置していたのでした。
美味しかった事は間違いないのですが、なんなんだこのカレー。食べていても脳内に何のイメージも湧いて
来ず、言葉に換えて紡ぎだす事が出来ないせいで、うん・・・美味しかったよ・・・という非常に間の抜けた感想
しか思い浮かばなかったんですよね。
言ってしまえば私の表現力の貧弱さ、イメージの貧困さが原因でしたが、しかしこれはS.A.S的には完全な
る敗北。まるで垂直で巨大な一枚岩を前に手も足も出ず、撤退を余儀なくさせられたクライマーの様な気分で
食べ終わったのでした。
そんなこんなでとても美味しかったのに苦い思い出だけが残った『ウッドアイランド よこすか海軍カレー』。
あれから苦節三年の修行(そんな大した事はしませんでしたが)を経て、こうして再び対峙するに至った訳で
あります。その間数々の海外の戦闘糧食を食べ散らかし、時には消化器にダメージを受けて来た私にとって、
これは三年越しのリベンジ。斎戒沐浴を済ませ・・・た気分になり、いざ再戦です。
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まずは定石通り、パッケージから観賞です。錨鎖による文様で縁どられた正面には、煙突から黒煙をたな
びかせながら海上を突き進む戦艦三笠のイラストが描かれています。この辺りはいかにも横須賀らしいなあ。
セピアを基調としたレトロ感のある色使いの中で、マストに翻る海軍旗の赤がとりわけ目を引きます。
フォントは一見してレトロながらも現代アート風のお洒落感があり、これも横須賀らしい雰囲気。同じ歴史あ
る軍港でも、舞鶴や呉とは明らかに異なるテイストを感じます。
パッケージ裏面には、明治期にカレーライスが海軍を通じて広がった経緯やウッドアイランドのお店の紹介
が簡潔にまとめられ、お土産地域商品としての説得力も十分。押さえるべきところをきちんと押さえています。
また隅の方には、横須賀市のゆるキャラであるスカリンくんが小首をかしげているのがキュートですが、横
須賀市にはスカレーくん以外にもこんなのがいたんですね。
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ちなみにスカレーくんとは、横須賀市内のあちこちで活躍しているよこすか海軍カレーの公式キャラクター。
法律的には問題ないと思いながらも、いつディ○ニーに目をつけられるかと怯えている様な眼差しがちょっと
カワイイかもめの水兵さんであります。
余談はこれ位にして、早速試食にうつりましょう。十分に温めたレトルトを開封し、お皿のごはんにだばぁ。
そうそう、こんな感じだったなあ。やや明るめの茶色が懐かしさを誘う、ニッポンの伝統的なカレーライスその
ものの見た目ですね。まずは一口。
おお、このほのかなうどん粉っぽさ。小麦粉を油脂で丁寧に炒めてルーを作った古き良きカレーライス・・・
いや、ライスカレーと呼ぶべきでしょうか。一見して簡素な様で実は深く、シンプルでありながら奥行きを感じ
させるこの味わいは、今時ありそうでなかなかない個性だと言えるでしょう。
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最初に感じられるのは、上品な甘さ。それも何かが突出した甘さではなく、野菜や果実、チャツネ、砂糖類
が完璧な調和のもとに融合した、真円の様な甘さです。それ故に子供っぽかったり安っぽく感じる事は皆無。
実によく出来た甘口カレーであります。
とは言え、このカレーの本質は甘さだけではない気がするなあ。豊かで瑞々しい甘さを引き立てる、もう一
つの隠れた存在・・・軽い渋味の様なものが感じられます。このほのかな渋み・・・もしかして赤ワインかな?
均整の取れたまろやかな甘味を、穏やかに引き締める赤ワインの渋味。これがこのカレーのキモなのかも
しれません。
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時代は明治初期、創設されたばかりの海兵団に全国各地から志願した若者達が、食堂で初めて食べたカ
レーの美味しさに目を白黒させている様子が目に浮かびます。
「これが海軍のライスカレーかぁ、こんな美味いもの食べたの生まれて初めてだぁ・・・」
「りょ、料理長殿!隠し味はなんでありますか?」
「本当は秘密だが、貴様らには特別に教えてやろう、これはな、葡萄酒がちょっとだけ入っとるんじゃ」
「葡萄酒!?そんなもん見た事もないわ。やっぱり海軍はハイカラやのう・・・」
「国に帰ったら弟達に自慢すっぺよ」
そんな風景を思い浮かべながら原材料表記を確認してみると、果たして赤ワインは書かれてありませんでし
た。すみません、また適当な事を書いてしまいました・・・(笑)。
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スープカレーだのマッサマンだのとあらゆる方向に尖り続ける日本のカレー界にあって、こんなイニシエの
味わいがしっかりと息づいているのが、なんとも嬉しく感じます。
入っている具は角切りのジャガイモが2つと消しゴム半分ぐらいの牛肉が3つですが、よく見ると煮溶けかか
ったニンジンとタマネギも確認できますね。この懐かしい味わいにはベストなメンバーでしょう。
最初はこの淡く上品な甘さばかりに気を取られましたが、途中から意外なほどの辛さが襲い掛かって来まし
た。あ、これ甘口じゃないですね。後からじわじわ効いてくる時間差の辛みは珍しくありませんが、半分食べ
進んだあたりでようやく効いてく辛さというのは、ある意味3年殺しに匹敵する秘伝と言えるでしょう。お陰で中
だるみする事なく、最後まで美味しく頂けました。
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それにしても、穏やかな軽さはあっても薄さは感じさせないこの甘味・・・。日本人の原風景とも言える、ふる
さとの田園地帯をさらさらと流れる小川がイメージとして浮かびます。 ウサギ美味しかの山、小鮒釣りしかの
川・・・。厳しい海軍で一人前の男になって、いつの日か故郷に帰ろうという当時の青年たちの青雲の志が思
い浮かぶ様。
当時日本中から海軍を目指して集まった若者達にとっての最先端の味わいであったカレーが、現代を生き
る私に望郷や郷愁といったイメージを感じさせるのですから、世相に寄り添いつつ姿かたちを柔軟に変化さ
せながらも芯の部分では決して自らのあり方を変えようとしなかった食べ物って、つくづく面白いなあ。
たかが100年、されど100年。そんな不思議な時代感覚をも味わう事の出来る、他のカレーには無い個性
を持った『ウッドアイランド よこすか海軍カレー』。3年越しの再戦となりましたが、前回の借りを返すとまでは
いかないにしても、いい勝負ぐらいは出来たかな?
こうなると次はぜひ横須賀のお店を訪れて、三本勝負の決着としたいものだ・・・と思いながら、美味しく食
べ終えました。
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